【読書】チェ・スンボム『私は男でフェミニストです』
率直なタイトルがよい。そんな一冊です。
◆試し読みもできる公式サイト https://web.sekaishisosha.jp/posts/5358
日韓はフェミニズムで連帯できる
SNSで「今出版社もありとあらゆる会社もフェミニストを無視するようになった!」と断言している人がいました。それはどうでしょう。韓国発のフェミニズム関連書籍の刊行を見ていてもそう思えるのでしょうか?
そういうことを力強く言い切れる層って、年齢がだいたいわかる。今の“本物の”若者は、フェミニズムを見て見ぬふりをすることなんてできない。賛同するにせよ、反発するにせよ、目には必ず入れるものでしょう。
本作はそんな若い世代が直面するフェミニズムへの接し方を、男性が語るという画期的なもの。しかも彼は教師なので、若い世代と接する立場です。
母の苦労も、若者の苦労も理解する
この本は日本のフェミニズムの弱点も見えてくると思えます。日本のフェミニズム系の本を読んでいると、どうしても筆者の身近に引き寄せすぎていて広がりが見えてこない。筆者と同年代かつ生活環境も似ていないと、引き込まれないタコツボ状態じゃないかと思えてしまう。入り込めないんですね。
海外のフェミニズム本を読むと、母や祖母世代を起点にすることも多い。子の目から見て母がどう苦労していたか、その年代がどれほど苦難を乗り越えてきたか。今当たり前の権利や何やら、そういうものをどう得てきたか。その敬愛から始まる。本書もその典型例で、筆者の母が味わった苦労は読んでいてただただ、ため息をついてしまうようなものです。
そして筆者は、若い男性がどうしてフェミニズムを目の敵にするか、そこにも踏み込んでいるのです。韓国特有の事情やネットでの罵倒構造が実例混じりできっちりと書かれています。本書は韓国特有の現象や言い回しを、注釈付きで書いているからとても読みやすい。フェミニズムの勉強だけでなく、韓国の大衆文化も学べるから、韓流エンタメ全般が好きな方にもおすすめできます。
日韓はアンチフェミニズムでも相似系
これも興味深い。
女性を罵倒するネットスラングが「キムチ女」はじめちゃんと実例交じりで紹介されていて、かつ日本でも似たような言い回しがあると発見できます。
概念女=女性らしさの概念を実現する女性。日本ならばさしずめ「わきまえる女」
丸川珠代氏、山田真貴子氏…「わきまえる女たち」が築き上げた罪の重さ https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81137
大統領を独特のネットスラングで呼んだり、自分達だけが楽しめる言い回しでネチネチ絡んでいるあたりもそっくり。日本と韓国って、やることが似ているんですね。これなんかほぼ同じでは?
韓男=韓国らしいミソジニーに凝り固まった男のこと。日本ならさしずめ「ジャッポス」
「韓男」とつけた韓流俳優ムックがありますが、あまりよろしくないかと思います。
日本と韓国って、色々とそっくりなんですよね。たとえばドラマで嫁姑がいびりあう描写。あれって万国共通でもなく、欧米圏では義母と婿の対立がお約束。そういう暗黙の了解があるから、韓国では日本のエンタメが受けていたし、今日本でも韓流が受けると。そこを見間違えちゃいけないんですよね。
改めて、ほんとうに、海を隔てたきょうだいなんじゃないかと思った。これはズバリ近代史も関係のある話で、たとえばハンセン病隔離については日韓が世界でも悪質な隔離をやらかしていると。これはあの渋沢栄一も推奨した優生学ベースの政策ゆえ。韓国のミソジニーにも、日本の明治政府が持っていた女性蔑視が流入しているのではないかと私は気になって仕方ない。
と思っていたら、『週刊金曜日』でそこをズバリと暴く連載が始まって興味深い限り。
やっぱり日韓は連帯するしかない! 上野千鶴子先生の本もすすめられているし、そもそも上野先生も解説を書いているし! そう言いたいんですけれども、日本のフェミニストが韓国のフェミニストにレイシズムをするところを目撃したからなんとも言えない。みんなで連帯を呼びかけようとは思わないけど、私はいろいろ彼らから学んでできる限り協力すべきだと言う考えを強めました。
本書は伝統的な文学や、慰安婦問題へのアプローチからフェミニズムを学ぶ方法もきっちり模索されています。ものすごく勉強になる一冊です。
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