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『三国志 Secret of Three Kingdoms』(原題:三国機密之潜龍在淵) BL三国志か、それとも?

 Amazonプライムにて配信中の『三国志 Secret of Three Kingdoms』――これは見るしかない! 
 そう断言したいようで、かなり曲者、際物のドラマです。そして『麒麟がくる』とセットで見たい作品でもあります。しかし、勧めにくい作品でもある。

実はとんでもなく上級者向け

 本作は、ものすごく不親切仕様なので、とても勧めにくい作品です。というのも……

・『三国志』なのに、劉備も孫権も名前だけしか出てこない
・そのうえ正史『三国志』も『演義』も知っている前提で話を進める。どの戦いで誰が勝ったか、どうしてそうなったか? そこまで把握していないと理解できない
・官職や字で呼ぶから、これまた大変
・任紅晶がらみは、相当マニアじゃないとわからないのでは?
・ヒロインの伏寿も唐瑛も、名前と設定だけを使ったオリジナル人物のような自由度
・武侠知識がないと理解できない部分がある
・そもそも献帝がこんなに目立つって!

 初心者は出ていってもらって結構ですよ。そう言わんばかりの厳しい前提条件です。しかも、トラップのような部分もある。
 なまじ美男美女が多く、合戦シーンがほぼないだけに、「女性向けだよね」という意見もあります。女性向け=難易度が低いという偏見ありきの罠にかかると、これまた厳しい目にあう。
 ぶっちぎって難解な『三国志』ものです。前提として、正史と『演義』を理解していないとわけがわからないことでしょう。最初に見る『三国志』ものであってはいけません。
 
 曹丕と曹植が武功でも競うとか。そういうパッとみたところとんでもないような設定が、実は学術的な裏付けがあるので、全く油断ができないおそろしい作品です。

BL三国志であった……

 そんな本作をどう表すべきか?
「BL三国志……」
「それですな!」
 そう意見が一致しました。いや、全部BLで読み解けばだいたいわかります。
 本作は、献帝が崩御しており、双子の弟・劉平と入れ替わるという導入部です。この劉平は、出生を隠し司馬懿の弟のようにして生きてきました。司馬懿は弟がいなくなったことに義憤を覚え、許都まで乗り込んでくる。
 はい、これはもうこれですよ。

司馬懿×劉平(献帝)

 いや、妄想じゃないんだ。献帝の妻である伏寿は司馬懿のことを夫が話すと嫉妬を見せるし、郭嘉は「司馬懿と陛下、できてない?」と言い出すし。だいたいこのカップリングであってる。

 と、思っていると曹操陣営もBLでつながっている親切仕様。

郭嘉×満寵

 満寵というそこまで知名度も高くない謀臣が、郭嘉を推しすぎていてつらい。郭嘉のためならスープを作る。ともかく郭嘉推し。常に郭嘉のことばかり考えている。一体なんなのか? しかも、この満寵は癒し系です。陰謀ばかり企んでいて「毒蛇」呼ばわりされるものの、癒し系ギャグキャラというおそろしい設定。もう、この満寵だけで、本作は傑作疑いなし!
 この満寵が「ダーリン(郭嘉)が愛した陛下にわかりみ胸キュン……」しながら火災現場で救助をする場面は、見ていてもうどうしたらよいかわかりませんでした。
 演じる屠楠は林遣都さんに似ている。秀吉を猛烈に推していておかしくなった、そんな石田三成を彼で実写化すべきだと強く思いました。実現しますように!

 そんなおそるべきBL三国志が展開される中、中盤でやっと曹操も出てくるのですが。

曹操×郭嘉(荀彧)

 こういう構図なんだなぁ。司馬懿だって郭嘉に「そっちの曹操とあんたほどできてねえし!」と言い返すほど。このドラマは、君主の徳をBL愛で表現するという暴壮挙(造語しました)の極みを大真面目にやらかしているからすごい。傑作です。私が今までみた『三国志』もの実写版のベストです。これ以上を今後、見られるかどうか。
 曹操は、正室の卞氏といろいろありましてね。女性不信を男で癒すようなところはありますよね。郭嘉は女好き設定なんだけどさ。曹操が女遊びをする場面は一切ないんですよね。

「黙れ貴様! お前が腐っているからだろ!……騙されんぞぉ!」
 そういうツッコミはさておきまして。脚本、演出、キャスト、衣装、小道具。何もかもがレベルが高い! 衣装や髪型の再現が各人や個性を出しつつ凝っておりますし。食事シーンが多いのですが、当時の料理や食器を再現するだけでかなり面倒なはず。それをこなしているところがいい! 酒を飲む時、注ぐのではなくて器からおたまですくって飲むあたりがいいんですね。見ているだけでワクワクする!

 当時の建物を忠実に再現したうえで燃やします。所作も綺麗。何もかもが極めて真面目に作っていると思えるのです。ちょっと昔のこの時代ものは、甲冑が明代。女性の衣装が唐代。そういうごちゃまぜ感につらいものがありましたが、本作はその点安心です。
 有名な合戦シーンがない、セリフ処理ばかりであるのに、本作オリジナル合戦はきっちりとこなします。
「戦闘シーンを撮影できないわけじゃありませんよ。やらないだけです!」
 そういうプライドが随所にあって、ともかくしぶい。画面が綺麗にきっちりと作られているし、カメラワークや所作も綺麗なので、眼福この上ありません。

 それでもやっていることはBL……いやちょっと待ってくださいよ。曹操が『短歌行』読むし。曹節が玉璽ぶん投げるし。名場面づくしなんですけどね。とんでもないようで、かなり真面目かつ、最新の研究を踏まえているプロットだとわかります。曹植が軍事的な活躍をしていることもそうだし、曹丕と甄氏の決裂に曹植を絡めないあたりも、頷けるものがあるのです。曹操が帝位につかない理由も、かなり説得力を持って訴えかけてくる。

 と、こういえばまっとうなようです。しかし、繰り返すように本作はBL三国志だからさ。

 曹操が献帝に嫉妬して「どうしてあんな奴が俺よりモテモテなんだよォーッ!」と悶えたり。司馬懿がドリーム結婚式したり。闇堕ち司馬懿が黒い服を着て、盛大なスモーク背景にして曹丕のスカウトに応じたり。劉平が闇堕ち司馬懿をグーパンチで殴ったり。伏寿が「私の夫の心を!」と司馬懿にイライラするし。司馬懿が初体験報告をウキウキワクワクするし。曹丕がヤンデレになって何もかも企むし。荀彧の死の描写がBL破局にしか見えなかったり。満寵がそこにいるだけで笑えてきたり。まあ、何を言っているのかわからないとは思いますが、とんでもねえ場面が続出なんですわ。これは見るしかない。見ないでどうするのか?

 満寵は別格として。特に私が感動したのは、謝君豪の曹操です。自分がイメージする曹操とピッタリ一致する。曹操は不細工で背が低いと言われる。本当に顔立ちが不細工だったとは、私はあまり思わないのです。
 魏晋南北朝がイケメン絶賛時代ということも、考えたいところですが。そして当時、長身が美男の条件となると、背が低い時点で不利。そして『曹瞞伝』あたりから察するに、曹操は空気を読んだりTPOを踏まえることができないのです。いつもポーチに必需品入れて持ち歩くし。フィットする服を着るし。現代でいえば、スーツにネクタイでいるべきところでスウェット着ているような奴ですわ。裸足でダッシュしたり、手をパチパチしたり、ゲラゲラ笑い転げたり、正史の記述の時点で、十分に落ち着きがないとよくわかるのです。
 謝君豪はこのタイプを見事に演じきっている。小柄で童顔で、かわいげもある。それなのにいきなり怒鳴り散らすし、キレ散らかすし。困った奴で。そうそう、こういう曹操が見たかった! 微妙に威厳不足で、セカセカしているなところが絶妙でした。初登場時、司馬懿からただの下っ端と勘違いされる理由もわかる。この曹操だけでも100点満点中180点くらいいきそうですが、そういうことだけでもないのです。
 王陽明の郭嘉も、今まで見た中で最高の出来。これぞ郭嘉としか言いようがない.イメージ通りで、素行不良と呼ばれた理由もわかります。荀彧や賈詡もすばらしい。いちいちイメージ通りなのでともかく参ります。
 ヒロインたちも素晴らしい。万茜の伏寿、董潔の唐瑛。全員、適材適所です。

 献帝こと劉平、司馬懿、そして曹丕はイケメンで何かがおかしい……まあ、そこはBLですからね。イケメンは大事なのです。いやいや、BLだけでなく、ヒロインとイケメンの愛も美しく凛々しく、見応えあり。ロマンスもバッチリだ! まあ卞氏が割を食っている感はある。諸悪の元凶はこの人ではないかと思いますが。
 これこそ、2010年代半ば以降の最先端歴史ドラマですぞ! えっ、BLが? いやそうでなくて。

非風非幡の歴史劇

 BLだけじゃない。そういう需要に応じてどうする! そんな豪華で真面目にBLしてどうするのか、って話ですけど。
 ここから本気になります。真顔です。ゆえに申し訳ないが有料で!

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