時代への終止符
夏目漱石の『こころ』
今を生きる「わたし」が過去を生きる「先生」との出会いから物語が始まる。
「先生」が大きな暗い影を背負いながらも生きていかなければいけなくなった過去。
人から裏切られた過去から人を疑うことが当たり前になり世の中の全ての人間に疑心の目を向ける生き方。
何も知らずに「先生」を理解しようと努める「わたし」
その間に図らずして生まれるこころのすれ違い。それがすごく切なく、もどかしい気持ちになる。
最後に「先生」が「わたし」に綴った過去。
それは人間が恋をして世界が色鮮やかに染まっていく美しさと、その裏には人間の根底に闇が存在することを証明していた。
その闇は、誰かを傷つけようと意図して出てくるものではなく、誰かを想い、悩んで行く上で、理解し合うことに踏み出せずにいることでお互いがすれ違い、無意識に生まれるものである。
それは冷たく、鋭く研がれたナイフの様に気付かぬうちに人を殺めてしまうものだった。
時代が大きく変わろうとしていた明治。
明治天皇の崩御と乃木希典の殉死。
2つの出来事が起こったことで明治時代の終焉を意味したのと同時に明治を生きた「先生」も明治の精神に殉死する道を覚悟した。
明治時代を生きた人々の精神。
乃木希典のように信頼する人のために命を賭けるぐらいの覚悟を持てるのか。
自分は平成に生まれ、生前退位で幕を閉じた平成。
平成の精神とはどんなものだったのか、考えたこともなかった。
今、新しい時代へと移り変わった令和。
凄まじい速さで変わり続ける世界を前に、自分の中で変えてはいけないもの。変わらないものを手に持っていることが令和の精神なのだと思う。
日本人が事実として持っている過去の精神を、もう一度掘り起こす事が令和の精神を築いていくと感じた。
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