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映画「スオミの話をしよう」感想(ネタバレあり)

滑稽さの中にひそむ皮肉

三谷幸喜のイメージもあってコミカルな面ばかりに目が行きがちだけど、実はけっこう考えさせられるところもある。


主な感想

本作の見どころはズバリ、「長澤まさみ七変化」

目線と表情と口調(言語)をころころ使い分けてスオミの人格を表現する長澤まさみ。その落差がすばらしい。

何気ないしぐさでその時々の心の機微を表す草野役の西島秀俊もそうだ。

つい最近みた「なかい to だれか」で三谷幸喜が、「役者に求めるのは共通言語を理解すること」と話していた。

一緒に出ていた西島秀俊の「(考えごとをしながら)鼻を触るしぐさ」が三谷幸喜のイメージと一致するらしい。西島秀俊の草野はまさにそれに応えたようだ。

演技に見えない何気ない演技だからこそ、第一線で活躍する俳優なのかもしれない。

三谷幸喜の神経質がチラ見えしてそうなこだわり

この映画公開に先駆けて、三谷幸喜がメディアのあちこちでプロモーションをしてるのを見かけた。

そこで三谷幸喜のこだわりの強さや神経質な一面に興味がわいたのが本作を観たきっかけでもある。

確かに三谷幸喜のこだわりがふんだんに詰め込まれた映画のように思う。

このこだわりを見事にこなすのが俳優や製作スタッフのすごいところなんだと思う。

こだわりの一つかもしれないが、長澤まさみの衣装がいい。とても似合っている。

気に入ったのは、大富豪の詩人の妻として着ている鮮やかでゴージャスな衣装や、最後白Tシャツをタックインしているカジュアルなスタイル。着こなしが完璧に映える。長澤まさみのセーラー服姿も含めて七変化である。

瀬戸康史の立ち回り

他に印象に残っているのは、スオミの夫や元夫でもない瀬戸康史の立ち位置。その立ち位置はとても絶妙で嫌味がなく、スオミに直接関わらない第三者としてとても忠実だった。

それだけに終盤、ようやく初めてスオミと夫・元夫たちが向かい合う場面で同席できず「自分だけ会ったことないんです!」という主張は思わず、そう言われてみるとそうだったと思い直す。

現夫・元夫たちのキャラに飲まれずに、スオミに関わる人物の中で唯一の部外者として場を回していくのは、むずかしい役どころだったのではないか。他のベテランや実力派の俳優に囲まれて、とても大変な役だったとおもう。

モダンチョキチョキズ濱田マリっぽい宮澤エマ

忘れてはならないのが宮澤エマ。彼女のコミカルな演技もこのコメディに大事なスパイスを効かせている。このノリは濱田マリ(モダチョキ)に非常に似ている。

スオミの中学の同級生だったことは明かされているが、その素性がはっきりしなかった。これが本作最大のミステリーかもしれない。

随所にさりげなく張られていた伏線が終盤に向かって回収されていく

一番気に入ったのはスオミと草野が初めて出会ったシーン。

スオミが身につけていたペンダントを、もっと短くした方が良いと草野がアドバイスする。それから時間が経ち、終盤の真相解明パートでスオミがつけていたペンダントは、草野のアドバイスどおりのポジションに収まっていた。その長さは確かにベストポジションだったと思う。スオミの中に、元夫の草野が残っているニュアンスを感じられたシーンだ。

上述の瀬戸康史が一度もスオミに会えなかったこと。これがマッチングアプリでデート相手を見つけるエンディングのいち場面につながって、ちゃんと伏線になってたのもおもしろい(しかもなぜかジーパン刑事のコスプレ)。

もっといえば、松坂桃李の十勝左衛門が指摘した「スオミの夫の規則性」が最後の最後で回収された。

二重三重の風呂敷の折りたたみに気づいておもわず「おおっ!」と驚きでうなってしまった。

長回しの撮影が随所にあり、独特の緊張感が伝わる

オープニングから短めの長回しがあり、そこからどれだけ一場面が続くんだ?と思うような場面がつぎつぎと出てくる。

舞台演劇を観ているかのような撮影シーンの長回しは見ごたえがある。

言い淀んだり、三谷幸喜のこだわりを雑に扱うことが許されないプレッシャーの中で、演じることの大変さがわかった気がする。

本作一番の驚きは長澤まさみの歌のうまさ

公式サイトを事前予習しておけば予想できたシーンだろうけど、そこまで予習はしてなかったのでミュージカル調のエンディングはちょっとしたサプライズだった。

エンディングとはいえ、インド映画で突然歌って踊りだすような文脈に関係ない唐突感。かなり好き。

長澤まさみの歌声はかなり好きな声。こういう歌い方をする女優さんなんだとおどろいた。

旅行中の飛行機で観るぐらいがちょうどいいポジションの映画

はっきり言ってしまうと、映画館でわざわざ観なくてもいいとは思う。

自分自身数えるほどしか舞台を観たことがないけど、長回しも含めて舞台っぽいなとおもう演出が随所にある。それを映画に求める人と舞台で期待する人とで、好みが分かれそう。

でも、映画やテレビドラマの中で舞台さながらのライブ感を見せつつ、俳優の目や口の演技や細やかな演出を見せるのが三谷幸喜の良さだとおもうので、本作は満足する一本だった。

まじめな話

夫たちはスオミの一面でしか捉えてない様子が描かれている。自分が知っているスオミは、他のだれかが知っているスオミではない。それを象徴するのが、「わたしが知っているスオミではない」というセリフ。

スオミがなにを考え、なにを望んで、どういう生き方をしているのか、夫たちはだれも分かっていない滑稽さを皮肉っている。

そのシニカルさをコメディの笑いでうまく包んで映画に仕上げられているので、後味の悪い不愉快さは感じなかった。

ただ、「あなたはこういう人でしょ?わたしはあなたをよく知っている」と言わんばかりの夫たちの振る舞いに、心当たりのある女性には愉快なだけの映画ではないかもしれない。




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