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心の中の記憶10 私の影をあかりで照らす

今日も、娘がしにたいという。
ほぼ毎日、その時間はやってくる。リスペリドンは処方されている。

去年の夏は酷かった。ころしてよとしつこく頼まれた。ホテルで、高層階のベランダから突き落とせといわれた。首を一度、締めるふりをしてみた。涙が出た。泣き叫び、疲れ果て薬が効き、娘は眠る。
息子は泣いて逃げ出す。隠れる場所がないホテルで、息子はバスルームの浴槽にうずくまっていた。

お母さん、怖いよ。しにたいよ。どうすればいいの、ねぇ、お母さん。
私が返せることばは、生きていれば、しにたくもなるけど、人生は続く。いつか死ぬことだけは決まっているよ。消えたいほど嫌なことなら、やらなくていい。
30分から1時間、娘はつらつらと訴え続け、自分でガス抜きをしていく。

たまに、娘のことばに耐えられなくなる。
思い返せば、私もずっと娘と同じことばを心の中で繰り返していた。
小2のときに、しっかりそう思った。
帰ったら屋根から飛んでみよう、登校中にそんなことを考えていた。
背後から突然、一軍女子が、だーれだ♡とレモンの香りをふわっと香らせた手袋で目隠しをしてくれた。ああ、生きていようと思った。

胸の内をいったら大人に怒られるから、隠居したいといっていた。
「私の夢は隠居することです」大学まで本気で思っていた。日本文学を学びながら、憧れるのは兼好法師、松尾芭蕉、すべてを省略した隠遁生活。尼さんになる、シスターになる、とにかくどこかに逃げたかった。

最初、娘はいつも「帰りたい」とつぶやいていた。聞かれてもいないのに、私は、どこに帰るっていうのよと、ぶっきらぼうに返事をしていた。
娘は少しづつ元気になって、帰りたいとはいわなくなった。ことばは、変化している。

同居していた祖母と母は、仲が悪かった。昭和の嫁姑戦争。祖父は認知症で、父は企業戦士。三姉妹、3才差。どうしても、長女は仲介役だった。

祖母はとても意地悪なところがあった。不満を外に流して、生きていた。母は空気を読めない。私が気にしないなら、誰が気にするの?
小さな妹達は私が守る。いつも怒っている母親の機嫌を、良くしてあげなくては。私はすべてを拾ってきた。小さな私なりになんとかしてきた。本当に小さかった6歳とか、7歳とか。

娘と比較する。私が、これまでどんなに我慢してきたか。自分の気持ちは、誰にも伝えてこなかった。伝える相手がわからない。逃げ惑う自分の影。
亡くなった祖母の不平不満が、娘の毎日の叫びに重なる。無視しながら、聞き続ける。私がどうにかしなくては、、、、。

娘が不登校になってから、たくさんの本に救いを求めた。スーザン・フォワード『毒になる親』を読んだ。インナーチャイルドのセッションを受け、勇気をふりしぼり、両親に思いを伝えてみた。
解決したと思いたかった。キラキラと小さい私が微笑んで、ほっとする姿をイメージすることを、念じた。

空気を読む天才。たぶんそうだと思うのは、よく大人に褒められたから。自分の感情は、どこにある?今でも、たまに褒められる。

空気の読めない夫と結婚した。
適当で詰めが甘い、良い人。結果、あなたは結婚して良い意味で適当になったねと、母親にいわれた。

妹がいう。人の言葉は、3割だと思って受け流すものだと。気持ちが悪い、本気にしてるの?ということばが、胸に刺さる。

私は、8割だと思って生きてきた。あなたがやりたいのなら、精一杯力を貸す覚悟を持って話を聞く。可能性があるならば、やりたいことがあるなら、あとは叶えるだけではないのか?叶えるつもりがないのに、他人に伝える意図はどこにある?!

娘の精神病院でカウンセラーに、たまに対処できないことがあるんですよねと軽く話した。「それで良いと思います。横で毎日きいていたら、そうなります」といってもらう。

なんでもやるから、娘のその感情を消したい!
娘よ、解決できない私に、これ以上、気持ちを伝え続けないで!!

しにたいという気持ちがあるのは、前世の影響かもしれないとアドバイスされ、前世セッションを受けてみる。祓ってもらったはず。消えないことば。

生きる意味が、そもそもわからない私のことばには、力がない。生きる意味を探して、
飯田史彦『生きがいの創造』を読んだ。
結論は、愛。生きることで人生の問題集を解いている。そのままでよい。答え合わせは、光がいつかしてくれる。

私の影は、愛の手前に存在している。祖母の呪縛に囚われる。祖母の人生。祖母の感情。
昔の小さな私。大丈夫、できるだけのことはした。無理なものは無理なんだ。気づいていいよ。もう、いいんだよ。

よく頑張っている。娘と祖母は、異なる人間。
娘の不平不満は、ガス抜きの一環。人生に絶望しながらも、毎日、立ち上がって笑顔をみせる。
自由に感情を表現しているとすれば、素晴らしいことかもしれない。私も、十分頑張ってる。
さぁ、私よ、娘を抱擁するんだ。大きな愛で、丸ごと包み込むんだ。

そうはなれないことが苦しくて、誰か助けてと、娘と同じ言葉を心の中で呟く。
夫とは、横並びの家族。この20年で納得した。
自分を愛で包んでもらう期待はするな。寄りかかる相手ではない。

誰にも寄りかかる必要はない。自分で自分を包むんだ。私は愛されるに値する存在。私は私を世界一、大切にする。ぎこちなかったアファメーションが、今では、難なく口にでてくる。

シャンパンタワーの法則。私の空洞部分を何で埋めよう。思いつくまま溢れるまで、散財?読書?映画?旅?友達とのおしゃべり?恋愛?美容ケア?私はひとりでどう生きてきた?

隠居したいと願いながら、楽しいことをしながら苦しくて、結局、逃げ出した。誰も知らない、誰にもことばが通じない場所を選んだ。

親ガチャということばが、まだないころ。
人生イージーモードなんてことばも、存在しないころ。

逃げた場所で、わかったこと。
まだ内戦の傷跡が残っていた中米、グアテマラでイギリス人の男の子が教えてくれた。
私達はずるいかな?生まれた場所によって、人生に差がつく理由はなに?
「受け入れるだけ。そういう星の元に生まれたなら、そういうものだ。」

「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」

宗教法人カトリック善き牧者の会 機関紙「心のともしび」

私の影をあかりで照らそう。
大きな愛で包んでいこう。

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