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【ショートショート】 100円あげる
「100円あげる」
「なんで?」
「あげる」
「理由を言ってよ」
「とにかくあげる」
「いらないよ」
「なんで?」
「とにかくいらない」
「受け取るだけでいいのに」
「わけもわからずにはもらえないよ」
「だいたいの人は受け取るのに」
「僕はそのだいたいの人には含まれないんだ」
「高尚なんだね」
「普通さ」
「あるお爺さんがいてね」
「お爺さん?」
「道端で偶然会ったときに100円をあげたんだ」
「受け取ったの?」
「そうしたら、毎日俺を探すようになって」
「それで?」
「お爺さんが友達のお爺さんへ、友達のお爺さんが他の友達のお爺さんへとどんどん広がっていって」
「口コミで広がったんだね」
「町で知らないお爺さんに出くわすと、手の平を出して、100円頂戴って言われるようになった」
「怖いね…」
「そのうち自宅がバレて、毎朝俺の家の前に行列をつくるようになって」
「ヤバいね、それ本当の話?」
「近所迷惑になるし、仕方ないから一人ずつ100円をあげると帰っていった」
「いくら使ったの?」
「昨日は4800円だよ」
「100円とはいえ、馬鹿にならないね」
「そうなんだ。少しずつ増えていってるし、先月は11万円くらい使ってしまった」
「警察に相談した方がいいよ」
「100円くらいで事件にしてくれるのかな」
「皆勤賞でも一人月に3000円か」
「毎日毎日、100円をもらって嬉しそうに帰って行くのを見るとつい…ズルズルいっちゃうんだよね」
「今どき、100円じゃあダイソーにも行けないのにね」
「100円をもらうことが目的じゃなくて、並ぶことが目的になっているように思う」
「そういうもんかなあ」
「例えば、受け取るものなんて、本当はなんだっていいんだ。石ころでも」
「石ころをもらって喜ぶ人なんていないよ」
「並ぶことにこそ、価値があるのだとしたら」
「例えば、本当はラーメンが食べたいんじゃなくて、並びたいだけの人がいるってこと?」
「お爺さんたち、なぜかみんな幸せそうだった」
「100円もらったからじゃないの?」
「石ころをあげても同じことだよ」
「よくわからない。何が言いたいのか。11万も損して」
「お金なんて石ころと同じだよ」
「言ってる意味がよくわからないなあ」
「100円あげる」
「だから、いらないって」
「この100円を誰かにあげるだけでいいんだ」
「僕の家の前に行列ができても困る」
「替わりに石ころをあげればいいよ」
「バカバカしい」
「人を喜ばせることができれば、それはどんなものより価値があるんだ」
「石ころでもかい?」
「たとえ、石ころでも」
「本気かい?」
「そして、本当は君に会いに来るのかもしれない」
「なんで?」
「本当の君は、誰かを喜ばせることができる人だから」