美大浪人生が、ルックバックを観た。
もしかしたら長くなるかもしれないから、もし暇な人がいたら、私の愚痴に付き合ってやって下さい。
私は美大浪人生です。油画科、しかも多浪。
毎年冬になると病む。手が動かなくなって、何も思い浮かばない。予備校には行くけど、白い画面(紙のことを画面と呼んでいます。)の前で4時間座り続けるけど、良いアイデアは何も浮かばない。
一日を無駄にしたと思いながら家に帰る。こうしている間にも、見えない受験生たちはもっと良い絵を描いているに違いない。そう思うと涙が止まらなくて、周りに嗚咽がもれないように布団を頭まで被って寝ます。
(今もそうです。これは予備校の廊下で書いている文章です。きっとアトリエに戻ったら、私より絵が上手い人たちが先生に褒められながら描いているんだろうなと思っています。)
大学は、毎年違う課題を出してきます。傾向だとか、そんなもの無いに等しい、強いて言うならば傾向がないのが傾向です。そして受験生たちはそれに振り回される。
どうやら、大学側は対策されるのが嫌いらしいのです。だからヘンテコな課題を出して、みんながアタフタする中で本物の天才がサッと描いたものを評価して、1000人の受験生の中でそういう人たちが欲しいらしいのです。
けど、やっぱり対策はしなくちゃいけない。
じゃぁ何するかって言うと、「絵作り」です。
「絵作り」は、絵の型みたいなもので、構図、モチーフの配置、色面、質感、そういうのを全部パターン化するんです。例えばモチーフの出題がきたらこのパターン、文章課題(○○をテーマに描きなさい、とかそういう文章として出題されるもの。)だったらこのパターン、そういうのを全部決めてから試験に挑むんです。
一般的な合格の道筋として紹介されるのは夏期講習でパターンを完成させて、2月までにそれの完成度を上げていく。そういう人が多いらしい。
でも私は11月までそれが出来なかった。
一浪の時に、1回パターンが上手く出来て、コンクール(予備校内での模擬試験みたいなもの。)もバンバン上位に言って、先生からも「今年は受かるよ」なんて褒められた時期があったんですけど、その年は不合格。11月に試験要項が発表されて、突然道具の制限がかかっちゃったんです。
今まで試験はかなり緩くて、何使っても良かった。何なら油絵科なのに油絵で描かない絵も受かってた。それなのに、その年は急に冬になって油絵具だけに制限されちゃった。乾きの早いアクリル絵の具、マスキングテープ禁止。私はマスキングテープのピシッとした線が好きだったから、それが冬になって急に使えなくなって、絵を見失っちゃったんです。
それからずっと、絵のパターンが作れずにここまできてしまった。そして今年も11月になってしまった。対策と自分の描きたいものの間で揺れ動いていたら、もう自分が何が好きで、何が描きたいかも分からなくなった。
自分を追い込みたかったのかもしれませんが、「ルックバック」を観たのはそんな心持ちの時です。
そんな人がルックバックなんて映画観たらどうなると思いますか?フラッシュバックの連続で大号泣でした。
私もね、実は藤野みたいな体験をガチでやってるんです。小学校で、周りに自由帳持ってる人が私くらいしかいなくて、ずっと絵描いてたら周りが持ち上げてくれて、それが小学校3年生の時に、私より上手い人が転校してきたんです。
まじで上手くて。本当に悔しくて。当時骨格とか知らなかったから、絵の練習の為に漫画の模写をずっとやってました。それをあのシーンでめちゃくちゃ思い出して泣いちゃった。
それに、あの藤野の机に向かう姿勢。立膝ついて、肘を手前に引いて、首を斜めに傾げてるアレ。
めっちゃ分かる!!!
漫画描いてると、初めは紙の上の方だから、小さい体だと腕が伸びてる。首も結構伸ばす感じになる。それが段々進むにつれて下のコマになると伸びてた肘がピタッと脇につくんです。首も痛いし、姿勢悪いから腰も悪くなるし、でも手止まんないんです。
当時は何も考えてなかった。上手いとか下手とか全然考えてなくて、ただ本当に描くことだけが好きだった。小さい頃から四六時中描いてた記憶がある。
このシーンだけじゃなくても、言語化するにはあまりにも極微小な感情の変化がめちゃくちゃ丁寧に描写されてて凄いなと思いました。
京本が美大にしたいって言った時も、多分藤野は全部否定できなかったんだろうな。「行っても何の意味もない。」でも藤野も京本も絵が好きだから止められない。
その後、あのアニメ会社を彷彿とさせる事件が起きて、京本はこの世を去る。
藤野が泣きながら、「私のせいだ」って言うんです。でも結局、藤野が漫画を描こうが描かないが、京本は美大に進学する。ここで、漫画を描く意味が分からなくなる。
「描いて何の意味があるんだろう。」
もう心のど真ん中をナイフで刺された感覚です。
こんな事に何の意味があるんだろう。
大学の求めてるぽい絵作りをして、自分の好き嫌いも分かんなくなって、描くのも辛いし別にこの世の中に発信したいメッセージなんてそんな大層なもの1つもない。別に石渡されたってトレーシングペーパー渡されたって、そんなもの描きたいんじゃない。
でも、目の前に紙あると描いちゃうんです。
本当にそれだけの理由。
こんなボロクソになりながら何で描いてるのか、藤野は「読んでくれる人がいるから。」だったけど。この映画を観て、何かそういう大切な核心を思い出せた気がします。
音楽って馬鹿にされないんです。まずハードルが高いから。ピアノなりギターなり、まずやり方を覚えたり曲弾くのもめっちゃ大変だから。
でも、絵は馬鹿にされるんです。ハードルが低いから。紙とペンさえあれば誰でも○描けるしそれなりに描ける。だから美大って言うと「お絵描き」だとか「遊び」だとか言う人が一定数いる。
でもね、この世界でどれだけ自分の好きを忘れずに貫き通すのが辛いことか。
そういう熱い心を持って描くことは才能だと思います。庵野秀明も「この国で好きを通すのは難しい」って言ってました。
もうやめちゃおっかな。この大学じゃなくても良いんじゃないかなって思ってたけど、やっぱり絵は好きだし、やめらんないし、この大学に行きたいって思い直せました。
もうカスみたいな大学ですよ。どっかの国のアーティストもろパクリの絵が受かったり、毎年禁止道具とか絵のサイズすら冬にならないと教えてくれないし。多分どの大学でも絵は描けるんです。てか大学行かなくても絵は描ける。でもさ。どうせ描くんだったら、同じ熱量の人たちと描きたい。
なんか感想って言いましたけど、全然感想書いてないし、その短い感想ですら文字にするとめっちゃ浅い。いや、言葉とか文章下手だから絵で伝えようとしてるんです。
もし次にnote書くことがあったら、美大受験について書こうかな。。。どれだけ大変か、いつかどっかの誰かに参考になれるように。。。
てか、ルックバックって、やっぱりoasisから取ってるんですね。oasisだいすき。
Don't look back .
Don't look back in anger.
私も今日みたいな最悪な一日を、「まぁいいんじゃない」って認めてやりたいです。