その「帰りたい」大事
結局、3泊4日の予定だったスクーリングは一泊した翌朝にリタイアした。
前日、施設に到着する前に緊張は既に極限状で、昼食を摂ろうと途中寄った店では好物の唐揚げがほとんど喉を通らないほどだった。
にも関わらず、到着直後の開校式、からの「情報」の授業2時限という、日頃は週に一度登校するとき以外家でじっと絵を描いている娘にとっては驚異的なハードスケジュール。
授業の間、宿舎の部屋で待っていた私は、娘がさぞやぐったりとして戻ってくるだろうと思っていた。
しかし、「二進法って言われても、訳わからんし」と言いながら部屋に入ってきた娘は、想定外の清々しい顔をしていた。
「ディスカッションの時はグループの誰も何も言わないから、私が話題を振った」
「女子は話に乗ってきたけど、男子ふたりは全然話に入って来なくて、オイッて感じ」
などと、テンション高くしゃべる様子を見て、おっ?これは行けるかも?と少し期待した。
が、しかし。
夕食のハンバーグ定食が用意された食堂に一歩入った瞬間、嗅覚過敏な娘はこもったにおいに耐えきれずトイレに駆け込むことになった。
吐き戻してスッキリしたせいで、幸い自室でではあったがハンバーグは完食した。
しかし、そこで遂にバーンアウト。
「もう帰りたい」「今すぐ帰りたい」と言い出した。「じゃあ、先生に相談してごらん」と私。
困りごとや自分の考えを言葉にするのが、今回のスクーリングの目標のひとつだった。
そこへ担任の先生が様子を見に現れた。
「先生…あの…もう帰りたいです…」
おぉ。言えた。いつも、相手が自分に求めているのはどんな言葉なのかばかり気にする過剰適応の娘にとって、自分の気持ちを言葉にするのは非常に勇気がいることなのだ。
「帰りたい」という言葉が遂に娘の口から出て、ああやっぱりという軽い失望は確かにあった。しかし同時に私は新鮮な驚きを感じた。