銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第七話 彼氏とわたしと非日常(7)
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「絶対に『銀河一の操縦士』になってね。約束よ」
「当たり前さ、約束する」
フローラとの最後の約束を、俺はまだ果たせてねぇ。
未来って言葉が俺の中に存在すること自体が許せなかった。とにかく、すぐにこの世界から俺自身を消しちまいたい。そうすればフローラに会える。
後を追おうとしたらジャックに止められた。
「お前が『銀河一の操縦士』になることはフローラの夢だ。それを叶えるまでお前を死なせるわけにはいかん」
自殺したら約束を果たせねぇ。けど、銀河一の操縦を追い求めて事故死するのは許されるんじゃねぇか。
『死にてぇ』
将軍家を出た俺は、危険な飛ばしに明け暮れた。アレグロに言われるまま『裏将軍』を名乗り、死に場所を求めた。
このバトルで『死ねたらいい』
そんな俺の希望を、生存本能って奴が邪魔をした。操縦桿が勝手に障害物をよけていく。生と死のヒリヒリする境目を超えられず、『あの感覚』にもたどり着けず、死にぞこなった自分を持て余していた。
事故死をする奴がうらやましい。俺は何人も殺してきた。人は簡単に死ぬ。なのに簡単に死ねない。息をするのも苦しい。
何も考えられず、船を飛ばすことしかできねぇ俺を、アレグロと御台は支え続けた。
時間ってのは不思議な力を持ってる。積極的な死への願望は、少しずつ変遷した。『死にてぇ』が、『死ねたらいい』に。
そして、俺は悟った。死にかけた大爆発の炎の中で。あせらなくても人はどのみち死ぬんだってことを。フローラには必ず会える。だったら『いつ死んでも構わねぇ』。
それまでもう少し『銀河一の操縦士』を極めてみるか。
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「お前、父上のために働かないか?」
俺が断れねぇことを見越したうえで、天才のあいつが声をかけてきた。
特定の彼女は作らない。恋人も家族もいらねぇ。気の向くまま刹那的に時を過ごす。殺されて死のうと誰にも迷惑かけねぇ。加えて人を殺す能力にも長けている。こんな俺は特命諜報部にぴったりだ。
『いつ死んでも構わねぇ』
敵に捕まった時のために奥歯の裏に自爆装置を仕込んだ。ジャックに恩返しして死ぬなら、フローラも文句を言わねぇはずだ。生還可能性が低くて誰にも行かせられねぇって任務にも躊躇なく出かけた。敵さんとの間に『暗殺協定』が結ばれて、いつ殺されてもおかしくない状況だ。けれど、運が良いのか悪いのか、俺は生き延びている。
生きることに執着が無かった俺が、ティリーさんと出会った。ざらざらする違和感の連続。フローラのことは今も愛してる。けど、フローラしか愛さないと決めた俺の決心は揺らいだ。
折り合いはついてねぇ。中途半端でかっこ悪りぃ。
それでも、この日常を手放したくねぇ。変遷は続いている。
もっと、いろんなティリーさんを見ていたい。もっと、ティリーさんと飛ばしたい。一緒に『あの感覚』をつかみたい。俺の船で銀河中へ出かけたい。
つまりは『生きたい』ってことだ。
失う怖さに目をつむって、せめて今だけ、この幸せに溺れていたい。
そんな俺に、モリノ大佐から呼び出し通知が届いた。
(8)へ続く