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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(3)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2)
<少年編>マガジン
「お前さんたち、坊ちゃんが女装すると本気で思ってるのかい。レイター、お前さんが歌姫の格好をしてギミラブ歌えばいいだろ」
レイターが口をとがらせた。
「俺じゃつまんねぇよ。意外性があるから隠し芸なんだろ。女装じゃなくていいから、あいつに仮装させてぇな」
バルダンが身を乗り出す。
「仮装か面白いな。何に仮装させる? ロックスターか」
「歌わねぇロックスターより、いいアイデアがあるぜ」
「なんだ?」
「将軍様さ」
「バカか、親睦会だぞ」
パシンッとレイターの頭をバルダンがはたいた。
僕もレイターをはたきたいと思った。アーサーと一般隊員の間には見えない壁がある。『将軍家のお坊ちゃん』という呼び方は親しみを込めているわけではない。
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「痛ってぇなあ。将軍の格好であいつが踊ったら受けるぞ。面白れぇんじゃん」
「面白いことより、坊ちゃんを感謝祭に出させることが大事だろ」
「う~ん。じゃあさあ、将軍の格好で手品はどうでぃ」
「手品?!」
僕とバルダンは顔を見合わせた。それは隠し芸という感じがする。しかし、手品ってどうやってやるのだろう。
レイターが手のひらを差し出した。
「小銭貸してくれや」
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「これでいいか」
バルダンが五百リル硬貨をレイターに渡した。
「タネも仕掛けもありません」
レイターが手品師の様な口上を始めた。
「そりゃそうだ、俺のカネだ」
「右手に握ったこのお金」
そう言いながら硬貨を握った拳を、一旦手の甲をむけるようにひっくり返した。
「どうやら旅に出たようです」
そう言いながらレイターは、左手で右手の甲をバチっと叩いた。右手の拳を握ったまま表を向ける。旅に出た、って文字通りに受け止めれば無くなっているはずだ。手品らしい手品だ。レイターがやりたいイメージは伝わる。
レイターがゆっくりと指を開いていく。これで硬貨が無くなっていたら凄いが、そんなことあるはずがない。こんなに近くで、ずっと目の前で見ているのだ。
ところが、
「えええええっー」
僕とバルダンは二人して大声をあげた。
あり得るはずのない事が起こった。手のひらから硬貨は綺麗サッパリ無くなっていた。
「俺のカネどうしやがった!」
バルダンがレイターの襟ぐりを締める。
「ぼ、暴力反対」
「バルダン落ち着け」
バルダンを引き離す。レイターが手品を続けた。
「どうやら帰ってきたようです。でも旅にはお金がかかったみたい」
そう言いながらレイターが右手を開くと、そこには百リル硬貨があった。
「おい、何の真似だ」
「面白かっただろ?」
「俺のカネ返せ」
バルダンが殴りかかろうとする。僕は財布から五百リルを取り出してバルダンに渡した。
「ほら、バルダン。僕のお金を渡しておくよ。後からレイターから取り立てておくから」
「ちゃんと取立てろよ。お前、レイターに甘いから」
レイターはへへへと笑っていた。こいつ、僕に返すつもりは無いだろう。それでも、今の手品は上手かった。だから、まあいいや、感動代だ。
(4)へ続く
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