銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(30)量産型ひまわりの七日間
**
俺はアレックの部屋でじっと気配を消してた。
アーサーは俺が撮影した座標の画像を秘匿通信で送って、鮫ノ口の捜索をさせた。ひまわりが持ってたデータはこの艦の通常回線では伝えられねぇほど秘密で重要なものだってことだ。
モニターに映るフチチの殿下は生意気で頭が悪そうだった。あいつ、操縦も下手くそだったもんな。
「中継地点に着陸します」
艦内放送でヌイの声が流れた。やばい。着いちまった。こっそりとアレックの顔をうかがう。俺の身柄はどうなるんだ?
「お、レイター、お前、まだいたのか」
椅子から立ち上がったアレックが俺を見つめた。
「俺、どうなりますか?」
のどの奥から声を絞りだす。
「ふむ、お前にも話しておく。捕虜の事故について責任を検討した」
アレックが珍しく真面目な表情をしていた。俺のせいだ。俺がトウモロコシを持って行ったからだ。俺がへまをして人質になったからだ。そのせいでアリオロンのおっさんは死んだ。事故の原因が俺にあるのは間違いねぇ。
「捕虜にトウモロコシを持っていきたい、というお前の提案を許したのは料理長のザブリートだ。その報告は、俺にもモリノ副長にもあがっていた。捕虜への優遇措置だ。問題はないと判断した。アレルギーのことも、こちらで検査をしていた。グリロット中尉本人だけが知っている特異体質で、トウモロコシが好きだと嘘をつかれては防ぎようがなかった」
とりあえず第一関門は突破ってところか。
「アナフィラキーショックへの対応も録画で確認した。お前の対応は適切だった。問題があるとすれば、お前を一人で行かせた点だ。だが、そもそも搬入口から食事を入れるだけの予定で、ドアを開けることは想定していなかった。グリロット中尉が我々より一枚上手だったということだ。アーサーの発砲も人質救出の任務遂行上問題ない。偶然の事故で意図せず彼は死んだ。出るところへ出ても、俺たちには戦えるだけの証拠がある」
俺たちには俺も含まれているということだろうか。
「お前が人質に取られて気を失っている間、俺は、捕虜を確保するためにお前を殺してもいい、と艦内に命令を出した。お前は首に針を突き付けられて、いつ死んでもおかしくない状況だった」
アレックが俺を道具としか見てないことはわかってる。
「俺と違ってモリノはお前を心配している。以前からお前をこの艦から降ろしたいと進言していた。ここは子どものいる場所じゃないからな。ちゃんと学校に行かせるべきだ、というモリノの言うことは正しい」
話の流れがまずい。黒い塊が胸の中に広がる。
「お前、S1レーサーになりたいのか?」
突然の質問にあわてた。とりあえずいつも口にしている言葉を繰り返す。
「俺は、銀河一の操縦士になりたい」
「そうだよな。モリノはそういうお前の操縦の腕を見込んでいる。宇宙船レースのジュニアクラスにいれてやりたいそうだ」
「え?」
「モリノから聞いてないのか? あいつの実家は篤志家でな。お前の援助に前向きだ。いい話だよな」
(31)最終回へ続く