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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(13)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
<少年編>マガジン
「女王は私の手に」
声を張り、胸ポケットからハートのクイーンを取り出す。ゆっくりと副長と観客に見せる。
「へぇ~」
感嘆の声が漏れる。
「どういうことだ?。おい、そのクイーンのカードを見せてくれ」
いつも冷静な副長が慌てている。隊員たちが笑った。レイターのシナリオ通りだ。
手にあるカードを渡す。副長は真面目で細かい。さっきのカードとは違う、とか言い出したらどうする。現場対応力が問われている。
「う~っむ、わからんな」
助かった。モリノ副長は眉間にしわを寄せたまま席へと戻っていった。
安堵している暇はない。続いてスペクタクル大魔術だ。
「女王の次は……」
私の言葉に合わせて照明が暗くなり、更に怪しげな音楽がかかった。この曲に合わせて進行させなければならない。
業務用小型コンテナを配膳用のカートに乗せてレイターが運んできた。
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ぶかぶかのタキシード姿に笑いが起こる。レイターが普段食堂で使っている見慣れたこのカートにも仕掛けがある。
「王子をいただく」
私はセリフを言いながら小型コンテナのふたを開ける。レイターが悲しげな声で頭を下げた。
「みなさん、さようなら」
身軽に自らコンテナに入る。私はふたをして鍵をかけた。さらに鎖でコンテナを縛ると指をパチンとならした。
音楽と身体を連動させる。教養として社交ダンスを習ったことが役に立つ。手順に遅れは無い。
その時だった
「ちょっと確認していいか?」
と手を挙げたのはアレック艦長だった。
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まずい。音楽とタイミングがずれてしまう。だが、断るわけにもいかない。
「ご覧あれ」
艦長は鎖をがちゃがちゃと引っ張った。
「ふむ、備品か」
ブースターの点火音を消すために行ってきたイメトレは完全に崩れた。どうする。
シナリオ通りコンテナに大きな黒い布をかける。音楽に合わせて、コンテナをくるりとカートごと百八十度回転させた。
パチン。再度指を鳴らす。もう百八十度回転しなくてはいけない。この場所では、抜け出す際にうつ伏せの体勢が仰向けになってしまう。
だが、シンバルのタイミングが迫っている。レイターも気づいているはずだ。ブースターの音を隠すにはこのままいくしかない。
メロディーが転調しボルテージが上がる。ええいままよ。
「やあ!」
腹から声を出す。掛け声と共に大袈裟に布をめくる。
シンバルが「ジャジャジャ~ン」と鳴った。
レイターがブースターを点火したかどうか、音にかき消されて聞こえなかった。
小型コンテナの鍵を外す。
「さあ、王子の運命はいかに……」
セリフを口にすると不安に駆られた。あいつが点火をしなければ、マジックは失敗しコンテナの中にいる。点火をしたとして、無事に裏までたどり着けたのかわからない。まさに運命がどうなっているかわからない。
ゆっくり蓋を開ける。
観客が期待で身を乗り出す。コンテナの中には暗い空間が広がっていた。レイターは脱出していた。よかった。空のコンテナを隊員たちに見せるため倒す。
「おおぉぉ」
カートを動かしコンテナを右の観客と左の観客に向ける。驚きの声が広がる。
早く戻ってこい。隊員たちの興奮が治まる前に早く戻ってこい。間を持たせる芸当は持ってない。
一秒はこんなにゆっくり進むのか、まるで永遠の様だ。ドクン、ドクン。自分の血液の流れる音が聞こえた。
(14)へ続く
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