銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第六話 不可思議な等価交換(上巻)
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・第五話「掃き溜めに姫君」(上)(中)(下)
俺は夜遊びを止めた。
心に嘘はつかねぇで、やりたいことをやる。
ハイスクールから帰ると、フローラと一緒に花畑の手入れをするのが日課になった。
花を育てるのは思ったより楽しい。
頭も身体も使う。手をかけた分が目に見えて結果に跳ね返ってくる。
逆を言えば手を抜けない。
土仕事を終えてシャワーを浴びた後、夕食までの間、俺の部屋でフローラとひたすらにしゃべりまくる。
フローラは、俺の他愛ない学校生活の話を喜んで聞いた。
はやっているギャグやだじゃれを、ことのほか喜んだ。
笑顔がとてもかわいかった。
取り留めのない話をいくらしても飽きない。
その一方で、学会の発表論文を読む時のフローラは別人のようだった。
「これでは不完全だわ。もっと考察すべきだと思う」
小さな矛盾点を一目で見抜き、ため息をついた。そんな彼女を見るのも俺は好きだった。
フローラの中には、俺の知らないことがたくさん詰まってる。学校で寝ながら聞いてる授業より、深くて広い知の世界だ。
俺とフローラが仲良くするのを、アーサーとバブが嫌がっているのは知っていた。
特にバブは不可侵条約で、俺の部屋に入れないことにイライラしていた。
「お嬢様に変なことしないでおくれよ」
「変なことって何かなぁ?」
俺はからかうように答えた。
当の本人のフローラが俺の部屋に来たがってるのだ、バブが止めようにも止められない。
学校にいても、フローラと過ごす静かで刺激的な時間が待ち遠しかった。
こんなに穏やかで幸せな毎日が、俺の人生に訪れるとは・・・。
* *
レイターの部屋はびっくり箱のようだ、とフローラは思った。
由緒正しき将軍家の我が家に、おそらく歴史上一度も持ち込まれたことはないであろう、バブさんが言うところの、低俗でお下劣な本や動画がこの部屋にはあった。
初めて手にした時には、こんな世界があるのだと驚いた。
レイターから、お兄さまも見たり読んだりしたことがあると聞かされ、もっと驚いた。
どんな顔をして、こういう情報に接していらっしゃるのか、想像ができない。
この部屋はカオスだ。混沌としている。
わたしの知らない物が次から次へと出てきて、どんどんと物が増えているように感じる。
けれど、よく見ると一定量が保たれていた。微妙に入れ替わっているのだ。
大きな新型戦艦のプラモデルが、机の上に鎮座していた。精巧に再現されている。
「すごいわね、これ」
「だろ。昨日徹夜で作ったんだ」
レイターが得意げな顔をした。
この大きさのものは、かなり高額なはずだ。そう思った瞬間、気がついた。
アマ星の石が無い。この間まで、机の上で緑色の光を放っていたのに。
「アマ星の石はどうしたの?」
レイターがニヤリと笑って言った。
「新型戦艦に等価交換されました」
アマ星の石は天然記念物に指定されている。闇ルートで密売したということだ。
わたしは腹が立った。
「販売したら問題が生じるって、きちんとお伝えしたわ。あなたもわかっているでしょう」
「けど、今のところ何の問題も発生してねぇ」
「・・・・・・」
レイターが鼻で笑いながら続けた。
「へへん。ばれるようなへまはしねぇよ。こんな小さな密売の摘発に力を入れるほど警察も暇じゃねぇし、このまま三年が経てば時効だ」
おそらくレイターの言うとおりだ。けれど、このまま引き下がる訳にはいかない。
ここは秩序を重んじる将軍家なのだ。
「わたしが警察に通報しましょうか?」
「どうぞ」
自信たっぷりにレイターは応じた。 中巻へ続く
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