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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(11)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
<少年編>マガジン
黒マントと帽子も用意されていた。ライトを浴びると小さな飾りが反射して輝く。
「帽子やマントの必要があるのか?」
「あんた、技術が未熟なんだから衣装やパフォーマンスでカバーするしかねぇだろが。マジシャンらしいほうがみんな騙されやすいんだよ」
師匠の言葉に私は反論できなかった。
「似合うじゃん」
レイターが黒づくめの私を見て言った。
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「お前は似合わないな」
「うるせぇよ。何といっても俺は王子さまだからな」
蝶ネクタイにタキシードという衣装はサイズがあっておらず、まるでコメディアンのようだ。ぶかぶかなズボンの中に見えないようブースターシューズを履いている。
リハーサルの最初はカードマジック「クイーンのお出かけ」だ。束の入れ替えがマジシャンの衣装で問題なくできるかチェックする。動きやすい。よく計算されて作られている。
レイターにカードの扱いを見てもらう。
「いいか、ここから後はイメージだ。あんたは邪悪な魔導師だ。カードの蛇を思い通りに操って、女王をさらう」
邪悪な魔導師。この黒づくめの衣装はそういうイメージなのか。こいつの発想には恐れ入る。と同時にレイターが目に見えないものを自分に伝えようとしているのを感じた。
続いて、スペクタクル大魔術だ。
音楽がスタートした。
「あんたちゃんとBGMに合わせて動けよ」
と言いながらレイターはコンテナの中に入った。
「わかっている」
ゆっくりとふたを閉める。ブースタの点火音を消すため音楽とタイミングを合わせる。音程を正確に取る自信はないが、リズム感が悪いわけではない。曲に合わせたイメトレもした。
レイターが入ったコンテナをくるりと回す。ここだ。
「やあ」と掛け声をかける。
そのタイミングでシンバルが鳴った。あいつは、今ブースターを点火したはずだ。会場に点火音は聞こえない。これならいける。
空になったコンテナを観客席に向ける。この後レイターが舞台のそでからヌイとともに登場する。
だが、あいつはなかなか現れなかった。遅い。この間を持たせるのはしんどい。と、思ったところでレイターが不満げな顔で姿を見せた。
「ブースターの出力は4じゃ足りねぇ。やっぱ5まであげようぜ」
ブースターブーツの出力目盛りをめぐって意見が割れていた。狭い場所での高速加速は危険だ。私は『3』を、レイターは『5』を主張し、結局『4』に設定した。
「こんな余興で怪我をするリスクを負う必要はない」
「じゃああんた、今の間をどうやって持たすんだよ。巧みな話術で何とかできんのかよ」
「……」
反論できない。
「こいつは余興じゃねぇ、真剣勝負なんだよ」
リハーサルの時間はそこで終わってしまった。
*
感謝祭が始まった。会場には、コックのザブリートさんが腕によりをかけた料理がブュッフェ形式で並んでいる。この艦の厨房で高級ホテルの様なメニューを生み出すとは流石だ。おいしい食事をいただきながら、他の人の出し物を楽しむことにする。私の出番までまだまだ時間がある。
バルダンは目を引く衣装で現れた。
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神話に出てくる戦士の様だ。よく似合っている。そこから繰り出される創作演武は素晴らしかった。彼から演武をやらないかと誘われた時に私は「仕事は出し物にしない」と断った。しかし、バルダンの演武は仕事のそれとは明らかに異なるものだった。彼は演武で物語を芸術的に表現していた。自分の頭の固さを痛感する。
(12)へ続く
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