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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(14)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13
<少年編>マガジン

 一瞬の静寂の後、清らかなアルペジオのギター音が会場に響いた。
 新曲『ハレルヤ』の前奏だ。このスペクタル大魔術のためにヌイが作った。隊員たちは何が始まるのかと私を見つめる。
「”ハレルヤ~”」
 歌声が届いた。ヌイとレイターのコーラス。
 レイターの高音を聞いた時、身体中の筋肉が弛緩するのを感じた。自分は想像以上に緊張していた。
「”僕らは生まれ変わる”」
 歌いながらレイターとヌイが舞台の袖から入ってくる。

「ブラボー!」
「ヒュー!」
 歓声が連鎖するように沸き起こった。拍手と口笛が飛び交う。手を振るレイターに怪我をした様子はない。
 私は舞台の真ん中に立つとレイターの手を握り両手を挙げた。心地よい興奮を感じながら深々と礼をする。これで私の手品パートが終わり二人の歌に引き継ぐ。
 右側の観客に向けて礼をしようと身体を右側に向けた。その時、違和感を感じた。レイターが私の胸に触れた。 まぶしい。スポットライトの様な照明が当たった。
「おおおぉ」
 ひときわ大きな歓声が観客席から上がった。

 何かが舞台で起きている。客席を向いている私には分からない。予定通りに深く礼をする。
『ハレルヤ』は間奏に入った。
 頭を下げた時に気がついた。私の衣装が違うことに。
「な、何だこれは!」

「次、左の客だぜ」
 レイターの言葉は耳に入ってこなかった。私の黒い服が白くなっている。

 いや、白くなったわけではない、白く見えるのだ。映像が投影されている。これは将軍家の継承式で着用する連邦軍の白い正装。幼い頃、父上が将軍に就任した際、この服を着て式に臨まれた。
 私をスクリーンとした三次元プロジェクションマッピング。
 長い上着丈がちょうどリンクしている。服の飾りに見えた小さなビーズのいくつかに受像機が紛れ込ませてあるに違いない。
 そして戴冠帽。帽子とマントもそのための小道具だったのか。随分と手の込んだ仕掛けだ。
 レイターの奴にはめられた。これはもう完全に将軍の仮装だ。

 そして、私の左の胸には勲章が輝いていた。さっきの違和感はこれか。
 この勲章はアレック艦長が授与された本物だ。父と艦長は同じ部隊にいて、同じ表彰を受けている。着用には規程があり、きちんと保管してあるべきものだ。
 どういうことだ、アレック艦長は大笑いしている。「お前が将軍に就任するのを楽しみにしているんだ」と話していたのはこのことか。

 あり得ない。 
「馬鹿野郎!」
 私はレイターに思いっきり罵声を浴びせた。こんな口汚い言葉を口にしたのは生まれて初めてだ。こいつは素知らぬ顔で『ハレルヤ』を歌い続けてる。
 
 多くの人の前で感情が制御できない。将軍家として恥ずべきことだ。頭でわかっている。なのに、どうすればいいのか。驚愕、激怒、羞恥、狼狽、動転、いろいろな種類が織り混ざった波に飲み込まれ、溺れそうだ。おそらく私の顔は真っ赤になっている。

 その時気がついた。この『ハレルヤ』のコード進行とメロディーラインが将軍家の継承式典序曲とそっくりだと言うことに。こいつが似合わないタキシードを着ているのも式典をイメージさせるためだ。
 ヌイもアレック艦長も共犯か。

 隊員たちが笑っている。取り乱した私を見て。
 スペクタクル大魔術は私に対するドッキリカメラ企画だったことにようやく気がついた。
 皆楽しそうだ。権力者を笑う。それはユーモアの基本だ。
(15)へ続く


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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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