銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(1)
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・<出会い編>第三十八話「運命の歯車が音を立てた」① ②
妹のフローラはそれはそれは美しかった。
アーサーは思わず息を止めて見入った。
侍従頭のバブさんがフローラに母の形見の婚礼衣装を着つけてくれた。少し民族調に仕立てられた白いそのウエディングドレスを、フローラは丈を詰めて見事に着こなしていた。
「き、きれいだぜ、フローラ」
レイターが妹を見て言葉を失っていた。
その様子は間が抜けているように見えたが、私も似たようなものだ。
久しぶりに母を思いだした。
おそらく隣にいる父も同じことを考えている。
「レイターも素敵よ」
フローラは満足げに微笑んだ。
きょうの日のためにレイターに白いタキシードをあつらえた。
レイターはいらない、と言ったが、フローラはどうしても着て欲しいと譲らなかった。
金がもったいないからレンタルでいい、というレイターのために父が金を出し、仕立屋を呼んで作らせた。
私もレイターには貸衣装で十分だと思ったが、背の低いあいつに合うサイズのタキシードなどそうはないから、結果としてはフローラのわがままは正解だったようだ。
それなりに様になっていた。
まだ夜の明けていないこの時間に、二人は一生の伴侶として生きていくことを誓いたいと言った。
宇宙の神様に誓うために、この時間を選んだのだという。
フローラの部屋からバルコニーへ続くドアを開けると、暗い空に青い地球が浮かんでいた。
庭から漂う花の香りが部屋中に広がる。
バルコニーにレイターとフローラが立った。
私と父とバブさんが立会人だ。
美しく青い光を放つ地球に向けてふたりは『誓いの言葉』を口にした。
「私、レイター・フェニックスは、フローラを一生愛することを宇宙の神様に誓います」
「私、フローラ・トライムスはレイターを一生愛することを宇宙の神様に誓います」
二人で考えたという誓いの言葉はシンプルな文言だった。
だが、何の飾り気もない言葉であればあるほどそこに真実が凝縮されているように感じた。
二人は、地球を前にキスをし、そして、指輪を交換した。
まるでままごとのような結婚式だ。
それでも、父の目にはうっすらと涙がにじんでいた。
*
午後からはささやかな披露宴。
フローラの体調もよく、用意していた車いすに座ることもなくすみそうだ。
披露宴の料理はアレクサンドリア号の料理長だったザブリートさんとバブさんが用意してくれた。
レイターのハイスクールの友人たちが、新郎新婦をはやし立て、主役の二人は照れながら笑っている。
おいしい料理と楽しい語らい。この屋敷中に笑顔が溢れている。
何と心弾む一日だろう。
夢であれば醒めないで欲しい。
このまま時が止まってくれたらどんなに幸せだろうか。
でも時間は止まらない。確実に進んでいく。
結末である死へと向かって。
そのことを今だけは忘れよう。
今日を迎えられただけでも奇跡なのだから。
「お兄さま、何だか寂しそうな顔をしてらっしゃるわ」
フローラに気を使わせてしまった。
横にいるレイターがちゃかした様子で言った。
「あんた、俺にフローラをとられたと思って妬いてんだろ」
「バカなことを言うな」
レイターの友人ロッキーが近づいてきた。
「なあ、レイター、お前、アーサーのこと何て呼ぶんだ」
「あん?」
「だって、義理の兄貴になるんだろ。お兄さまか、兄上か、兄ちゃんってのもあるぞ」
「ば、バカ野郎。何で俺がこいつのこと兄貴って呼ばなきゃ何ねぇんだ」
レイターがロッキーの頭をはたく。
「痛ぇなあ。だってそういうもんだろが。お前の方が誕生日あとなんだし」
フローラが笑っている。
「レイター、『お兄さま』って呼んでみて」
「呼べるか!」 (2)へ続く
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