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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(6)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5)
<少年編>マガジン
隊員たちが僕のことを「将軍家のお坊ちゃん」と揶揄して呼んでいることは知っている。いい気はしない。僕が「その呼び方はやめてください」と言えば、おそらく誰も使わなくなるだろう。だが、それは根本解決ではない。僕個人の快か不快かで思料する話ではないのだ。連邦軍に影響があるかどうかで判断すべき案件だ。僕は十二歳で特別待遇を受けている。これは事実であり、やっかみに対するガス抜きであれば、このままにしておいた方がいい。一方で放置することで将軍家への信頼が損なわれるのであれば、対策が必要だ。
対策というほどのことではないが一つのアイデアが浮かんだ。「坊ちゃん」という要素を自から減らしてみよう。
*
「このコンテナ、大魔術に使えそうだぜ」
自分の身体がすっぽり入るケースを抱えてレイターが部屋へ入ってきた。食糧庫で見つけたという。
スペクタクル大魔術の流れはこいつが考えた。コンテナにレイターを閉じ込めて、鍵をかけた上に鎖でしばる。コンテナに布をかけて回転台でくるりと回す。
鍵を外してふたを開けるとレイターはいない。舞台の袖からヌイと歌いながら出てくるという構成だ。
ここまでやりたいというのだから、てっきりレイターはトリックをわかっているのかと思ったが、
「あん? トリックなんて知らねぇよ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「それを考えるのが天才の仕事だろが」
そういうことか。私に考えろと。
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「ちなみに、俺、こんなことできるぜ」
どこから持ってきたのか手錠を自分の手首につけると、一瞬で器用に抜いて見せた。
「今のはトリックじゃないな。物理的に関節をはずしたのか」
「さすが天才」
レイターは身体が柔らかい。狭いところで動ける身体能力もある。こいつは密航してから二週間、この艦の配管設備の中で暮らしていたのだ。この能力は役立ちそうだ。
「ほら、これ見たらあんたならわかるだろ」
マジックショーの動画が大量に集めてあった。映像を脳内にインプットしイリュージョンを分析する。仕掛けはすぐにわかった。
「観客席側に仕込みがあるな。これと同じものを作ればいい」
レイターに説明をするとあきれた顔をされた。
「あんた、そんな大掛かりなものを誰が作るんだよ。工務部に頼むつもりかよ」
仕掛けを自分たちで作らなくてはならない、となるとトリックが制限される。アレクサンドリア号の構造を一から見直した。新しい物事を生み出すのは難しい。だが刺激的だ。つい、仕事中も脱出方法について考えていた。いけない。こんなことは初めてだ。
*
さらに私はつまづいていた。
イリュージョンの前に私がカードマジックを披露することになったのだが、レイターが名付けた「クイーンのお出かけ」のためのカード捌きが思うようにできなかった。
「あれぇ、お坊ちゃんはまだできないんですかぁ?」
面と向かって馬鹿にされることに対し、自分には免疫がない。情けなさ、怒り、苛立ち、恥ずかしさ。激流の川下りのように湧き上がる感情に名称を付け分類することで冷静さを保つ。
何とかあいつと同じように、いやそれ以上にうまくやりたい。自分に出来ないはずがない。何度もやってみるが違う。何がいけないのだろう。
「一体どこでこんな技を覚えたんだ?」
「そりゃ、ダグんとこだよ。学校の手品クラブだと思ったかい?」
そうか。賭場か。
「カレットじいさんは凄かったぜ」
その名前に覚えがある。
「テーブルマジックの異彩、カレット・メアか?」
三十年以上前に引退したプロのマジシャンだ。最後は確か賭場を巡る抗争に巻き込まれて命を落とした筈だ。
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レイターがニヤリと笑った。
「さすが、物知りだね。天才のあんたは俺の真似すりゃできるって思ってるだろ。でも、いくら見たってわかんねぇと思うぜ」
「どういう意味だ」
「カレットじいさんが俺に教えたのは、目に見えねぇことだったからさ」
(7)へ続く
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