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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(7)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6)
<少年編>マガジン
目に見えないこと。レイターは語彙力は少ないが時に真実を含む言葉を放つ。
「カーペンターもそうだったんだよな。最初は言ってる意味が全然分かんねぇんだけど、ある日、急にわかっちゃったりするんだ。師匠って何だか似てるな」
レイターが師匠と仰ぐ元S1レーサーの「超速」バラドレック・カーペンター。
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彼から何を教わったのかわからないが、レイターの操縦は尋常ではない。生まれつきの才能に加えて、師匠が正しいルートで導き、最短でたどり着いていると推知できる。
一方でこれまで私には師匠と呼べる人はいない。文献を読み独学で解決してきた。
「あんた、俺の弟子になるなら教えてやるぜ」
ニヤニヤしている表情が腹立たしい。
「結構だ!」
感情的に大声を出してしまった。そんな自分に落ち込む。あいつはどうしてこうも私を苛つかせるのか。
昔の人は、師匠の技術を「見て盗め」と教えたと言う。だから私にできない筈はない。自分のカードの扱いを頭の中のレイターの動きと照らし合わせる。指の角度、速さ、タイミング。コピーは完璧に出来ている。
なのに違う。異なっていることは明確だがどこに差異があるのか不明だ。「師匠が教えたのは目に見えないもの」か。あいつは一体何を学んだのだろう。
自分の目では限界だ。客観的に他人に見てもらう必要がある。思いついたのは一人しかいなかった。
「私のカードの扱いを見ていただけませんか?」
ヌイは驚いた顔をした。迷惑だっただろうか。
「自分ではわからないんです」
言い訳の様に理由を伝えた。
「喜んで見せてもらうよ」
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呼吸を落ち着けてカードをシャッフルする。右手と左手に分けて持ち二つの扇の様に広げた。自分の中のイメージ通りに指を追随させる。手をクロスさせながらSの文字を作り、蛇の様に動かす。
ヌイは拍手をした。
「いやあ、坊ちゃ、いやアーサー。凄いよ。この短期間でここまでできるなんて。まるでプロのマジシャンの様に見えるよ」
「ありがとうございます」
褒められると少しホッとした。でも、私が求めていることは褒めてもらうことではない。
「レイターとは違う気がするのです」
「うん、違うね」
即答だった。
「どこが違うのでしょうか?」
ヌイが考え込んだ。全てを記憶する私がわからないのだ、難しい問いだ。
「僕に答えられるのは、あくまで僕が見たイメージだけれど、お前さんのカードはお前さんが綺麗にカードを動かしている。レイターの場合は、勝手にカードが動き出していた。生きているっていうのかなあ。カードに命が吹き込まれている。別個の生命体をあいつはただ支えているだけ、という感じ」
ヌイは作詞をしているだけあって、レイターと違い語彙力が豊富だ。言語化する能力が高い。レイターのカードが持つイメージがよく伝わる。
「動きはコピーしているんです。角度やタイミングは同じです」
「うーん。ここから先は、ムーサの世界かもね」
ムーサ。ヌイが信奉している音楽の女神か。ヌイはギターを取り出した。
「同じに見えても、音は変わるんだよ」
ヌイがコードを二回鳴らした。同じ場所を同じように。それなのに一回目と二回目では違って聞こえた。音楽が苦手な私でも聞き分けられる。
「見るだけでは分からない違いがたくさんあるよ。微妙な力の入れ方とかね。最後はハートだ。精神性と言うのかな、レイターのあのカードさばきは、芸術の域にあるんだと思う」
ヌイの言葉の意味は理解できた。同時にそれは、私には出来ない、と言われている様に聞こえた。
(8)へ続く
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