銀河フェニックス物語<出会い編> 第十九話(4) 恋と伝票の行方
・第一話のスタート版
・第十九話(1)(2)(3)
パキ星の出張から本社へ帰ったら、回したはずの伝票が戻ってきていた。
経理の了承が得られないと言う。
数字のミスはないはずなのに・・・。
もう一度確認して提出する。嫌な予感がした。
翌日、ジュディ先輩と廊下ですれ違った。
「おはようございます」
あいさつしたのだけれど、返事がない。聞こえなかったのだろうか。
いや、今のは絶対、意図的に無視された。
わたしは何か、地雷を踏んだに違いない。
まずい。
ジュディ先輩は、パキ星第二工場プロジェクトの主要メンバーだ。
*
隣の席のベルが噂話を聞いてきた。
「ティリー、ジュディ先輩の話聞いた?」
「何のこと?」
「ティリーが出張に行ってる間に、レイターが先輩をふったのよ」
「ふったんだ」
わたしには全く関係ない。
なのに、声が大きくなってしまった。
「ティリー、やっぱり何か知ってたのね? うれしそうだわ」
うれしそう? わたしが? ベルの勘違いだ。
「出張前にジュディ先輩がレイターのこと、わたしに聞いてきたのよ。つき合ってる人いるのかって。だから、いないって答えたの。それだけよ」
「ふむふむ。それで、先輩がレイターに告ったところ、レイターが断ったと」
その時、気がついた。
「ねえ、ベル。経理から嫌がらせを受けてるように感じるんだけど、それって、ジュディ先輩の逆恨みかしら?」
「逆恨みじゃないわよ。正真正銘の恨みだと思う」
「どうして? わたしは関係ないわ」
「だって、レイターは『俺には好きな人がいるから』って断ったんだって」
レイターの好きな人って。
「それは、わたしのことじゃなくて『愛しの君』のことだわ」
「でも、ジュディ先輩が『それはティリーのこと?』って聞いたら、レイターは否定しなかったらしいよ」
「は?」
あの男。絶対許さない。
*
パキ星の第二工場に関する予算会議が、あさっての午後に設定された。
ここの場で、ダルダさんが第二工場の着工状況について報告する。
出張の鍬入れ式の報告書は、わたしがまとめた。
その会議の三十分前に、わたしには別のお客様とのアポイントがすでに入っていた。話が長いお客様だから心配だ。
ダルダさんに相談した。
「予算会議の前に、お客様の先約が入っているので、冒頭、遅れるかもしれません。配布資料は、出席者に事前送信しておきます」
「ガハハハ、安心してくれ。ティリー君の書いた資料を、俺はもう読み終わった。だから大丈夫だ」
わたしは、ほっと胸をなでおろした。
ダルダさんはいつも資料を読まないから、心配していた。
でも、これで、アシスタントであるわたしの仕事は、終わったも同然だ。
そして、予算会議当日を迎えた。 (5)へ続く
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