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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(4)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3)
<少年編>マガジン

「お前さん、他にも手品できるのかい?」
 僕は聞いた。
「トランプある?」
「レクリエーション室にあるぞ」
 バルダンがトランプを取ってきた。
「タネも仕掛けもありません」
 レイターは手慣れていた。カードを切るその指遣いが美しい。思わず見とれる。
「お前上手いな」
 バルダンも感心している。レイターが調子に乗ってカードを扇の様に開いたり自由自在に操っている。
「お前さん、感謝祭でそれを披露すればいいんじゃないかい」
「だから、俺がやっても面白く無ぇだろが」
「面白いけどな」
「違うだろ、アーサーが将軍の格好してやったら面白いって話だろ」
 忘れていた。坊ちゃんをどうやって感謝祭に出させるかという話だった。
 レイターは鮮やかな手つきでカードマジックを披露した。これなら坊ちゃんも乗ってくるんじゃないか。そんな予感がした。

**

 自室で物質構造の論文を読んでいる時だった。
 レイターがヌイを連れて入ってきた。歌の練習ならお断りだ。
「アーサー、感謝祭のことなんだけど」

 ヌイに誘われても答えは同じだ。
「お断りしたはずです」
 レイターが馴れ馴れしく寄ってくる。
「まあまあ、人の話は最後まで聞けよ」

 ヌイの提案は意外だった。
「お前さん、マジックやらないかい?」 
 マジック? 不思議がる私の前でレイターが五百リル硬貨を取り出した。
「タネも仕掛けもありません」
 レイターがコインを握った右手の甲を叩いた。
「はい、この五百リルは旅に出ました」
 何を言ってるのだろう。不思議に思って見ているとレイターが開く手のひらの中にコインが無かった。
「え?」

 不覚にも驚いてしまった。冷静に考える。コインが消えるはずは無い。レイターの動作を思い出す。
「袖だな」
 僕の答えにヌイが驚いた顔をした。当たりだ。コインを袖に落として手を握ったのだ。
「ご名答」
 レイターは驚きもせずにカードを取り出した。
「じゃあ次はこれだ」

 器用にトランプをシャッフルする。
 右手から左手へと整列したままカードが宙を飛ぶ。円を描いたカードが一瞬で束に収まる。伸縮自在な生物のようだ。思わず息を飲む。
 扇形に広げられたトランプが眼前に突き付けられた。数字が描かれた面は下を向いていて僕にもレイターにも見えない。
「ここから好きなカードを一枚引いてマークと数字を覚えな。忘れるなよ」
 忘れることのできない私に忘れるな、というのは冗談のつもりなのか。引いたカードはハートのクイーンだった。

「さて、俺には見せねぇでカードをこちらに戻してもらおうか」
 レイターが机の上に置いたトランプ束の上に、抜いた一枚を乗せた。
「それ、自分で納得いくまで切って」
 カードを切りながらもレイターの動きに注目する。手品師はテクニックでカードをコントロールする。カードは僕の手にあり、レイターに不自然な動きはない。束を机の上に戻した。
「さて、あんたの選んだカードは……」
 もったいぶるようにゆっくりとカードを指さした。
「ハートのクイーンだ。どうだい?」
「……当たりだ」
 マジックなのだから当てるだろうという予測はしていた。だが、どうやって。トリックは見破れていない。
 満足げな顔をしたレイターが机の上にあるトランプの束を私に手渡す。
「ちょっと確認してくれねぇか。あんたの大切なハートのクイーンさまがお出かけしてねぇか」
 出かけているだと? 一枚ずつ確認する。ハートのクイーンが無い。
「あれ、女王さまは俺のことが好きなのかな?」
 そう言いながらレイターは胸のポケットからカードを取り出した。
(5)へ続く


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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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