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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(9)感謝祭の大魔術
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8)
<少年編>マガジン
自室に戻るとレイターはベッドに寝っ転がってレース動画を見ていた。
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いざ、本人を前にすると上手く言い出せない。「師匠になってください」か「弟子にしてください」か。そんなことを言ったら「師匠と呼べ」とか「金払え」とか言い出しそうだ。
やはり無理だ。あきらめかけた私にレイターは身体を起こして声をかけてきた。
「どうかしたか?」
こいつは何かと目ざとい。私の迷いを敏感にかぎ取る。どうにでもなれという気持ちで口にした。
「カードのシャッフルを教えて欲しいんだ」
「あん? あんた、俺から教わりたくねぇんだろ」
警戒した目で私を見る。
「自分でできると思っていたが無理だった。お前が師匠から教わった目に見えないものは私一人では掴めない。お前から教えてもらわないことには先へ進めないと判断した」
正直に伝えるとレイターは天井を見上げた。
「う~ん、この先を教えるのって、難しいんだよな。あんた、形はちゃんとできてるんだから」
それはわかっている。だからその先を知りたいのだ。だが、目に見えないものは存在が確認できないことと同義だ。
「じゃあ、カレットじいさんの言葉通りに伝えるぜ、血液の流れる音を聞け、だ」
「血液の流れる音?」
「ここじゃ難しいかもな。静かなところじゃねぇと」
宇宙船内は常に音がしている。
「それは、物理的に聞こえるものなのか?」
「う~ん、ある日、突然聞こえた気がしたんだよな。カードを持つ指先から足の裏までつながって流れてるのが」
実際に聞こえたのかは不明だが、意識をしなければ聞こえない世界だ。外から見た形を追うだけではない、本質の部分に近づいていく様な感覚がある。
そして気がついた。自分が想像していた以上に簡単にレイターが極意を教えてくれたことに。私はこれまで人に教わるという経験がほとんど無かった。自己完結出来ない世界に飛び出すことに躊躇し、自分でハードルを設けていたのでは無いだろうか。
「お前の師匠、カレット・メアに会ってみたかったな」
「偏屈だったけど、爺さんは命の恩人なんだ」
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「命の恩人?」
レイターはベッドから飛び降り、スッと近づいてきた。一瞬、違和感を感じる。
「何をした?」
「やっぱ、あんたには気づかれるか。ほとんどばれたことねぇんだけどな」
レイターの手にあったのは、私の階級証明カードだった。
「なっ?」
私は驚いて胸ポケットを確認した。カードがなかった。いつの間に抜き取られたのか。
「ダグに命狙われてから、飯を調達するのも大変でさ。スリでも万引きでも何でもやったんだ。爺さんから技を教わってなかったら、俺は飢え死にしてたところさ。笑えることに、マジックの練習も元々はダグから言われて始めたんだけどな。なぜか、船の操縦もぐんとうまくなるからやめられなくてさ」
師匠が教えた技術は、手品だけに収まるものではなかった。
こいつは気配を消して近づいてくる。本人が気づいているかわからないが、身につけた身体の動きや集中力が、船の操縦にも戦闘能力にも生かされている。そして、スペクタクル大魔術にも。
**
艦長室のドアからするりと幼い顔が入ってきた。いつも思うが猫の様な身のこなしだな。
「アーサーは、感謝祭に出演するからな」
「ほう」
「艦長命令に従ったんだから、俺が船を操縦するのを止めるなよ」
「わかった。好きにしろ」
アレックは感心した。こいつは餌を吊るすと難題でもきちんと仕上げてくる。使える奴だ。
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「あいつがてこずってるの見ると面白いぜ」
「天才がてこずってるのか?」
「マジックやらせてんだけど、アーサーの奴、完璧を求めるからさぁ」
これは面白い。隊員との親睦を、と考えたことだがアーサーに思わぬ経験を与えているな。
「で、相談があるんだ。あいつに将軍の仮装をやらせてぇんだけど」
「お前、何考えてるんだ?」
(10)へ続く
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