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銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(10)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
<少年編>マガジン

「面白いだろ」
「面白いな」
「で、あんたの勲章貸して欲しいんだ」
「大佐の俺のじゃ、将軍には足りないぞ」
「いいんだよ、作りものじゃねぇ、ってとこが大事なんだ。昔、将軍と一緒にもらった奴があんだろ」

「ふむ、これか」
 俺は引き出しから古い勲章を取り出した。
「サンキュー」
 ひったくるように手にすると、レイターは来た時と同じようにスっと姿を消した。あいつとはどうも気が合う。拾って良かったな。

 **

 血液の流れる音、にはたどり着けていない。
 だが、身体を動かすための集中力が一段上がったように感じる。カードの動きが少しレイターに近づいた。気が付くと感謝祭のことばかり考えている。
「アーサー、がんばってるな」
 廊下ですれ違いざまアレック艦長に声をかけられた。
「は、はい」
 足を止め反射的に答えたが、何をがんばっていると言われたのか、すぐにはわからなかった。
「スペクタクル大魔術のトリックをこっそり俺に教えてくれ」
 艦長は嫌味を言う性格ではない。だが、仕事に集中できていないことを指摘されたように感じた。
「すみません、勤務外のことにうつつを抜かしており」
「何を言っとる、感謝祭は勤務だぞ。俺はお前が将軍に就任するのを楽しみにしているんだ」
「は?」
 艦長は機嫌よさげに去っていった。レイターのバカが何か言ったに違いない。艦長は大きな勘違いをしている。

 スペクタクル大魔術のトリックは思いついた。勤務中も考えていた成果だ。配線溝を利用した大掛かりな仕掛けだが、思ったよりスムーズに完成した。というのも、レイターは戦闘機の整備を自分でやるだけあって工務部並みに大型工具を扱えたのだ。
 ただ問題があった。
「これじゃあ間抜けなんだよ」
 レイターが腕を組んでコンテナを見つめる。抜け出した後、舞台裏まで移動するのに想定以上に時間がかかっていた。
「あんたもやってみろよ。関節外してこの狭い中を匍匐前進って。これ以上早くは無理だぞ」
 やれと言われても、私は入ることすらできない。
「もう少し広い会場なら、ジェットボードで移動するという手はあるがこの狭さでは無理だ」
「じゃあ、艦幅広げてくれよ、天才」
 肩をすくめたふざけた態度に返す声が荒くなる。
「できるわけないだろ」
「あんたって、冗談がわかんねぇんだな。艦幅広げてみるか、って笑えばいいのに」
「……」
 冗談だったのか。コミュニケーションの判断は難しい。
「じゃあさ、ジェットボードの代わりにブースターブーツはどうだ」
「リスクは低くなるが、危険だ。それに噴射の際に音が出る」
「音ならノープロブレムだ。解決策はある。ただ、あんたに問題があるな」
「私に?」
「あんた、音楽苦手だろ?」

 *

 感謝祭は食堂とその隣の大会議室をつなげて行われる。
 前日、出し物の参加者それぞれに会場を使ったリハーサルの時間が割り当てられた。
 ヌイとレイターはギターを手に音響の確認をしていた。二人はプログラムのトリを務める。私の出番はその直前、前座の様なものだ。

「これは何なんだ!」
 レイターから手渡されたものを広げて私は思わず声を荒げた。
「あん? マジシャンの衣装だよ」
 黒いひざ丈のワンピースだった。細かなビーズがいくつも縫い付けられエスニック調の模様になっている。
「女装はしない」
 レイターに衣装を突き返すとあいつは噴き出して笑った。
「女装じゃねぇよ。この下に黒のスラックスはくんだよ。確かにこのまま女装でも面白いけど」

 大声を出した自分が恥ずかしくなった。どうしてこいつといると感情がコントロールできなくなるのか。
 (11)へ続く


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48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

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