見出し画像

銀河フェニックス物語<少年編>第十六話(5)感謝祭の大魔術

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」
<少年編>第十六話「感謝祭の大魔術」(1) (2) (3) (4)
<少年編>マガジン

 女王が描かれたハートのクイーンだ。
 レイターの動作を思い返す。どこかで何かをしているはずだ。記憶を手繰り寄せる。
「手渡す際にカードの束をすり替えたな」
 僕の答えにヌイが驚いた。
 あいつが「確認してくれねぇか」と僕にカードを渡す瞬間、手で死角ができていた。普通に見ていても気づかない。だが僕は脳内で何度でも速度を変えて再生ができる。クイーンの入っていないトランプとすり替えたタイミングはここだ。
 レイターは平然としていた。
「さすが天才、と言いてぇところだが、そいつは、俺がカードを当てた種明かしにはなってねぇぜ」

 悔しいがレイターの言う通りだ。どれだけ記憶を再現させても、あいつは胸ポケットに触っていない。最初からカードはポケットにあり、僕はハートのクイーンを引かさせられたということだ。一体どうやって?
「あんた、トリック知りてぇだろ?」
 知りたい。だが、教えてもらいたい訳では無い。自分で見つけたい。
「あんたなら考えられると思うんだよな」
「何をだ?」
「スペクタクル大魔術さ」
 こいつは何を言っているんだ?

「奇跡の大脱出ってマジック知ってる? 鎖で縛った箱ん中から人が別の場所へ移動するやつ」
 子どもの頃、マジックショーの番組で見たことがある。
「知っているが」
「あれ、やりてぇんだよ」
 全く意味がわからない。ヌイが首をかしげて聞く。
「アーサーに手品をやってもらうんだろ?」
「そうさ。さっきまではテーブルマジックって思ってたけど、こいつにやらせるならイリュージョンのが面白いじゃん。将軍に仮装してやったら受けるぞ」
 将軍に仮装だと。
「お前、何を考えているんだ」
「とにかく、まずそのカードを切って操ってみな」
 手にしたトランプをシャッフルし、扇形を作ってみる。
「貸してみ。こうやるんだよ」
 あいつが手にした瞬間、カードが動きだした。鮮やかな羽を広げる鳥の様だ。滑らかで流れるようなモーションに目が奪われる。レイターは身体は小さいが指が長い。手品に向いている。シャッフルする中から一枚が私の方へ飛んできた。
 カードを掴むとスペードのエースだった。

「これくらいはできねぇと、マジシャンって感じが出ねぇだろ」
 興味が湧いてきた。マジックというよりあのカード捌きをやってみたいと思った。指の動きでカードを自在にコントロールする。自分は不器用では無い。少し練習すればできるだろう。

 レイターに教えてもらう必要は無い。あいつの動きは全て記憶している。頭の中から引き出して再現すればいいのだ。
 カードを再度手に取る。レイターの手の動きを思い出す。
「お前さん、上手いよ」
 ヌイが私の動きを褒めた。
 だが、レイターはニヤニヤしている。あいつはわかっている。滑らかさのレベルがまるで違うことに。
「じゃ、練習用にこいつをやるよ」
 そう言ってレイターがもう一組のトランプを取り出した。何だこのカードは。五十二枚全てがハートのクイーンだ。どれを引いてもハートのクイーンしかないのだから当たるに決まっている。

 僕としたことが、トランプに種が仕掛けられていないか確認するのを忘れてしまった。最初のカードさばきに見とれたせいだ。
 こんな簡単なことに気づけない自分が可笑しかった。
「手品、やってみるか」
 自分でもどうしてそんなことを言ってしまったのかわからない。
「イヤッホー、将軍」
 レイターがバク宙をした。
「将軍の仮装はしないからな」
 それだけは、何がなんでも絶対にしない。
(6)へ続く


いいなと思ったら応援しよう!

48ノ月(ヨハノツキ)
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」

この記事が参加している募集