銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(27)量産型ひまわりの七日間
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「中継地点宙域の管制下に入ります。あと二時間で本艦は着陸します」
艦内放送を聞きながら、俺は左手に着けた通信機の動画再生ボタンを押した。カラフルな短い映像が手首の上の空間に立ち上がる。中継地点に着く前に、こいつをアーサーに見せたほうがいいな。
それにしてもやべぇ。
アリオロンのおっさんが死んで、艦内は大変なことになってる。敵とはいえ捕虜が死んだんだからな。しかも俺のせいだ。俺がおっさんに興味を持ってトウモロコシを持ってい行ったせいだ。しかも、頭殴られて気ぃ失ったなんて失態、ダグに知られたら殺されるぞ。
アーサーは俺をかばっておっさんを撃った。あいつは将軍家だし、事故で処理するってことだからお咎めはねぇだろう。けど、俺はどうなるんだ。この艦から追い出されるのか?
幹部会議から戻ってきたアーサーに聞く。
「なあ、俺の扱いってどうなるんだ?」
「艦長が検討している」
随分そっけない答えだ。こいつが忙しくて大変なのはわかるが、俺も命がかかってる。
「あんた、何とかしてくれる、っつったじゃねぇかよ」
「僕にできることはした」
アーサーの奴、様子が変だ。聞かれたことには答えてるが、まるで人工知能みてぇな受け答えだ。椅子に腰かけたまま微動だにしない。
「おい、将軍家の坊ちゃん、あんた、変だぞ」
「変ではない」
普段から表情が乏しい奴だが、どう見てもおかしい。挑発にも乗ってこないで宙を見てる。こいつ、何を見てんだ?
こんなにおかしいのに幹部会議じゃ誰も気づかなかったのかよ。
俺は内線で医務室を呼び出した。
「ジェームズ、俺の部屋に来てくれ」
医療兵のジェームズが救急パックを持って駆けてきた。
「どうした? レイター、具合悪いのか?」
「俺じゃねぇ、アーサーが変だ」
「アーサーが? 大丈夫か?」
「大丈夫です」
アーサーが淡々と答えた。
「レイター、びっくりさせるなよ」
俺はアーサーを観察して気がついた。圧倒的な違和感の正体。目だ。
「ジェームズ、あんた医者だろ。アーサーをよく見ろよ。まばたきの回数が極端に少ねぇし、目の焦点がぼけてる」
ジェームズがアーサーの顔をのぞきこみ、様子がおかしいことにようやく気づいた。
「本当だ、おいアーサー、大丈夫か?」
「問題ありません」
俺はアーサーに話しかけた。
「あんた、今、何が見えてる?」
「ひまわりが見えている」
「ひまわり?」
不可解な答えに意味があるはずだ。じっと見つめる。アーサーの右手がかすかに揺れた。人差し指のこの動き。
「あんた、銃を撃っているんだな」
「そうだ、銃を撃っている」
「格納庫で俺を助けているんだな」
「そうだ」
「俺は助かった。もう銃を撃たなくていい」
「お前は助かったから、もう撃たなくてもいいんだな」
アーサーの右手が止まった。
目に光が灯ってきた。
「アーサー、俺がわかるか?」
「ああ、参ったな」
あいつは大きく息を吐くと頭を抱えた。ちゃんと俺の言葉に反応している。こっちの世界に帰ってきた。
「一体、どうしたんだ?」
「記憶機能のバグだ。暴走ループを起こした」
「あん?」