銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第七話 愛しき妹のために・・・(上巻)
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・<ハイスクール編>マガジン
・<ハイスクール編>不可思議な等価交換 (上) (中) (下)
アーサーが夕食のため月の御屋敷の食堂に行くと、レイターと妹のフローラが並んで立っていた。
妹が心配げな顔をして私を見つめた。嫌な予感がする。
「っつうことで、俺とフローラ、つきあうことにしたから」
私とお手伝いのバブさんを前に、レイターはこともなげに言い放った。
「な、な、な、なななんだって!」
バブさんは手にしていた両手鍋を落としそうになった。
私はレイターの言葉が頭に入ってくるのに、一瞬、時間がかかった。
脳が受付を拒否したようだ。
いつかこうなるのではないか、という予感はあった。
だが、そうなって欲しくない、と願っていた。
フローラにも十分警告を与えた。
レイターは『女性には誰にでも優しい』そこをはき違えるとフローラ自身が悲しむことになると。
フローラはレイターの横で、透けるような肌を赤らめてうつむいていた。緊張したその面持ちは美しかった。
「お、お坊ちゃま。ど、どうしましょう・・・」
いつも落ち着いているバブさんが、うろたえて私に助けを求めた。
私はフローラにたずねた。
「フローラ、それはお前の意思なのか?」
「はい」
フローラは顔を上げ、私の目を真正面から見つめた。深い色の瞳。
決意のこもった、揺るぎのない返事だった。
二人の動きを止めるための選択肢が消えていく。法律面、倫理面、ありとあらゆるアプローチが私の手からすり抜けた。
私は絞り出すようにして声にした。
「それでは、どうしようもないな」
恋の炎は障害があればあるほど燃え上がる。ここで私が駄目だと言ったところで、一度火がついてしまったものを、消せるわけではない。
フローラが悲しむだけだ。
「あんた、珍しく話がわかるじゃん」
レイターがにやりと笑った。
怒りが込み上げてくる。
レイターを殴りつけたい。
激しい衝動に襲われ、拳を握りしめた。鼻から強く息が噴き出す。
だが、こいつを殴ることに正当な理由は無い。
しかも、レイターは殴られ慣れている。多少、痛い思いをしたところで彼にとっては日常茶飯事の一幕だ。
私の感情が少しすっきりする代償として、自分の拳を痛めるだけでしかない。
「一つだけ言っておく。お前もわかっていると思うがフローラは体が弱い。お前の都合で振り回すな。フローラを悲しませることがあったら、ただでは置かない」
暴力ではない。言葉で伝える。
ただでは置かない。
我が将軍家の全権力を使ってでも、ただでは置かない。
「わかった。約束する」
レイターは真面目な顔で答えた。
こいつは女癖は悪いが「約束する」と言ったことは必ず守る。「自分で決めたことが守れない奴はサイテー」というのが信条だ。
私はフローラの方を向いた。
「フローラ、レイターは社会の常識から外れたことを言い出しかねない。お前が知る法律や知識だけでは、対応に困難が生じる恐れがある」
「何じゃそりゃ、俺のことほめてんのかよ」
レイターが肩をすくめた。 中巻へ続く
・<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン