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洋服の作り手は説明下手だ

洋服の作り手達は一つ一つのモノに対して多くの想いを馳せながら、一つの作品を作り上げる。

ただ、多くのモノが説明の機会を持っていない。付加価値を沢山持ちながらも、消費者に理解されずに売れ残ってしまうこともあれば、作り手の想いから逸脱した使い方をされてしまう事も沢山ある。

買うか買わないかは消費者の自由だし、コーディネートなど尚更人の自由ではあるが、作り手の想いを汲み取らないことは、作り手にとっても、消費者にとっても、非生産的に想う。

今回は作り手の意図について考察して行きたい。


洋服の作り手の意図とは

一つの洋服を製品化するまでに様々なプロセスが存在する。例えばアウターを企画するとして、ターゲットの設定やパターン、デザイン、機能性、生地、付属物などの原材料の選定、調達、工場の選定など無数のプロセスを経てサンプルが出来る。

ファーストサンプルで製品化することなど無く、ミリ単位のサイズ補正や、デザイン修正などを繰り返し、製品化に辿り着く。

プロセス一つ一つにこだわりや意図が存在し、作り手からするとストーリーがあるのだ。

ただ、それらを説明する機会は限りなく少ない。

まず、リアル店舗だと販売員に委ねられる事になる。

販売員はシーズン毎に商品説明会のような会議に参加する、もしくはその会議に用いられた資料などに目を通し、作り手の想いを理解し、店舗で消費者に伝える役目を負う訳だ。

ただ、現実問題として接客を受けずに買う人は沢山いるし、接客を受けずに買わない判断をする人も沢山いる。更に言えば、全ての販売員が一度の会議に出た程度で無数に存在する商品の全てを網羅する事は難しいだろう。

また昨今ではPOPでの商品説明も増加しているが、ユニクロのヒートテックやエアリズムなど機能性商材なら説明がある程度は出来る部分はあるが、シルエットやデザイン、着心地などの説明には限界がある。限られた紙面では表現出来ないからだ。

一方でオンラインストアでは、商品説明のページがある。ただ、大半はブランドの説明だったりサイズスペックだったりで、違う商品でも同じような説明が並ぶ。

もともと、洋服は通販では売れない、と言われていた時代があった。それは試着も出来ず、質感も分からず、伝えきれない情報が多すぎるからだ。ただ、今や洋服はオンラインで買う時代が到来し、その説は結果として否定されたわけだが、オンラインストアで作り手の意図が伝えきれているとは思わない。

このように、作り手の想いや意図を伝えるのは非常に難しい。

「そんなのは洋服だけじゃない!」

と思われる人もいるだろう。確かに他のモノも作り手の意図が100%伝わっている物は無いと思うが、洋服が特に伝わりにくいと言うのは事実だと思う。

洋服はスペックを数値化、可視化できる物が少ない

電化製品はスペックを数値化出来る。スマートフォンで例えるなら、カメラの画素数や、HDDの容量、CPUのスペックなど、機能性を数値化し、分かりやすく伝える事ができる。

価格.comなどの比較サイトではスペックが様々なメーカーや、商品を横並びで比較出来るし、スペックの数値は主観が伴わない事実の数字なので、分かりやすく信頼度も高い。その為電化製品を通販で購入する人は非常に多い。

また、先に挙げたカメラの画素数や、HDD容量などの数値が一般層に浸透している事が大きい。そこまで専門性が高いと思われていないと言う訳だ。

一方で洋服の数値化出来るスペックはどんな物があるか。

まずはサイズだ。S.M.Lと言ったサイズを胸囲やウエストなどに細分化したサイズチャートはリアル店舗にもあるし、オンラインストアにも表示されている場合が多い。サイズが洋服の中で最も数値化しやすく、浸透しているものだろう。

ただ、一般に浸透しているのはウエストや胸囲、ヒップの3サイズ止まりだと思う。裄丈や、ワタリ幅、裾幅などでシルエットが連想できる消費者は一部に留まる。アパレルの現場で長らく働いているが、マイサイズを具体的に認識している人は少ない。

最も数値化しやすいサイズでもその有様だが、他にも数値化出来る物はあるが、サイズより更に伝わりにくくなる。

例えば糸の番手だ。super120などの表記やニットであれば〇〇ゲージなどの表記だ。デニムをはじめとする生地のウエイトをオンス表記することもある。ダウンジャケットのフィルパワー表記も増えてきた。

この辺りの浸透度は電化製品のスペックには遠く及ばず、好きな人しか知らない、気にしないような数値だ。

仮に、サイズスペックや先に挙げた数値を全て理解した人間が見たとしても、作り手の意図が全て伝わる訳でもない。

数値化しにくい部分が多すぎるからだ。

例えば「色」だ。

色は色味とトーンで決まる物で無数に存在する。リアル店舗の商品タグやオンラインストアの色表記に「ネイビー」と表記がされていたとしても、暗め、明るめもあれば、グレイッシュなネイビーもあるし、製品洗いでアタリなど表情に凹凸があるネイビーもある。それを一口に「ネイビー」としか表記出来ない事は色出しにこだわりのある作り手からすると、非常に悔しいはずだ。

シルエットが最も難解

シルエットは全てのサイズを数値化していたとしても、100%理解することは不可能だ。何故なら人によって体型が違うので、シルエットの出方は人によって変わる。モデル着用写真など、実際に着てみた感覚と大きく変わることも少なくない。

また、素材の織り方や厚み、混紡率などによって、ドレープ感や、ハリ感は大きく変わる。これらも作り手の意図は満載にある部分でなかなか伝わらない。

定番的なアイテムでも毎シーズン全く同じ形で販売することはなく、ミリ単位の補正や、混紡率などをトレンドなどを背景に変える訳だ。

付加価値はなんとなく伝わる

何だかんだと作り手の想いを伝える難しさを書いたが、市場では付加価値がなんとなく伝わり成立している。作り手としてのこだわりや付加価値になるであろうと考えているポイントは、分かりにくければ闇に葬られて売れ残るだけだ。

作り手に気を遣う訳ではない。付加価値が分かりにくいのもまた、作り手の責任でもある。

だが、付加価値が作り手の思うように伝わり、正しく消費者が判断できる仕組みが出来れば、双方にとってどれだけ有益かと思う。

実現すれば販売員と言う職業は淘汰されてしまう訳だが、最近のネット記事にあるような「〇〇年後にも無くならない職業ランキング」などには販売員はランクインする。

AIをはじめとするテクノロジーが発達しても無くならないとされるのは、作り手の考える付加価値を伝えれないと言う事なのだろう。

そうだと思う。何故なら無数にある作り手の考える付加価値は数値化するのが難しい以前に、消費者に響くポイントが人によって違うからだ。

ライフスタイルも違えば体型も違う。何から何まで価値観も十人十色だ。

まとめ

結論、作り手の考える付加価値を消費者が100%自分だけで理解するのは難しい。数値化されて分かりやすく伝える仕組みが出来たとしてもその人にとって響くかどうかのポイントは情報量が多すぎて難しい。

結局はリアル店舗で優秀な販売員に腹を割って相談して付加価値を提供してもらう以外思い浮かばない。

販売の仕事は尊いものなのだと切に想う。


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