202402鑑賞ログ
2月の鑑賞ログ。Filmarksはこちらから。
タイトルの後ろの数字は製作年。ネタバレ含むので見たくない人は気をつけてね。
記事内で用いている画像やあらすじは全部引用です。なにか問題などありましたらご指摘ください。
そういえば書いてなかった気がするんですが、紹介の順番は鑑賞順です。書いてたらごめん。
2月のベスト
ちょっと悩んだけど、2月は哀れなるものたちが一番良かったかなあ。
他にも楽しめた作品はいくつかあったんですが、個人的な好みにおける失点が一番少なかったのがこれ。舞台や衣装などの美術がとにかく素敵だった。アカデミー獲ってほしー。
哀れなるものたち(2023)
鳴り物入りで封切りされた印象だったんですが、意外とあっさり終映を迎えつつある一作。
月のベストに選ぶくらいには私は好きだったんですが、やっぱ性描写多めなのが世間的にあんましだったんでしょうか。まあR18指定な時点で観る人が限られてくるのは間違いないんですが……。
あらすじから窺える内容が内容なので、お高い視座から一方的にお説教されたりするんじゃないかとか邪推してたんですが、観たフォロワーに感想聞いたら意外と好感触だったので月の頭に鑑賞。
や~~~、良かったですね! 偏見のまま終わらせず足を運んで本当に良かった。
先にも書きましたが、大道具小道具問わずいちいち美術が素晴らしい。かわい~~~んだ。結構奇抜なはずのものもなんだか素敵に見えてしまうのは、やっぱりセンスが良いと思わせることに成功してるからなんですかね。音楽もずっと良いし。エマ・ストーンが絶え間なく美しいのも大いにある。
設定がわりとSF……というか、独特の世界観で結構悍ましいことをやっているんですが、そのコーティングが上手い。
取り扱うテーマの一つに「女性の自立」があるんですけど、「自立」の過程を本当にかなり最初からやるので、説教臭いというよりは奇怪なコメディチックに描かれており、世界観に圧倒されつつも素直に受け取れます。画面が白黒からカラーになる演出も、視覚的にわかりやすい上にやっぱり華やかで良いですね。
基本的に主人公であるベラがずっとパワフルに周りを巻き込みながら物語を先導していくので、ベラを好きになれるかどうかがこの映画の評価の鍵なのかも。あと性描写に耐えられるか。この点に関しては、確かに量こそ多いけどなんとなくあっさり見られたので、個人的にはそんなキツいものはなかった。なんでだろ。性搾取の文脈ではないからかな? いや、そういう側面もあるにはあるんだけど、暴力的でないというか。
二時間半近くあるが、中弛みらしいものはあまり感じない上に、観客が良いとこそろそろフィナーレだろうと思うあたりからなんかこう……すごい展開をぶち込んでくる。そこが「ここでそういう話になってくんの!?」という衝撃で一番度肝抜かれた気がする。飽きさせないというよりは、「これ本当に残りの時間で片づけられんの!?」というハラハラ感。
この映画にはよく考えなくてもかなり悍ましいオチが用意されているのだが、何故か皮肉や嫌味には感じず、妙に爽やかですらある。不思議。でもこの映画ってずっとそうだったような気もする。
TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー(2022)
観るタイミングを逃し続けていたのを滑り込みで鑑賞。間に合って本当に良かった。
私はホラーコンテンツが好きすぎるあまり最終的にものすごい耐性を獲得してしまった悲しき存在なのだが、マジで久しぶりにしっかり怖かった。こんなちゃんと怖がれたのいつぶりだろう。すっごい嬉しかったです。
この喜びだけで今月ベストに選んでも全然良かったんだけど、ホラー映画らしくしっかり不快感がある、というか主人公のことがマジで好きになれないし共感できないのでこう、すごく良い作品だけどベストに選ぶのはな……というところで惜しみつつ外しました。
ホラー見て怖がりたい人には本当におすすめです。キリスト教メインの国を舞台にした上でホラー耐性めっちゃある日本人が見てもばっちり怖い作品はちゃんと生まれるんだって感動しました。
こんなに怖がれたの、インターネットで「若者がヤク感覚でコトリバコ開けまくってはキメまくるみたいな作品」という感じの評を見かけ、ふーんwつまりB級ホラーです、かwつって油断してたのもまああるかなとは思う。この品評に嘘や誇張は一つも含まれていないのだが、ここからあんなしっかり怖くできるとは思わないだろ。
犬が物理的に加害されたりするわけではないんだけどちょっと嫌な使われ方するので、犬が好きな人には不向きかも。でも怖い作品を見たい人には本当におすすめ。
めっちゃ私情なんですが、このトーク・トゥ・ミーの製作会社であるA24作品のひとつ、ハズビンホテルへようこそをいまバカみたいに見てるので、A24作品に大きめの恩ができた感じ。
こうなるとさすがにありがとうございますと言わざるを得ないな……という気持ちがあるので、もう一本のドでかいA24作品もまあ……そのうち……とは思っています……。そのうち、そのうちね……。
千年女優(2001)
期間限定でリバイバル上映をしていたのでこれを機に鑑賞。見たことなかったんですが、千と千尋の神隠しと同年公開だったんですね。全く知らんかった。
お恥ずかしながら今敏監督作品自体初見だったんですが、ちょうどよかった……気がする。
私はホラー文脈における「現実と虚構が入り交じり、何が本当でどれが妄想なのかが曖昧になっていく」みたいな演出がかなり好きなのですが、これをこういう明るい、けれど少しの寂しさを内包している作品でやるとこんなに幻想的で美しい描写になるんですねえ。
ホラーだとこの手の演出は不安定さに直結していて、登場人物も観客もいま向いている方向がどちらかわからない、というような印象になるんですが、そういう不気味さや先の見えなさがない。ただこの先どこまで連れて行ってもらえるんだろうというワクワクがありました。
たったひとりを追いかけ続ける千代子の姿を、ドキュメンタリーという形式を用いながら彼女の作品とともに渡り歩いていくこの作品では、肝心要である「たったひとり」のパーソナルな情報はほとんど得られず、私たちは千代子とともにその背中や足跡を追いかけ続けるしかない。だからこそ、最後の千代子の台詞を予想できた観客は多いでしょう。その予定調和が美しい。
主人公である千代子にどんどん惹かれていく作品でした。
ミツバチのささやき(1973)
こちらは監督であるビクトル・エリセの新作がもうすぐ公開ということで過去作をリバイバル上映していたので、これが良かったら新作も観ようと思い鑑賞。
結論としては……まあその……私にはまだ難しかったですかね……! あんま合わなかったです。
99分というそんなに長くない上映時間だったのですが、ま~~~~起承転結の起伏が極端に少なく……穏やかで静かな一本なんですよね。眠らないようにするのに結構頑張ったし、何人かは完全に寝てた。気持ちはわかる。
主演であるアナ・トレントの眼差しに全てを語らせる作品なので、彼女が刺さる人向けなのかなと思います。この作品から彼女のファンになってしまう人がいるだろうことは想像に容易い。
幼い少女の過渡期、身の回りで起きたあまりに劇的な事実を描いていくのにここまで静を保つのは間違いなくこの監督の手腕なのかなとは思いましたが、私にはまだ荷が重かったです。
コット、はじまりの夏(2022)
あらすじを見て、この手のヒューマンドラマ絶対好きだなーと思い鑑賞。
結果やっぱめっちゃ好きでした。わかってたけど良かったです。
穏やかで優しい映画なんですが、登場人物みんなそれなりに問題を抱えているんですよね。それぞれが傷や寂しさや不器用さを抱えていて、無条件に上手くやっていけるわけではない。
きちんと棘が描かれているからこそ、未来の好転だけを予感させるような終わり方はしない。かといって意地悪なわけでは決してなくて、このかえがえのないひと夏がこの先も主人公を支えてくれるだろうと信じさせてくれる希望がある、そのことにどうしようもなく胸を打たれる。
ドラマティックな作品ではないからこそ、なんでもない些細な瞬間を眩しく切り取っていく。この夏の記憶をきっと、何度も取り出しては大切に慈しむんだろうなあと想像できることの喜び。
沈黙を肯定する本作だからこそ、「大好き」「愛してる」といったようなわかりやすい言葉を使わない、使うことができない三人の絆や親愛の表現にほろっときちゃう。
ラストシーンでマジでぼろぼろ泣きました。
ラ・ジュテ(1962)
YouTubeでの期間限定無料公開が話題になっており、TLで同時視聴の話が持ち上がっていたので混ぜてもらい鑑賞。
白黒の写真を連続して映していく手法の作品で、見たことない製作方法のものだったので面白かったです。フォト・ロマンっていうらしい。かっこよかった。
画面もずっとばっちりキマってたんですが、こう、私がね……そもそもSFを楽しむ才能があんまないというか……。
30分くらいの短い作品なのもあり、そのまんま良質なSF短編小説みたいな印象です。
こういう作品がこの時代に出てきたことにも大きな意味があるんだろうな。
正味個人的にはそんなに刺さらなかったんですが、見られて良かった。
枯れ葉(2023)
長いこと上映しているので、そんなに良いならどっかで観に行けたらなーと思ってたら犬のステッカーが特典にもらえるようになり喜び勇んで鑑賞。
これも静かな作品でしたね。終始淡々としているんですが、不思議と退屈を感じさせない。
作中の色彩や背景美術・セットなどのセンスの良さもあるんでしょうが、何よりも作中度々流れるラジオから聞こえてくるロシア・ウクライナ間の戦争のニュースを伝える音声が常に我々を現実の際に留めるからかもしれません。
上映時間も80分と短めなのも上手いこと作用している気がする。それなりにご都合主義的だったり映画っぽい展開も作中あるんですが、この作品の持つ静謐さのノイズになることはありません。なんか言うのも野暮かな、と素直に思わされる。
いや本当のこと言うと作中男をフッたあとに犬を飼った女が素直に復縁したところだけマジか。とはちょっと思った。犬がいたらもうそれでよくないか? そんなことないか?
まあそんな野次は置いといて、素敵な作品でした。
梟ーフクロウー(2022)
この冬は視覚機能に難を抱えた登場人物のいる映画がアツい! その一。
なんか……良くも悪く韓国っぽい作品だったかなー、というのが素直な感想ですね。気になってる人は配信待ちでいいんじゃないでしょうか。
全体的に出来は良いんですけど、私は韓国作品のあの……登場人物が感情を吐露するシーンはどんなに静かにしておくべき場面でも大々的に大声で! みたいなのが結構苦手で……あと主人公補正ものすごくて……わりと意地悪なツッコミいれたくなるご都合展開多かったですね。鍼って本当に……そうか!? ていうか主人公とガキさっさと殺したほう良くないか!? いや……主人公殺せよ! 王族殺害大歓迎に方向転換したのか!?
ただこの話自体が史実上の不審死を取り扱ったものであり、そのへんはさすがに面白かったです。
個人的には細かい粗が気になってしまってそんなでしたが、歴史系の韓国ドラマ好きな人は好きそう。
グランド・ブダペスト・ホテル(2014)
アマプラに来てたので鑑賞。
いや正直めっっっちゃ面白かった。
本当に面白かったんですが、途中で……猫がさあ……! 猫の扱いが本当に最悪でさあ……!! というこの一点のみで二月ベストに選べませんでした。正直ほぼ意地だし、これでもかとばかりに賞獲ってんのも納得です。こんなん面白いよ。
ま~どこで切り取っても映像の美しいこと。本当に可愛らしくセンス良く、しかし意外と景気良く人は死ぬし人体損壊もする。終始美しい世界観で行われるそれらに最初は戸惑いもするが、それすら含めて面白い。全体的にあらゆる勢いが良く、下ネタもかなり飛び交う。
絵画のような舞台を背景に行われる治安の悪いドンパチは、猫の扱いの悪さを考慮した上でなお間違いなく一見の価値がある。
100分という決して長くはない上映時間で次々と展開が進んでいき、やるべきことと伏線を鮮やかに回収していく。そして訪れるラストの寂寥感。
とにかくエンタメとして優れた一本。猫のことさえなければかなりいろんな人に勧めたかった。猫のことさえなければ……。
欲望という名の電車(1951)
一身上の都合で鑑賞。
いちいち言葉選びのセンスが秀逸な映画。
主人公であるヴィヴィアン・リーの不安定な演技がとにかく巧み。名家育ちの抜けない彼女の挙動・言動はまるで地に足が着いておらず、いつまでも夢見る少女のよう。そんな虚飾だらけ嘘だらけの女が突然家に入り込んでくるんだから、妹夫婦としてはたまったもんではない。
登場人物全員にそれなりに問題があるはずなのだが、終盤なぜか突発的に発生する謎性暴力で一人の男が全部搔っ攫って優勝していく。なんでだよ。これさえなければまあ突然人の家庭に入り込んでくる口から出まかせ女がなんだかんだ一番悪いよねで終わらせられただろ。全員人生がめちゃくちゃになっていてすごい。
当時の舞台の雰囲気などが知れて良かった。
ポトフ 美食家と料理人(2023)
これも長いこと上映してる上フォロワーから勧められたので鑑賞。
まああらすじの内容的に嫌いなわけはないと思っていたが案の定良かった。ていうか丁寧な調理シーンがあるというだけで一定以上の評価を約束してしまう。デブだから。
調理・食事のシーンの占める比重が大層大きい映画であり、ず~っと美味しそう。スケジューリングをミスり腹に何も入れられないまま観てしまって本当につらかった。
料理以外の日常シーンも多々あり、結構直接的に官能的な部分も描くのだがエロティックで品がある。本作も美術や衣装にかなり気合が入っており、どこに視線をやっても目が楽しい。
これもそうなるだろうなあ、という展開が訪れるのだがそれがまあ苦しい。素人目にもわかりやすいくらいの光の使い方が印象的。
ラストの二人のやりとりの純粋さにちょっと泣いてしまった。
落下の解剖学(2023)
この冬は視覚機能に難を抱えた登場人物のいる映画がアツい! その二。
二月一番期待していた作品だったのだが、正直なんか思ってたのと違った。
雪上の死体とそれを発見する家族というキービジュアル、「事故か、自殺か、殺人か――」というキャッチコピー、クライム・スリラーといったジャンル等々からなんとなくサスペンスっぽい、真実を解き明かしていく感じの作品を連想していたのだが、実際はほぼ裁判傍聴映画。
まず事故の線が速攻で消えるので、自殺か他殺かをとにかく裁判で争う。この時点でもう思ってたんとだいぶ違くてビックリした。その速度で事故の線消すのにキャッチコピーに入れてきたのかよ。
被告が担当弁護士にも観客にも事実を開示しなかったり嘘をついたりを重ね、周囲の証言も二転三転し、どんどん嫌~な事実が詳らかにされていく。
その上で、最後まで裁判で開示された以上のことを観客も知り得ない。この事件の真実を、第四の壁越しにも知ることは叶わないのである。司法の出した結論だけがこの映画における事件の全て。
この手の作品にありがちな、安易でチープなオチが用意されていないところはかなり評価できる。
犬が寄り添い二人で眠る、その手が血で濡れていようといまいと、犬はただ人を愛してくれる。そういうラストシーンが観客の疲弊にも寄り添ってくれていて良かった。
海外では「French hot lawyer」として作中のフランス人弁護士が話題になっていたっぽいのだが、確かに色っぽくてかっこよかったです。被告との関係性もエロい。
犬はずっと可愛いし出番もかなり多いんですが、途中でちょっと酷い目にも遭うので注意。
思ってたのとは違ったけど、それなりに楽しんで観れた。
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア(1997)
リバイバル上映を観に行くかどうか迷ってたフォロワーがいたので、突発的に誘って鑑賞。
すげ~~~~~面白かった!! 急に入れた予定だったけど観に行けて本当に良かった。
バカとバカの男二人組がそれぞれパターン違いでやたら出てくる。この時点でもう面白い。
始終倫理観は終わっているのだが、病死目前の二人がメインで大暴れするため、たぶん医療従事者は観るのがつらい。私ですらちょくちょく医療従事者のことを考えて胸を痛めてしまい、ここの個人的な失点のせいで二月ベストに入れられなかったところはある。
台詞回しがずっとお洒落。「天国じゃ、みんなが海の話をするんだぜ」というキャッチコピーのスマートさ。出てくる車もずっと可愛い。
90分という尺ながら怒涛の展開が続くので、「海を見に行く」という二人の単純な目的が果たされるかどうか最後までハラハラさせられる。よくあんだけの展開をこの尺に収め切ったな……。
生きて果てし物語といった感じで、この結末は観客の誰しもがわかりきっていたものだが、それでもその生の灼けるような鮮烈さが彼の人生の幕切れを陳腐にしない。
正直こいつらが天国に行けちゃったらそれはそれで最後の審判にはかなり問題あるだろ!! と思わざるを得ない。得ないのだが、それでも彼らが天国の扉を叩いたのならばその先、海の青さを語らえていればと願ってしまう、そういう魅力ある作品だった。
総評
以上、2月の鑑賞ログでした。
2月、個人的な大ヒットはそんなになかった代わりに平均点が高い感じ。あとクオリティが低いわけでは決してないんだけれど、純粋に私向けではないかな~~~という作品も複数ありましたね。全部全力で楽しめたらもちろんそれが一番良いけど、まあそうじゃないからこそ刺さる作品が沁みるようにも思えます。
今月は3日に1本以上くらいのペースで観ていたため、ちょっと書くのが大変でした。結構Filmarksの感想わりとそのまま持ってきてる。すんません。でもどれも観られて良かった。
こうして並べて感想書いて改めて実感しましたが、映画ってラストシーンが一番心に残る。当たり前のこと太字にしてすんませんなんですが。
特にヒューマンドラマ系はラストで大体泣いてますね。まあ締めなのでそれはそう。
対照的に3月はこれ観よう! っていう上映作品がそんなにないので、今のところ配信でなにかゆっくり見ようかなーという感じ。
ラストエンペラー、オッペンハイマー、変な家あたりは劇場行くつもりです。あとペナルティループも行けたら。
なんかおすすめあったら教えてね。