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実習生の帰国便を眺めながら【技能実習生との日々】


飛行機の写真から感じる人生

※これは2022年5月のこと、忘れられない出来事なので書いてみた

ごく普通の、というよりは見慣れたベトナム航空の青い機体の写真がある。それは2022年5月に実習期間を終えベトナムへ帰国する実習生(女性)を見送った時に私が撮影したものだ。

その時に帰国をした実習生は当初の3年間の技能実習期間を終えた後も2年間の制度延長をして働いてくれた子だった。5年間の技能実習期間とコロナ禍における帰国困難者用の延長ビザ(就労可能の特定活動ビザ)を含め、5年6か月もの間、私たちと一緒に働いた。そして母国の母親から帰国して欲しいとの願いから会社を卒業した。

(2022年5月、国際線の運航が1日10便も再開していない頃だ)

2022年5月当時のセントレアは国際線の運行が回復しておらず、当日の空港のチェックインカウンターも観光客は皆無だった。当日のフライトは数少ない運航便であり、ベトナム人にとっては数少ない帰国のチャンスでもあった。

そのため空港のチェックインカウンターの列はベトナムへの帰国者で長蛇の列だった。文字通りの大行列でチェックイン作業は遅々として進まない。定時運航の出発時刻になっても行列は続いていた。

送迎デッキにて

5年6か月一緒に働いた実習生の帰国、私にとってはベトナムの娘との別れだった。私は送迎デッキまで行き、飛行機が離陸するまで見届けようと思った。

この便の搭乗者は帰国するベトナム人がほとんど。コロナ禍で帰国困難となった実習生も数多くが乗っていたであろう。
搭乗者の皆がやっとの思い、本当にやっとの思いでの帰国であったはず。機内には何百人が乗っているだろうか?

(定刻よりかなり遅れての出発だった)

ノロノロとプッシュバックされる飛行機、私にはその飛行機が、ベトナム人にとって日本で過ごしたあふれんばかりの想い、人生のまぎれもない一時期を詰めこんだ機体に見えて仕方がなかった。

私はこの飛行機の写真を見るたびに、搭乗者は日本で幸せだったであろうか、良い人に出会えただろうか、お金を稼ぐことができたであろうか、様々な想いを想像してしまう。

そして技能実習生の生活指導員としての私自身としても、実習生を幸せにする責任を再認識させられる写真にもなっている。現在在籍中の実習生が帰国する時、飛行機に乗った時に良い思い出、幸せに過ごした日本の日々を抱きながら帰国できるようにするのが私の仕事だと。

嬉しくも切なくも温かい思い

空港の送迎デッキで私は切ない顔をして機体を眺めている会社員風のおじさんを何人か見かけた。おそらく私と同じく実習生を空港まで送り届けた人であろう。送迎デッキまで、そして離陸まで見送りに来るということは、会社としても個人的にも実習生と良い関係を築いていた人であったはずだ。

(元気でね)

帰国まで見届けた安心感、実習生対する感謝、別れの寂しさ、それらが混在する表情だった。中には涙ぐんでいる人もいたようだ。別れは寂しいが、私は何とも言えない心に温かいものを感じていた。

帰国後に届いたメッセージ

(ベトナムの地方在住の彼女、私はまだ彼女に会いに行けていない)

技能実習生から特定技能への切り替えとなり、2024年の今は帰国よりも国内での引越しが増えてきた。私が実習期間を終えた技能実習生を空港まで送り届けたのは彼女が最後となっている。

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