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Day by Day 2023-09-11 バレエ・シューズを履いたデューク・エリントン

未聴フォルダーを眺めていて、エリントンがあることに気づき、これ、聴いておくか、と深く考えずにFB2Kにドラッグし、メール書きのBGMとして流していた。

ふと、タイピングの手が止まり、俺、さっき、何をドラッグしたんだっけ、と首を傾げた。オーケストラ音楽なのだが、古典風と4ビート映画音楽風のあいだを揺れる音で、こんなものかけたっけ、と見当識喪失じみた気分になった。

FB2Kの表示を見て、ああ、そうだ、エリントンだった、こんなシンフォニック・ジャズ風の曲もつくったのか、と思いつつ、フロント・カヴァーを見ると、Naxosのロゴがある。古典のレーベルじゃないか、ナクソスがなんでエリントンなのよ、と思い、ライナーを読んだ。

晩年の曲が中心(どうりで、うちには他のカヴァーがあまりない)で、バレエのために書かれた曲などもあって、エリントンの曲作りも古典に歩み寄っているいっぽう、古典の人たちもちょっとだけ4ビートに歩み寄りつつ、エリントンの折衷的な曲を集めてみた、という雰囲気で、古い有名曲はTake the "A" Trainのみ(非ジャズ的だが、悪くないアレンジ/レンディション)。

古典と4ビートの最大の違いはシンコペーションで、古典の人たちはシンコペーションが不得手と来ているから、そういう意味では、あまりエリントンを聴いている気分がしないのがちょっとアレだが、バレエ曲"The River"からの抜粋(あるいはこれですべてで、5楽章構成なのかもしれないが)などは、なるほど、エリントンは老いてこういう境地に辿り着いたのね、と納得する出来だった。

Enrico Pieranunzi - Blues & Bach: The Music of John Lewis これまた4ビートと古典の折衷的試み。ジョン・ルイスの楽曲をチェンバー・オーケストラ風にアレンジした。エリントンのBlack, Brown and Beigeよりジャズ寄りの音で、多少のグルーヴはある。不思議なことにグレイトフル・デッドのオーケストラ曲のようなムードもある。Terrapin Stationの手触り。

このあいだ、古典に近寄せたアレンジのジョン・ルイス楽曲集を聴いたばかりで、あちらの世界では、そういうアプローチが静かにはじまっている気配を感じる。

古典ギター界は、60年代のロック・ギターの大変革をよく知るプレイヤーたちばかりになり(早い話が、彼らはみな子供の時にヘンドリクスを経験したのだ!)、イエペス&セゴヴィアは遠くなりにけり、という盤がすでにたくさんリリースされている。なかにはセミアコースティックのエレクトリックなどという、古典世界から見れば「野蛮な」楽器を使ったものまである。ファンファーレなしで、地殻変動がはじまり、それはもう当たり前のことになってしまった。


Takemitsu Tohru - Complete Works & Transcriptions for Solo Guitar (Flavio Nati) 武満徹によるギター曲およびギター用編曲集。Here There and Everywhere、Hey Jude、Michelle、Yesterdayというレノン=マカートニー作品やポップ・スタンダードのThe Last Waltzなどの武満によるギター・トランスクリプションが収録されている。近ごろの古典ギター界では、若いプレイヤーがポップ系、4ビート系の楽曲をカヴァーするのはごく当然のことになっている。

むろん、古いスタイルに固執する人たちのほうが多いのだろうけれど、どんな世界でも、新しい時代に合わせようとする勢力が生まれるのは当たり前で、古典音楽世界でも、ギターからはじまった変動が、他のセクターにまで徐々に浸出しはじめたのだろう。

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