進撃とヒロアカの同世代観
『進撃の巨人』の作者・諫山創と『僕のヒーローアカデミア』の作者・堀越耕平は、同じ1986年生まれであり、二人の作品には同世代ならではの共通点がいくつか見られます。日本の歴史的背景や社会的な影響を踏まえると、彼らの作風やテーマに共通する要素が浮かび上がります。
1. 社会の不安定さへの感受性
諫山と堀越は、1990年代から2000年代にかけて日本で成長し、この時期にはバブル経済崩壊後の長期不況(「失われた10年」)が続いていました。この経済的不安定さや社会的な閉塞感は、彼らの作品に反映されています。『進撃の巨人』では、巨人との戦争や人間同士の対立、恐怖と生存の葛藤が描かれていますが、これは社会の不安定さや無力感に対するメタファーとして解釈できます。一方、『僕のヒーローアカデミア』では、超能力を持つ「ヒーロー」と「ヴィラン」の対立が描かれ、社会全体の秩序が不安定になっていく様子が描かれています。両者とも、個人が巨大な力(社会的・政治的な圧力、超能力)に直面し、それにどう立ち向かうかがテーマになっています。
2. 集団と個の関係性
両作品とも、個人と集団の関係性が重要なテーマとして扱われています。『進撃の巨人』では、エレン・イェーガーを中心としたキャラクターたちが、「自由」を求めて壁の外の世界を探索しようとしますが、その過程で集団と個人の間に葛藤が生じます。『僕のヒーローアカデミア』でも、デクが個々のヒーローとしての成長を遂げる一方で、クラスメートやヒーローたちとの協力が物語の重要な柱となっています。この集団と個人の関係は、1990年代以降の日本における「個の自由」対「社会の秩序」というテーマと共鳴していると言えます。
3. 無個性からのスタート
エレンは、初めは巨人に対抗する力を持たない普通の人間としてスタートします。彼は巨人から母親を守れなかったことによる無力感や、巨人に対する復讐心が物語の大きな動機となります。この無力感は、仲間たちとの関係や成長を通じて克服されていきます。デクも、初めは「無個性」としてヒーローになりたいという夢を抱きながらも、自分に特別な能力がないことに対して深い挫折感を抱えています。この「無個性」は彼の成長における大きな壁となります。
4. ヒーローとアンチヒーローの描写
ヒーロー像の描き方も、両作品で共通しています。『進撃の巨人』のエレンやリヴァイ、そして『僕のヒーローアカデミア』のデクやオールマイトは、ヒーローとしての強さだけでなく、その内面の弱さや葛藤が強調されています。特にエレンは物語の中でアンチヒーロー化していき、道徳的なジレンマを抱えたキャラクターとして描かれます。一方、デクも「無個性」からヒーローとしての道を歩む過程で、何度も挫折や内面の葛藤や闇落ちなどを経験します。ヒーローは存在しているが、社会全体は不安定で、ヴィランたちがその弱点を突いてくる。ヒーローたちの存在が絶対的な正義というわけではなく、彼ら自身もプレッシャーや葛藤を抱えています。
4.ヒーローは完璧じゃない
昔のヒーローは、無敵で完璧なイメージがありました。でも、堀越先生も諫山先生も、ヒーローや主人公が完璧ではなく、たくさん悩んだり、失敗したりする姿を描いています。エレンは、強くなりたいと願って巨人に立ち向かいますが、どんどん迷い始めます。自分が本当に正しいことをしているのか悩むんです。デクも、最初は「無個性」という能力がない少年でしたが、強くなるために苦労を重ね、ヒーローとしてどうあるべきかずっと考え続けています。この「ヒーローでも悩む」という描写では、どちらも完璧じゃなくても、それでも前に進もうとする姿も描かれています。これは、従来の無敵で完璧なヒーロー像とは異なり、より人間味のある悩めるキャラクターを通じて、現代の視聴者に共感しやすい物語を構築している点で共通しています。
5. 世代としての「理想と現実」のギャップ
二人の作品に共通するもう一つのテーマは、「理想と現実のギャップ」です。諫山の『進撃の巨人』では、自由を求める理想が、実際には壮絶な犠牲とともに達成されるという厳しい現実が描かれます。堀越の『僕のヒーローアカデミア』でも、ヒーローという理想的な存在が、社会的な期待やプレッシャーの中でどのように苦悩するかが描かれています。理想のヒーローでありながら、現実にはそんなに簡単に「完璧」にはなれない。エレンもデクも、理想を追い求めるが、その過程で自分や周りが傷ついてしまう。これは、経済的な繁栄が約束されていたバブル期を経験した後、現実的な困難に直面した彼らの世代に特有の視点と言えるでしょう。
6. 歴史的背景と「閉塞感」
1980年代後半から1990年代にかけての日本は、バブル経済の崩壊や地震、オウム真理教事件など、様々な社会的不安を抱えていました。二人の世代が経験した歴史的な影響や、閉塞感や不安感は深く作品に反映されています。両作品とも、戦いの中にある絶望感や、集団の中での個の葛藤、とても現代的なテーマが浮き彫りになる。『進撃の巨人』の壁の内外という設定や、『僕のヒーローアカデミア』のヒーロー社会の規律と不安定さは、閉鎖的で不安定な時代背景を象徴的に反映していると考えられます。
まとめ
諫山創と堀越耕平は、同世代として日本の社会的・経済的な不安定さを経験しており、その影響は彼らの作品に多くの共通点を与えています。彼らの作品は、戦争や個と集団の葛藤、ヒーロー像の再解釈、理想と現実のギャップといったテーマを通じて、現代社会における複雑な問題に対する深い洞察を提供していると言えます。