専門商品のネット乱売の理由と、メーカーや店舗(サロン)でのその対策。
まえがき
皆さんは月のどの程度、インターネットを通じて商品購入されますでしょうか?私の場合、日常的に利用している商品や、場合によっては洋服をネット通販で購入することが御座います。
ひと昔前、店舗で購入する事しか購入チャンネルがなかった時代と比べ、今は、ポイントによる交換や、クラウドファンディングによる応援による商品交換も含めると幾通りの方法でネットで物の購入が出来る時代として、当たり前のように私たちは利用しているはずです。
そんな生活の利便性の影に、これまでの商習慣に囚われ過ぎて悩んでおられる方がいます。私もその一人だったかも知れません。一時は、その事態に悩まされ恨みもしましたが、時代のトレンドは大きく早い。その事にいち早く気づく必要があります。
私が経験した過去のネット流通における問題体験を通じて、今解決すべき課題について、少しお話し致します。
1,ネット乱売によるクレーム勃発と業績悪化
私が、エステティックサロンや美容室等、所謂ビューティプロショップ市場における美容機器販売メーカーとしてスタートしたのは、2011年5月の頃でした。観測史上最大となった東日本大震災直後の事で、世の中は経済活動が低下している最中での挑戦でした。この頃の業界は、震災復興に立ち上がり日本経済や復興を支援する人に溢れ、希望と夢に燃えた経営者が多い時期でした。
私は、創業間もない挑戦が故に、大変不安な中で展示会に出展し、仕事に呪われているかの様に、没頭した日々が今でも思い返すことが出来ます。震災後とは思えぬ程、注文を頂戴し、駆け出しとしては順調ではありましたが、早期資金回収する必要性があり、私は代理店と呼ばれる地域に根付いたメーカーに変わって営業代行頂ける企業とのパートナシップを軸に確実に業績を伸ばしていました。
その殆どが、紹介や展示会での出会いからの取引が100%でした。当時、スマートフォンはかろうじて登場しておりましたが、LINEはまだ存在しておらず、Facebookが灯台し始めた頃で、マーケティングツールとして、ほとんどの方がこのFacebookを利用していた記憶です。
今となっては、InstagramやTikTok、Twitter等のソーシャルメディアが登場し、好みやターゲットに分けて使い分けされている方も多く、広告費をかけない販売促進ツールとして活用されている方は大変多いのではないでしょうか。
そうこうしている2013年に異変が生じます。
あるサロンオーナー様からこの様な悲痛の声が届きました。
「森川さんところの商品が、私たちが仕入れる金額よりも安く出回っている。それが一つだけでなく複数出回っている。これでは商売が難しい。なんとかして欲しい」という内容でした。
私が提供している美容機器というのは、約5万円の美顔器でした。その場で購入されるというよりも、現場サロンで提案を受け、一度ご家族(決裁者がご主人だったりするケースがある為)と話し合って、次回来店で購入されることが多かった為、帰宅後にネットで情報検索し、そのまま購買されるお客様が増えていました。
そんな中、インターネット販売業者と取引したことがない私の商品が、100個や200個の単位で出回っている驚愕の事実をお客様から教えられることになったのです。
現場で商品を知り、説明を受けたお客様が、ネットで安く商品購入される。
例えるなら、デパートで靴のサイズだけ確認して、ネットで安く買うような感覚で、現場サロンは説明を受ける場所、商品を体験する場所、というような役割に変化していることに気がついたのです。
一般の消費者様からすれば、当然喜ばしいことではあるのですが、現場サロンで活躍される方々からすれば、店舗売上を上げる為に、商品を仕入れ、専門的知識を学んだ努力が水の泡に化す現象が起き、一つの社会的問題に発展したのです。
なぜそのような事が起きてしまったのか。
考えられるのは、所謂”不正流通”によるものと考えられます。そして、そのような不正流通を引き起こしてしまった理由として、私は2つあると考えています。
その2つとは、
❶ ディーラーさま先に大量在庫を保有させてしまったこと
❷ 手前味噌で恐縮ですが、急激に知名度が上がりネット業者に目を付けられたことにあります。
販売好調時から、インターネット業者が、代理店様に商品を譲るよう迫っていたり、サロン様にも在庫を買い取る等の業者も現れ始めていました。
真面目に頑張っているサロン様がおられる中でのこの対応に私は憤慨しました。そして、この対策に情熱を注ぎ始めるのです。
2,ネット乱売を阻止しようと動いたら行政処分寸前まで至った
まず私は、サロン様から情報提供のあったネット通販会社に電話をし、市場混乱を解消する為に交渉を行うことを決め、営業活動を一時中断し、片っ端からネット通販会社に電話かけ始めました。
「御社で取扱い販売されている商品は、サロン専売商品です。現場で知識学習を行ったスタッフ様から、御社が不適切な金額で販売しているという申告がありましたので、商品掲載を取り下げて下さい」と単刀直入に電話を致しました。
私は直ぐに取り下げてくれるだろうと高を括っていましたが、思いのほか強者で問答対応に相当苦戦をしました。
「私たちは、御社の商品をより販売促進に繋がる広告を無料で行い、御社にもその貢献出来ているはずだ。販売を取りやめろというのは、自由競争の社会で、あなたのおっしゃることは横暴に過ぎない」と言われる始末でした。
怒りの感情を抑えながらも丁重にお願いするしかありませんでした。
一つも改善出来ない悔しい想いをしている時に、警察薬務課から会社に入電がありました。
「森川さんは、先日〇〇業者に対して、定価販売をするように指導されましたか?」という電話でした。
私は素直に「はい。行いました。」と答えると、「直ちに警察にお越し頂きたい。」と返答が返ってきました。何のことか、私が警察に呼ばれる理由も分からないままに、指定された薬務課の窓口を訪ね、こう説明を受けたのです。
警察「森川さんがやっておられることは、明らかな独占禁止法違反となります。このような取引制限を行い続けるのであれば、営業停止処分を言い渡す事になる。業務改善を早急に行って下さい。」と言われたのです。
私「ちょっ、ちょっと待ってください!自分は、自分の商品が大幅値引きされ、真面目に取り組まれている店舗の利益を保護を行いたい正義の気持ちでやっていることが、なぜ行政処分の対象になるのか私には理解できない!」
警察「森川さんが理解できなかったとしても、これは明白な独占禁止法違反です。直ちに業務改善を行って下さい。でなければ、然るべき処置を取らざる得ません!」
互いに語尾が強くなるやり取りの応酬の中、それでも納得の出来ない私は、「大変申し訳ありませんが、それでも納得が出来ない。この事について相談出来る人はいませんか?!」もはや喧嘩です。そうすると、”仕方ないなぁ”とも言わんばかりの表情で、公正取引委員会に出向くことを勧められたのです。
感情が高ぶっていたせいか、その足で公正取引委員会にノーアポで飛込みし、一連の事情を説明し理解頂こうと考えたのです。窓口で担当者は、私の話を最後まで聴いて下さいました。そして、私が最後まで話した後、その担当者さんはこう話されました。
担当者「森川さん、それが独占禁止法違反なのです」
私「えっ、さっぱり分かりません。詳しく教えて下さい。」
担当者「この独占禁止法は、一言で言えば消費者利益の保護が目的です。
インターネット上で、業者が独自の営業努力で1円でも安く消費者に商品を届けることは、消費者利益を生み出していることになり、定価で販売することや、ネットでの販売を規制することは、消費者利益を阻害する行為とみなされ、今のままでは、森川さん本当に独占禁止法違反として行政処分の対象になります。それでもその言い分を通すおつもりですか?」
私が無知であったことは否めません。しかし、信じてお付き合い頂いたサロン様に一矢報いたいだの気持ちでしかなかったのに、この時ばかりは悔しくて、悔しくて仕方ありませんでした。
黙りこくった私に、その担当者が口を開きました。
担当者「方法がない訳ではない。」
私「えっ。それはどんな方法ですか?」
担当者「方法は2つある。」
食い入る様に息をのみ、何が飛び出してくるのか戦々恐々でした。
その担当者は続けて次の2つを提案してくれました。
❶インターネットサービスを拒絶することなく、むしろ融合する道を選ぶ。
❷あなたが国会議員に当選し独占禁止法改正を行うこと。
この2点の方法でした。
❷の提案には、笑うしかありませんでした。
確かに日本民主主義国家ですから、国民が納得できない法律であれば、民意に沿って法律を改正することはできるでしょうが、途方もない提案に、この担当者は本気なのか、笑を誘っているのか分かりませんでした。
それでは❶が現実的かと思いながらも、「だからネット販売が嫌なのよね」と想いながら、その場を話られるしかありませんでした。それから私は、大量在庫を保有させないよう、取引条件を緩和し、ネット販売業者に出回らないよう流通コントロールすることで何とか対応することと、異常な値引き価格商品に関しては、自社で買い取り活動を行い、市場混乱を鎮静化する努力を図りました。
しかし、いたちごっこのように湧き出るネット販売に、精魂尽き果ててきていました。その時によみがえる言葉、公正取引委員会の担当者に言われた「インターネットサービスを拒絶することなく、むしろ融合する道を選ぶ。」という言葉でした。
私は、この言葉について真剣に考え始めました。何かヒントになるような気がしたからです。
3,そもそもなぜネット販売をメーカーやサロンが嫌がるのか?
私はこう考えました「もしネット上で、現場と同じ価格で販売されていたら」どうだったのか?すると現場と同じ提案額となるので、特に問題にならないのではないだろうか?
もしネット業者が、「〇〇さんが、▲▲サロンで知って、うちのサイトで購入して下さったので、少しですが営業協力金をお支払いします」と言うネット業者がいたらサロン様は、それを拒否するのだろうか?
そう考えていると、一つの答えが出てきました。
メーカーはネット乱売が嫌なのではなく、ネット乱売によってサロン様からのクレームが来るのが嫌なのではないだろうか?
また、サロン様は、自分たちの営業努力が実らない結果になるのが嫌なのではないだろうか?
そう考えると、サロン様の営業努力が報われ、メーカー様としても、それを感謝にされるSalon to customer(S2C)システム※のちにOMOシステムという呼称となる※という、サロンを軸とした販売システムを提供することが、人と人との交流を大切にする業界と、日常的にネット販売が当たり前にあるデジタル社会とを融合する一つの道筋ではないだろうかと私は結論に至りました。
もし、現実的にそのようなシステムが生まれることで、美容業界だけでなく、ありとあらゆる小売店を必要とする産業が、改めて売上向上の糸口になるのではないかと私は考えます。
例えば、代理店などメーカーに変わって販売される会社さんが、B to B to Cという一種のサプライチェーンの役割を持つことで、一般消費者を失うことなく商流を蓄積させることだけでなく、サロン様も営業時間外売上にも工場に繋がるものと考えます。
まだこの考えに至っていない、メーカー様やサロン様はおられるかも知れませんが、これからの人生設計やサロン経営には必要不可欠な、仕組みであり、考え方であるように私は思います。
4,S2C(Salon to customer)システム導入で変わる業界未来
冒頭から元も子もない事を言いますが、誰にも未来は分かりません。故に、私が思い描く社会が現実的になるとも断言出来ません。しかし少なくとも私は確信しています。
夢や希望を持ちエステティックサロンを開業しても10年後には、全体約9割が閉店あるいは廃業している統計データが存在します。様々な因果関係はあるでしょう。
地域の競争激化、トレンドの映り変わり等々、しかし、毎日お客様を獲得し蓄積する仕組みがあれば、永続的な収入軸を作り、本来の技術習得に集中する環境を整備することも可能だったのではないでしょうか。
私は、仕事には3つの区分が存在し、それぞれ実は異なるのではないかと考えています。
❶ サロン運営を行うために出来る仕事。
❷ 専門職をより楽しむ為にしたい仕事。
❸ 業界に関わったことで豊かになれる仕事。
この3つが、それぞれに何かを今一度考えるタイミングに来ているように思います。
❶と❷は、今の仕事の中でも取り組めることだと考えていますが、❸については、ある種の知的財産を生み出す出口戦略を、どのような会社の、どのようなサービスを取り入れるのかが重要だと私は考えます。
私は今年で44歳になります。
有難い事に、大きな病気になることも、体の不調もありません。そんな時期にこそ❸を早期に構築し、自分たちが理想とする引退後の収益軸を、考え、お客様の知財化を考える時期なのではないでしょうか?
ただ、
その事に気づき始めている人が増えているのも確かです。
しかし、その必要性や、運営の仕方は、これまでの仕事内容と比べても少し地味な割に、思考転換が必要で、少し学習が必要なのは言うまでもありません。
しかし、これまでのようにただ「頑張ろう!」というだけの突っ走る経営から、「考えるて行動する」という経営にいち早く切替なければ、本当に大切な人を守れなくなるかも知れません。
ネット検索すれば、様々な情報が掲載されています。
そして、人に聞けばアドバイスを持っている人もきっといます。
ぜひ、自分のお店、スタッフやその家族、基自分を守るためにも、今一度走りながら考えてみても良い時期に来ていると思います。
私のオススメや、その考えについてはS2C.Labが運営している「S2C.Labマガジン」にて、発信しておりますので、ご興味がございましたら、ぜひご覧頂ければ幸いです。
S2C.Lab
主宰 高山大樹
記事ライター 森川慎也