Product-Led-Growth|プロダクトで、プロダクトを売る
今回紹介する本は、ウェス・ブッシュ著「Product-Led Growth」。
副題が、全てを物語っています。
私は以前、SaaS企業で働いていました。
日本におけるSaaS界隈で言えばそれなりに知られており、実際にマーケティング&セールスの仕組みは確りと体系立っており、非常に学びの多い環境でした。
そんな会社に所属し、いわゆるBtoBマーケティング&セールスの体系を理解したと思っていました。
だからこそ、今回読んだ「Product-Led Growth」は衝撃的でした。
読み終わった後の感動をちょっとでも伝えたく、今回は読書記事を書こうと思いました。
こんな方におすすめ
「Product-Led Growth」について、要点を知りたい人
SaaS系で働いていて、一連のBtoBマーケティング&セールスは理解していると思っている人
会社やプロダクトによっては、これまで通りの方法が適していますが、知見を広げる意味でも「Product-Led Growth」を知っておいて損はありません。
「Product-Led Growth」とは一体何か。要点を絞って解説していきます。
1. 「Product-Led Growth」とは
Product-Led Growth(以下、PLG)を一言で言うと “購入前にプロダクトを試してもらうビジネスモデル” のこと。
例えば、SlackやDropbox、Zoomなど使用する前に説明書を読んだり、セールス担当に話を聞いたりといったことはせず、まずは無料版を使用するのが当たり前かと思います。
実際に使ってみて、わからないことがあればググって自分なりに学習していく。そんな能動的なプロダクトが、多く存在しています。
そうしたプロダクトは、それらプロダクトユーザーを介してユーザーを増やしていくこともポイントです。例えば、以下のように。
Dropboxに資料を格納し、URLを送る → 受け取った人がDropboxから資料をダウンロード ・・・自分もDropboxを使ってみる
ZoomのURLを、商談相手に送る → ZoomのURLから入って商談 ・・・次回の商談で、自分もZoomのURLを発行してみる
といった具合に。
無料ユーザーがいればいるほど、それらユーザーが広告塔となりプロダクトが広がる。
俗に言う広告やPRなどは、「認知・理解・体験」といったステップでユーザーや購買者を獲得しますが、まさにその逆。「まずは体験」と同時に使いながら「理解する」。そんなモデルが出来上がっています。
2. フリートライアルとフリーミアムの違い
PLGを語る上で、重要な考え方があります。それは、フリートライアルとフリーミアム。これら言葉自体は目新しいものではありません。
一見、一緒の意味に考えがちですが、明確な違いがあります。
名前の通り、トライアル=試し利用できるのがフリートライアルです。
プロダクトサイト等で「90日間、無料で使用可能」といった文言を目にするかと思います。フリートライアルは、複雑性の高い分野や業務等において、時間をかけて全機能をしっかりと堪能してもらい、効果を実感していただくといった場合に力を発揮します。
一方、フリーミアムは少し異なります。
フリーミアムは無料版で満足であれば、そのまま使い続けることができます。ユーザーは必要に応じて、有料プランにすればいいのです。
例えば、
「一部の社員が使用するクラウドサービスにおいて、格納できるファイル数に制限をかけ、一定以上のファイル数を超えて使用したい場合は有料プランになる」
といったイメージです。
フリーミアムにおいて、どんな機能に制限をかけるかが非常に重要になります。
次に、ユーザーがプロダクトから受ける価値について見ていきます。
3. プロダクトの価値
企業側、特にセールスの立場から考えた際に、「何を売っているのか」と問われるとプロダクトの機能について言いがちです。
逆の視点で考えると、顧客はプロダクトの機能を買っているのではなく、プロダクトから得られる対価に期待し、買っていると言えます。
そんな対価には3種類あり、それらを明確に定義することが重要です。
なぜならPLG(Product-Led Growth)において、プロダクトを通してユーザーはどんな対価を有意義に感じているか確認する必要があるからです。
3-1. 3つの対価
① 機能的対価
まず1つ目は、機能的対価=ユーザーが解決したい主なタスクのこと。
ユーザーは、それらプロダクトを使用することで自分が課されたミッションを確認したり、観察したりすることができるかを考えます。
例えば、リード数の獲得やコンバージョン数の確認など。
② 感情的対価
2つ目は、感情的対価=プロダクトの機能的対価から得たい、もしくは避けたい感情のこと。プロダクトを駆使することで、自社ビジネスの改善につながる驚きや発見を得られた瞬間の興奮などがそうです。
逆に、いち早くボトルネックを見つけ、損失を回避することができた安堵感などもそれに当たります。
③ 社会的対価
3つ目は、社会的対価=プロダクトを使ったことで得られる他者からの評判のこと。報告書を上げたり、ミーティングで発表したりする際、上司や同僚、部下からの賞賛や尊敬の念などがイメージしやすいかと。
こうした機能的対価・感情的対価・社会的対価が何かを定義し、プロダクトのプライシングやプロダクト指標を設定する。
そうすることで、売り上げとユーザー獲得モデルが連動するようになり、プロダクトの成長へとつながります。
こうした構造を理解する上で、「バリューメトリクス」という考え方が存在します。
3-2. バリューメトリクスの特定
バリューメトリクスとは、プロダクトから得られる価値を測る方法のこと。
具体的に見ていきます。
TikTokといった動画プラットフォームでは、動画のアップロード数。
Slackといったコミュニケーションツールでは、やり取りの発生したメッセージ数。
メルカリといったフリマサービスでは、取引が成立した数。
「一人当たり」や「100動画当たり」といった使用頻度による課金(機能的メトリクス)なのか、「視聴数」や「利益への貢献」といった結果に基づく課金(対価ベースのメトリクス)なのか、バリューメトリクスを特定することはプライシングに大きな影響を与えます。
バリューメトリクスを無視し、単に機能を充実させ、それらの使用を許可する課金モデルは、解約率が高まる傾向にあります。
なぜなら、大抵のユーザーは一部の機能しか使用しなかったり、機能がありすぎるとコストパフォーマンスを考えてしまったり、それにより機能が過剰/余計であると考え始めるからです。
良いバリューメトリクスは、
ユーザーにとって理解しやすい
ユーザーがプロダクトから得られる価値と連動している
ユーザーがそのプロダクトから価値を得れば得るほど、その数値が大きくなる
逆を言えば、「ユーザー数課金」は誤りであることがわかります。
ユーザーは、何に対してコストを支払っているのか、サービス体系はどうなっているのか、わかりやすい方がいいですし、コストを支払う代わりに価値を得られていると実感できているかをユーザーは気にします。
そして、そのバリューメトリクスがユーザー数に応じて拡大するかについても見極める必要があります。
4. ボウリングレーンと2種類のバンパー
最後に紹介したいのが、ボウリングレーン・フレームワークについてです。
ここまで読むと、「PLGってつまり、ユーザーがプロダクトに対して最も価値を感じる部分が何かを特定し、それをベースにプライシングをつけ、まずはフリートライアルかフリーミアムで体験してもらってユーザーを増やすこと」と見える構成になっているかと思います。
では、どんなきっかけや体験があると、無料ユーザーは有料ユーザーへとなるのでしょうか? プロダクトとコミュニケーションといった2つの側面からどうユーザーに向き合うのかについて見ていきたいと思います。
4-1. プロダクトバンパー
ボウリングのレーンを思い浮かべてください。レーンの両サイドにはガターがあります。そのガターに落ちたら球はピンまで辿り着けません。まさにプロダクトを使用するユーザー体験と一緒です。
ガターに落とさないために、バンパーを設置しましょう。その片方をプロダクトバンパーと呼びます。
プロダクトの体験がイマイチだとユーザー=球はガターに落ちてしまいます。ガターに落とさないために、プロダクトの体験をもってして、ユーザーをサポートすること=プロダクトバンパーが必要になります。例えば、
ウェルカムメッセージ
プロダクトツアー
プログレスバー
などが挙げられます。
使いやすい、使い続けたくなるプロダクトとは気持ちのいいくらいプロダクトからのサポートや案内がわかりやすく、ユーザーが望む体験へユーザーをスムーズに導きます。
PLGにおいて、プロダクトバンパーが圧倒的に重要です。ただ、世界一のプロダクトバンパーを作っても、一度離れたユーザーが戻ってこなければ意味がありません。
そこで、ユーザーとコミュニケーションを取るコミュニケーションバンパーも必要になります。
4-2. コミュニケーションバンパー
コミュニケーションバンパーは、以下のようなものが挙げられます。
利用ガイドメール
ケースステディメール
有効期限切れ警告メール / トライアル延長メール など
上記メールを駆使することで、ユーザーを啓蒙し、プロダクトに再訪させる。
プロダクトを利用するモチベーションを高め、有料プランを購入意欲をあげる。そんな役割をコミュニケーションバンパーが担っています。
一方、ユーザーを一緒くたにまとめコミュニケーションバンパーを展開してもあまり意味がありません。ユーザーの体験、例えばサインアップ時やユーザーのログイン頻度等に応じて送るべきメールは変わります。
コミュニケーションバンパーは自転車の補助輪のようなものなので、いずれは補助輪がなくても、自らの足で漕げるようになるのが理想です。
そのために、プロダクトの体験を充実させることの方が重要と言えます。
プロダクトが便利で使いやすいという体験があれば、一度ユーザーが離れたとしてもユーザーは自然と戻ってきます。
5. まとめ
私は以前、セールスに関する記事を書きました。
セールスが苦手だった私にとって、上記ブログ記事で紹介した本「Sales is 科学的に成果をコントロールする営業術」は衝撃的でしたが、今回解説した「Product-Led Growth」も非常に学びになりました。
フリートライアルやフリーミアムという言葉もなんとなく知っていたし、あらゆるBtoB商材はいわゆるBtoBマーケティング&セールスで売られていると考えていました。でも冷静に考えたら確かにおかしいよなと思うことがあります。
ユーザーからしたらクイックに使用したいだけなのに、なぜ問い合わせにおいてフォーム入力し、営業担当から連絡がくるまで使うことができないのか
まずは使ってみないとわからないのに、プロダクトを使う前に決済を取らないといけないのか
いざ契約したら、半年間という縛りがあり、途中解約できないのか など
そんな不親切なプロダクトやセールス体制が日本の至る企業で展開されていることでしょう。
PLGが合う・合わないは確かにありますが、自分が今後携わるプロダクトにおいてPLGの可能性があるか検討してみたいものです。
本を読んだ私の感動が、ちょっとでも伝わっていれば嬉しいです!
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