休業手当が欲しい
休業手当がほしい。わたしはバイトを減らされなかった。でも営業時間が短くなってるし、早上がりばかりで給料自体は減った。
実はそんなことはどうでもいいのだ。わたしは実家暮らしだし学生だしローンもないし扶養家族もいない。給料が減ったことは構わない。今月の携帯料金も払えるし、教科書代にも足りる。社長が従業員の前に姿を現さない。それだけが腹立たしい。
このコロナ禍を乗り越えようと社長自ら音頭をとって、言葉にし、態度に出し、直に語りかけてきたならば、給料が少なかったことくらい屁でもない。でも社長がそれしてないんだもん。なにもヒトラーになれって言ってんじゃないの、「悪いけど休んでもらう」って十文字あればよかった。
それどころか、社長はここ一ヶ月くらいバイトとパートに出会さないように、社員しかいないやたらと早い時間に顔を出す。逃げ回っているとしか思えない。休業手当の支払いは義務ですが?
社員には普段通りの給与を満額保証すると約束したらしいのだが、わたしはバイトである。しかして「バイトだから仕方ないわねえ」と泣き寝入りするようなヤワなバイトではない。ギャル舐めんじゃねえ。
こちとら新型コロナ拡大真っ只中の四月にはてめえの都合で週五で呼び出されて、しかも「今日は暇だから」で三時間で帰らされて、五月に入ったら入ったで隣の店舗が休業になって人手が余ってるからでシフト減らされてるんだよ。
でもこれも、ぶっちゃけわたし個人としては、社長から一言かけてもらえればこんな気持ちにはならなかった。しかもわたしのバイト先だが、高校生が多いのでわたしが発起しなければ休業手当の支払いはバックレられるかもしれない。
まあなにが言いたいかというと言葉というものが持つ力なのである。わたしは実直な性格(向こう見ずでもある)なので社長がすでに雇用調整助成金も受給せしめて懐に納めてるんじゃないかとすら思っている。
馬鹿で文系なりにインターネットで調べてみたのだが、従業員という立場から休業手当の申請に必要な手順というものがどうしてもヒットしなかった。
そもそもわたしのバイト先には労働組合もない。従業員のほとんどが学生バイトなので、数年単位で完全に入れ替わってしまうことを考えたら仕方ないのだろうが、困った。
休業者給付金の制度化を待つしかないのだろうか。確かこっちは平均賃金の八割程度を予定していた。うちの社長では休業手当は賃金の六割しかもらえないと思う。
雇用調整助成金についても理解を試みたのだが、営業実態と額面からして事業者負担分がある以上、最低の補償しかされないことがあまりにも容易に予想できる。
社長のガメツさを考えたら、休業手当も「過去三ヶ月間の賃金の合計÷計日数」の六割とか言いかねない。わたしたちはタイムカードを押して時給で働いているため、計日数で割られたらすっげえ困っちゃう。
週に一回とかしか出勤してない子もいるから、休業手当がめちゃくちゃ低くなる。これを出勤回数で割るという計算方法もあるらしいが、それをどうやって社長に主張すればいいのだろうか。
わたしは休業手当を申請したところで大した額にはならないか、あるいは現在の給料があるのでもらえないかもしれない。それでもどうしてもこれをやりたい。
社長がムカつくからだ。
せめて逃げ回らずに、どうせ毎日店に顔を出しているんだから、「悪いけど」とか「頼むよ」とか、たった一言あればそれだけでよかった。
顔を合わせなくたって、現代にはLINEもメールも電話もある。幸いなことに日本の識字率はほぼ100%であるのだから、たった五文字十文字を送ってくれさえすれば、それでよかったのだ。
わたしたちを使い捨ての駒にするならするで、きちんとそれをできるだけの度量のある人間であって欲しかった。このコロナ感染拡大下において、客もろくにいないのに営業させて従業員を無駄な感染リスクに晒したことも、会社都合で何十人もの高校生たちのシフトを突然消してなんの補償もしないことも、それを平然とやってのけるだけのある種カリスマ性であるとか、完全犯罪のようにやり遂げるだけの能力のある人であれば、わたしたちは可哀想な駒であり得た。有無を言わせぬくらいの大人であれば、小人は駒になり得た。
ありがとうやごめんねのたった一言を言えず、逃げ回っているくせに、この人は本当に逃げ切れると思っているのだろうか。わたしたちはこの人を許すしかないのだろうか。
わたしは明日ハローワークにいく。失業保険はハローワークで申請するらしい。休業者給付金も、ハローワークが窓口になるらしい。であればなにかヒントがあるかもしれない。
わたしがない知恵を絞って一つだけ出した案に、Wordで文面を捻り出して、会社名宛に内容証明で郵送する、というのがある。社長の家に。ただこれも、フォーマットがなければわたしにゼロからこれを書き出す能力はない。
ハローワークにフォーマットまでじゃなくても、記入例とか実例とかのヒントがあることを願っている。まあ唯一懸念されるのは、わたしが金髪プリンで弱冠(もはや弱冠でもない)二十一歳のうら若きギャルであるということである。