PC自動シャットダウンは自治体職員を救うのか
今回はボケなしです まじめ!
PC自動シャットダウンとは?
働き方改革やワークライフバランスを保つためという建前に、定時を過ぎると職員のパソコンを自動的にシャットダウンするやつです。事前に申請等を行うと定時時間以降もパソコンを使用することができます。
実装方法としては、専用のシステムやソリューションを使うほか、Windowsのタスクスケジューラでシャットダウンコマンドを発行する(途中で割り込みや再起動で使用が可能になるなどの弊害はありますが)等があります。お金をかけない方法でも工夫をすれば実現は可能です。(基幹スイッチの電源をタイマーにする方法もあります)
経緯
首長の一言から始まった
一般職員の時間外勤務の常態化もそうですが、弊社では管理職の時間外勤務による負担が課題になっていました。それなのに、管理職の時間外勤務状況をまったく記録していない&一般職員の時間外勤務も紙で決裁を行うものでしたので、年度末くらいにしか人事が集計できず、実態の把握がかなり遅れるという状態でした。
そこで僕は、まず勤務実態の見える化を行うため、勤怠管理システムの導入に着手しました。J-LISフェアやRFI等でいろいろシステムを見ていく中で、見える化機能がちゃんと充実しているシステムを選定し、予算を確保したところに、首長→人事課長からの天の声がやってきます。
パソコンの自動シャットダウンできないの?
もちろん拒否
情シスの僕は「手段が目的化」することを民間時代から何度も見てきました。当然まずは拒否しました。
できることはできますが、まずは業務を減らすなり効率化してからです
しかし向こうは伝家の宝刀「首長からの指示だし」。
はあーーーーーーーーーーーー(くそでかため息)
実装方法を検証
ただ、向こうも何も知らずに、いきなり無茶ぶりをしてきたのではありません。
実は、先ほど導入候補としていたシステムに、SKYSEAClinetView(以下「SkySea」と呼びます。)の連携機能(オプション)がありました。これは人事課も知ってはいたのですが、いきなりPCシャットダウン連携なぞできないと判断し、僕と人事担当者と相談し、当初の予算には含めていなかったのです。
そして、SkySeaは既に稼働しているので、SkySea単体でできないのかという指示も飛んできます。
じゃあとりあえず実現可能性の調査と技術検証をします。
そうして、まずはSkySeaで自動シャットダウンができるか調査しました。
弊社の構成
SkySeaの細かい設定はここでは説明しませんが、SkySeaクライアントからの申請をもとに、SkySea管理端末を持つ情シスが承認する流れです。
ただし、情シスの職員が帰宅していたりする場合もありますので、SkySeaには、解除コードを入力することで制限を無視して利用可能となります。この流れは全てSkySeaの機能で完結します。
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なぜ情シスが承認?
これはSkySeaの管理クライアントを人事に渡したくなかったことが原因です。機能として承認ユーザというものがありましたが、動作がよく分からず検証ができなかったため、情シスが承認する流れとなりました。
なお、これが後悔する要因となります。
運用スケジュール
弊社の運用スケジュールは以下のとおりです。
定時の2時間前の15:15に残業申請の画面が表示され、17:15から30分の猶予時間をもって、17:45に15分間のロック画面を表示し、18時には完全シャットダウンを実施します。残業時間の申請可能時間は22:00までです。それ以上の時間の申請はできません。
また、弊社は水曜日は定時退庁日となっており、そもそも残業時間の申請ができません。水曜日でも残業をしたい場合は、人事課長へ所属長経由で直接申請し、いつまで時間外をするかを情シスに連絡し、情シスが権限でPCのロック解除と使用可能時間の延長を行います。
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稼働時間・・・通常の稼働時間
猶予時間・・・稼働時間ではないがPCが使用可能な時間
申請可能範囲・・・申請可能な時間
申請不可・・・残業時間として設定できない時間
弊社では、定時時間後30分を猶予時間とし、その時間内にファイルの保存や残業の申請を行います。7:30から8:30までにも猶予時間がありますが、これは当初、早朝に来た職員がPCを起動しても8:30にならないと使えないことから、1時間を猶予時間として設定しています。
また、土曜日と日曜日はいったん通常の平日と同じ扱いとしています。
そして、自動シャットダウンを行うとまずい端末については除外設定を行っています。
ここまで設定の調査を行い、課内のテストを経て全庁的に試行が始まりました。
運用後に起こったこと
運用を開始したところ、いろいろシステム的には弊害…はあまり出ず、職員の悪い部分がたくさん見えるようになりました。以下に紹介します。
人任せになった人事課
これが一番今でも腹が立っていますね。いろいろ技術検証を行って、「こういう方法なら実現できるかも」と提案します。しかしながら、このプロジェクトのリーダは人事課だと思っていましたが、徐々にフェードアウトしていきます。先ほど述べた運用スケジュール等は、結局情シスの僕が提案したものとなります。この時点で、人事課がどうしたいかなどという具体的な案はなく、「PC自動シャットダウンをしたいだけ」だったと明確になりました。
この後、職員への通知もなぜか情シスの僕が作り、発出することになります。これにより、今後めんどくさいことが起こります。
苦情、問い合わせが集中
「情シスが残業申請を承認する」「情シスから案内が発出される」ことにより、この案件の主導者は情シスだと職員は認識しました。いくら通知に、問い合わせは人事課へと書いていても、そんな通知文なぞ読まない職員は、情シスへすべての問い合わせを行ってきます。試行開始後には、問い合わせが集中しましたし、試行期間中の改善アンケート(これもなぜか情シスが集計)にも情シスに対するきついコメントがありました。
猶予期間をいいように考える職員
猶予期間=仕事してもいい時間と解釈する職員が続出しました。SkySeaの残業申請機能とログを活用し、この猶予時間をサービス残業としている課を抽出しました。見た目の残業時間の申請はほとんどなかったのですが、日々の30分を積み重ねることで、PCのシャットダウン時刻と申請された残業時刻に大きな乖離時間が生まれていました。
この見える化を行ったことで、この乖離が大きい課=残業申請がしにくい空気がある課ということがわかりました。
ロックがかかってから慌てる職員
17:45になると、画面いっぱいのメッセージが表示され、職員は何もできません。17:45を過ぎると情シスには「ロックがかかったんだけど」みたいな電話が、試行と本運用1年間経った今でもかかってきます。しかも大体同じ職員。しかも大体他責です。「ロックがかかったんだけど、解除して」的な内容です。何度同じことをやらかしても未だに電話がかかってきます。
この職員の存在により、情シスは17:45まではいかなる日でも待機をせざるを得なくなりました。
とりあえず最大まで申請する職員
毎日22時まで申請する職員が現れました。これもログと突き合わせるとすぐに乖離時刻として判明します。残業時間の終わりが見えないからとりあえず最大時刻まで申請してきます。これは情シス側ではあまり指摘はできない部分で、困ったところでもあります。
残業を把握できなくなった所属長
これは、SkySeaだけで行おうとした弊害でもあります。担当職員から情シスへ申請が届き、情シスが承認を行うため、所属長や人事課が把握できない残業が生まれました。アンケートにも所属長からの意見は圧倒的にこれが多かったです。そして、この所属長が把握できなくなったことにより次の事案が生まれます。
嘘をつく職員
嘘をつく職員が現れました。一体どこに嘘をつく要素があるんだ?と思われる方もいらっしゃるかと思います。特に定時退庁日に現れるのですが、所属長には、残業時間の申告をせずに、所属長が帰った後にのこのこと情シスの僕のところにやってきて「解除して」と来ます。
ただし、僕はあくまで情シスなので、人事課がOKと言わない限りは承認できないので、「所属長は残業のこと知ってるんですか?」と聞きます。ところが皆さん不思議と「知っています」というんですが、後日所属長に確認をすると案の定許可を得ていない。こういった所属長に申請しにくい環境の課ではよく発生したのと、言葉は悪いですが、段取りの悪い職員で発生しました。
今まで見えなかった職員
こんな問い合わせがありました。「朝にPCが使えない」。
いや、そんなはずはと、7:30から猶予時刻も設定しているし、そのほかの職員からは特にトラブルも報告されていない。詳しくヒアリングをしました。その結果、
7時前には出勤していた
その職員は通常の8:30からの勤務です。特別な勤務形態でもありませんでした。いろいろな事情があり、朝7時前には登庁をし、業務を開始していたのでした。
しかしここまではよかったのです。問題はこの後、「人事課」が把握していないことと、情シスの僕からは「では朝時間に残業申請すればいけます」と提案しましたが、その職員からは「いやそれはちょっと…」と渋い顔。残業を申請しにくい空気感のある課でしたので、納得の結果となりました。(結局は7:30のルールは崩していません)
こういった見えていなかった職員が焙りだされました。
抜け道を見つける職員
悪知恵の働く職員もいます。この案件はあくまでPCの自動シャットダウンですので、PCを使わない作業においては効果がないことは分かっておりました。
しかしながら、賢い職員がいるものです。
弊社には残業常習犯ともいえる職員がいました。ただこの職員は、無駄に残業をするのではなく、とにかく業務量が多く、人事からも業務バランスがおかしいと指摘されるほどの職員でした。
当然その職員にとって、この自動シャットダウンは邪魔な存在となります。そこでその職員は、LGWAN接続系のPCでしか自動シャットダウンが動かないことをいいことに、定時後LGWAN接続系のサーバからExcel等のファイルをUSBメモリに抜き出し、マイナンバー系のPCにコピーを行い、そのPCで仕事を継続し始めました。
さすがにそれが分かったときは、「そこまでして仕事したいか!?」といった覚えがあります。
解除コードの運用
4桁の解除コードを設定し、緊急時に入力するとロックが解除されます。この運用に困りました。いちいち情シスや人事担当に連絡が来ても困りますし、所属長や職員に教えるわけにもいかない。結果的には前者で運用を行うこととなったのですが、定期的に変更するにも情シスや人事担当と共有する手間もあり、13か月間で2回ほどしか変えていません。
ですので、長期間同じ解除コードで運用されているのですが、これを悪用する職員が出てくるわけです。こちらについては、SkySeaの残業申請機能として解除コードを使ったかどうかは一発で分かるので、運用でカバーしています。
なお、この4桁の数字ですが、数学の問題の答えに設定して、その問題だけを公開するという僕の案ははかなくもボツとなりました。(最初だけ、「4桁の最大素数」として職員に回答してました)
結局どうなった?
紆余曲折ありながらも、弊社では今でもなおこのSkySeaでの自動シャットダウン機能は稼働しています。
残業時間の抑制に効果あったの?
試行期間から約13か月が経過しました。やはりこの仕組みの導入効果を知っとかないといけないなと(というかこの検証は首長や人事課の仕事では?)、人事課から過去2年間の残業時間のデータを貰いました。その結果…
ほぼ変化なし!
びっくりしました。集計を手伝ってくれた職員もびっくりです。冗談抜きでほぼ変化がありませんでした。数字を作ったのではないかと言われるくらい前年度比3%くらいの誤差でした。自動シャットダウンだけでは、そんなにワークライフバランスには影響がないんだと感じました。
ただし、僕は最初にも述べたように、「この機能だけではワークライフバランスの改善にはならない」と主張してましたし、「この運用により残業代の削減にはならず、むしろ増えることになる」と主張していました。
ワークライフバランスの改善には、業務のあり方を見直す方が重要と考えます。
弊社の今後
13か月の結果、自動シャットダウンだけではワークライフバランスの改善はできませんでした。
運用開始してからは、問い合わせが増となった情シスの僕、仕事をしたいのにやりにくくなった職員双方とも幸せになってはいないなと感じています。肌間で申し訳ないですが、今までだいたい定時で帰っていた職員は「このPCシャットダウンを理由に帰宅します」し、業務が多くなっている職員には手間が増えただけのような感触です。
もともとの設計が悪かったんじゃないかとも考えていますし、首長及び人事課の手段が目的化した発言を拒否できなかった自分にも責があると考えています。
自動シャットダウンをやる前から、特定の職員に業務が偏ったり、特定の課に残業が多いことは、この仕組みを導入しなくとも、肌間では分かってはいるものです。
ただただ、その偏りの可視化を行うのに人事課が時間を費やしている現状が、今まで野放しになっている原因だとも考えています。結局可視化できた時期には、人事異動なぞとっくに終わっているのが弊社の現状です。
しかしながら、今弊社では、勤怠状況の見える化を行うシステムを構築しており、もうすぐ本運用に入ります。
このシステムが稼働してデータが集まると、誰にどのくらいの業務が偏り、どのような業務が負担となっているのかが可視化されます。これにより、人事課が適切な人事施策をできると願っているところです。
自動シャットダウンは次のステージへ
今からの構築となるのですが、勤怠システムの残業申請と今回検証したSkySeaを連動させるようにします。
これにより職員は、PCの利用許可を出す際には、勤怠管理システムを必ず経由し、残業申請をすると「必ず所属長の承認」が必要となり、残業自体の抑制に繋げようとしています。(そして情シスの承認は不要に!)
また、ここで申請した残業は、もちろん勤怠システムとも連動し、先に述べた見える化機能のデータとして蓄積されていきます。
この勤怠システムとの連動にまつわる話は、今回守秘義務の関係で書けなかった部分も含め、面白い話ができれば今後いつの日か…
さいごに
最後に、この記事を見ているかもしれない「幹部クラス」、「人事担当」、「情シス担当」に向けてお伝えしたいことを述べて終わります。
もしSkySeaの詳細な設定方法等を聞きたい場合は、共創PFにてお知らせください。隠す気はございません。
幹部様へ
トップダウンでやるのは悪いことじゃありません。動機づけとなり、一気に動くことになり、やりやすい時もあります。が、が、
まずは、業務を無くす・効率化する等の全体ボリュームを減らすことから着手すべきです。この自動シャットダウンで割を食うのは、本当に一生懸命やっている職員です。まじめな職員です。そういう職員が、非効率な業務をやっているのであれば、その人をケアするような基盤を作るように人事課や情シスをバックアップしてあげてください。
表向きにいい格好するのはその後です。
人事課、人事担当へ
目的を明確にしましょう。
手段が目的となっていないかどうかをいったん客観的に見直しましょう。
現状の把握からスタートし、観測(observe)をしましょう。そこから何が問題で、どこに注力するかを決定し(orient,dicide)、実装に踏み切り(act)ましょう。
主導者はあなた方です。逃げるな。
情シス担当へ
この話が来たら逃げましょう。関わるな。SkySeaは勤怠管理システムではないと言い切ってシラを切りましょう。え?この記事を見たって言った?頑張れ!(`・ω・´)