水素カローラが激走!ミライのガソリン?
富士スピードウェイに今まで見たことも無い数の報道陣が集まった?注目を浴びているのは水素を燃やして走るエンジン付の自動車。世界で初めて24時間レースに挑戦!しかも交代ドライバーの一人は日本の自工会会長でトヨタ社長でもある、ルーキー・レーシングのオーナー、モリゾウ。
2021年のスーパー耐久レースのシリーズ戦、デビュー戦の24時間を水素カーが見事完走してゴールしたことはニュースでも大きく取り上げられました。
この5ドアハッチバックの水素カローラが何故注目されるのか?
ことの起こりは去年11月、ルマン・ドライバーでもある小林可夢偉選手に水素カローラのテスト車を委ねた結果が、レースで戦わせたら面白い!だったのです。話は豊田社長の耳に届きあっという間に参戦決定。
エンジンはヤリスの3気筒ターボエンジン、水素を入れるタンクは燃料電池車ミライと同サイズを4本。ここまでは既存のパーツです。
水素なら既にミライがあるじゃないの?いえ、あちらは水素と酸素を化学反応させながら発電する重量2トンの電気自動車。水素カローラはターボ・エンジンをマニュアル・ミッションでシフトしながら走るのに水しか排出しないゼロ・エミッションカーです。排気管から出てくるエンジン音はヤリスとほぼ同じ3気筒のエンジンノート。コース内では静かな部類です。スタートダッシュを決めるとモワっと湯気が立ち上るのみで、炭素に由来した排出物は皆無です。
性能でいえば軽油で走るデミオ・ディーゼルとほぼ変わらないタイム。3秒くらいは早く走れそうです。でも、航続距離では遥かに及びません。液体を燃料に積むライバルと違ってタンクの中は所詮、気体です。しかも満タンに要する時間はピット横に待機した大型トレーラー2台がかりで、計6分以上。24時間レースのうちの半分近くはこうした補充、点検で占められています。
水素カローラ「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」の印象は?
迷彩塗装のような派手なカラーリングを別にすれば、街中のカローラとほぼ同一。違うのはガソリン・タンクを持たないこと。リア・シート(のあった場所)に大きな水素タンク四本を縛りつけているところくらい。
エンジンはヤリスGr-Four用、3気筒1600ターボエンジン。市販車に無いパーツを探せばタンクからエンジンまで水素を運び、シリンダーに噴射する燃料系とカローラのバッジのところがトヨタ・マークなだけといってもいいくらい。水素タンクの保護は万全です。
見どころ、性能は?
50台あまりの参加車中ベストラップで2分00秒を切れなかったのはこのカローラと軽油で走るマツダデミオの二者だけ。しかし軽油の給油は液体、これが水素の気体を充填するとなると、大型のトレーラーをピット裏に待機させ、高圧ガス管理者の資格保持者も必要。
給水素時間を短縮するために、内圧があがってきたら中断して、二台目のトレーラーに接続、いずれも3分近い時間を要して70メガパスカル(スキューバダイビング用の空気タンクの3倍以上の圧力!)の水素タンク4本を満タンにする。
航続距離は富士のコースで13周から15周、30分も走らないうちピットイン、水素充填意外にも最初から入念な点検、整備には時間を費やしている。それもレース終盤はかなり短縮化。
水素カーのレース参戦の意味は?
ガソリンエンジン開発の歴史に終止符を打たせないばかりか、ゼロエミッション、カーボンニュートラル時代に自動車メーカーを存続させるための重要な試金石、アピールの場だ。トヨタほど大量のエンジン車を量産するメーカーとして、2030年以降の経営にも関わる重要な問題である。ここでガソリン車並のタイム、24時間壊れない耐久性を実証しないことには、望む水素社会のためのインフラ整備はおぼつかない。
水素インフラが普及して初めて実現する水素カーはモータースポーツの世界においても光明を見出せるきっかけとなる。サーキットから聞こえてくる個性豊かなエンジン音はEVでは真似できない魅力だ。化石燃料時代と同じサウンドを轟かせてくれるカーボンニュートラル、レーシングカーの出現はモータースポーツの未来においても福音となるはず。
社長がレース参戦する意義は?
ガソリン車をどこよりも量産する大メーカーとして、2030年以降も規模・雇用を維持するためには在来の技術を継承した上でゼロエミッション・カーボンニュートラル社会に適合しなければならない。はっきり言って電池で遅れをとった分、車社会の未来を見据えた水素社会の実現可能性を強くアピールしなければならない。自工会長としても、もっとも強力なPR媒体が自分自身なのだ。
チーム内で一番航続距離が長かった(燃費がよかった)のが実は豊田社長。耐久レースにはもってこいの人選でもある
レース、結果は?
実走行時間はおおよそ12時間。一時間に1回以上の水素充填、チェックを繰り返し、時には電装系のトラブル解決に4時間を要する場面もあった。とはいえ、24時間後のチェッカーを、僚友のGRスープラと、二台並んで受けたところなどは、遠く50数年前のfisco24時間レース、トヨタ2000GT、スポーツ800のデイトナフィニッシュを思い起こすシーンだった。
このあとも大分オートポリスほか、スーパー耐久耐久ラウンドには連続出場を目論んでいる。耐久性は証明できた。あとは速さと実用性をどこまでビルドアップできるか?
将来は?
自工会の会長でもある豊田社長が水素インフラの拡充を政府に強く要望しているのも、電気・電池に頼らない、他メーカー・中国メーカーには真似の出来ない技術、多様な選択肢があることを自らハンドルを握ってアピールしなければならないから、という使命感が伝わってくる。決してクルマ好き社長のレース道楽などではないのだ。
握っているのは脱カーボン時代の自動車会社、社会の舵取りでもあるのだ。