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大戦前夜のあの時代、ラジオ放送のちからはどう政治を変えたのか?

ドイツの国家社会主義ドイツ労働者党の指導者=アドルフ・ヒトラーはラジオの演説で大衆の心を掴み、一躍ナチ党を政権与党に押し上げた。そう思われていますが実際のところはそう単純な話でもないようです。調べてみると、まだ彼らが少数野党だった頃にはラジオ放送は当時の与党の支配下にあって野党のヒトラーがラジオ演説を放送することは不可能だったからです。
ではナチ党共々、彼はどのようにしてプロパガンダを広めていったのでしょうか?

はじめのステップは外圧の利用でした。イギリスやアメリカの新聞にインタビュー記事を掲載し、イギリスのラジオ放送では肉声によるインタビューの番組が予定されていました。が、政権側は(新法を拵えて)これをオンエア直前に阻止します。
そこでヒトラーは考えました。プロパガンダを熱く語った録音をレコード盤に何万枚とプレスしてタダで配布したり、演説の模様などをまとめたニュース動画を映画の予告編と共に並べて国中の映画館で上映したのです。さらには選挙遊説のために、演説会場間の移動を最新鋭ユンカースの高性能飛行機に託して一日に大都市を何か所も駆け回ります。(え、それ今でも何処かの党首クラスが踏襲している?)予定の時間にわざと遅れて到着し、聴衆の期待を煽るやり方もこの時からのもので、何もプーチンの専売特許ではありません。

選挙運動の甲斐あって政権を手に入れるといよいよ、ヒトラーによるラジオ放送を活用した演説のスタートです。ところが、第1回の放送は惨憺たるものでした・・・・・・

原稿を棒読みするだけの放送では著しく説得力に欠け、ヒットラーは発声方法から学び直すなどして徹底的に演説のノウハウを見直します。演説の収録方法もスタジオではなく大聴衆を前にした実際の演説風景を放送するやり方に改めました。いわゆるライブ版ってやつです。すると聴衆の歓声や拍手などが効果的なSEとして、演説を彩ります。
映像に残される様々なジェスチャーもこうした過程で彼が学んだものの一つ。ヒトラーを真似(て皮肉った)チャップリンの名作映画「独裁者」も、こうした演出がなければ生まれなかったことでしょう。

それだけではありません。政権はさらに担当大臣を通じて電機メーカーに家庭用ラジオの大量生産を命じます。牛のお肉にしてだいたい5kg相当分、庶民が買えなくもない価格で・・・・数年後に価格は半分近くにコストダウンし、国民にはヒトラー演説を聞くことが義務として求められたのです。
ラジオ購入者には演説の度に、演説をだれと聞いたか?聞かなかった人はその時間にどこにいたのかなどを書いた用紙の提出が義務化され、職場では集会場に集められた職員たちが大型のスピーカーに耳を傾ける光景が見られました。しばらくのちにはこうした演説も決して聴衆から歓迎をもって迎えられたとは言い難い状況だったとか・・・・
ラジオ以外にも映画製作やビラの配布などプロパガンダ普及の手段は枚挙にいとまがなかったという程です。決して聴衆が好き好んでヒトラーの演説に耳を傾けたわけではなさそうです。あるいは、なかには熱狂的なファンがいたのかもしれませんが・・・・・

そんなヒトラーの残した政策では高速道路網=アウトバーンの建設と、そこを時速100kmで大人4人を載せて疾走する国民(=フォルクス)の車(=ワーゲン)開発が有名です。この難題に最適の解を提示したのが有名なフェルディナンド・ポルシェ博士でした。若き日にダイムラー・ベンツ在職中にはSSSKという超ド級のスポーツカーを開発した天才です。

(天才は戦後、連合軍側に一時捕らわれの身となりフランス・ルノーの国民的大衆車=ルノー4CVに助言を与えたともいわれています。戦後の日本では日野自動車がライセンス生産した青緑色のルノーのタクシーが安価な小型車料金を武器にタクシ―市場に足場を築きました。)


まじめなドイツ国民は労働に応じてスタンプを集めることにより、999マルクで新車が一台買える計算でした。でも、ドイツ敗戦とともにヒトラーも約束もこの世のものではなくなり、戦前にVWを手に入れた顧客は皆無だったと言われています。

オリンピックの開会式に合わせて聖火ランナーを走らせ,国別の入場行進で愛国心を煽る演出を考え出したのも彼だといわれています。ベンツのグランプリカーが国威発揚の期待を担わされていたことも同じ意味を持っていたとされています。
その目的においては決して正当化され得ないヒトラーではありましたが、用いた手段の中には幾つもが今日も応用されている事が判ります。

ヒトラーがこの世から消えた同じ年の8月15日、極東の島国では天皇と呼ばれる君主が自らの声で国民に戦争が終わったことを知らしめ、国民はラジオのスピーカーに向かって平伏したという・・・・・

放送を支配することで他党のメッセージを伝わりにくくして、政権与党のプロパガンダに有利に働かせる・・・・そう遠くない過去にも、極東の島国にいる敗戦国の首相も特定の放送局を名指しして編成方針を制限するような圧力をかけたとされています。放送免許の取り上げも口にして脅したとも伝えられましたが、その発想はヒトラーと遠からず、近いところにあるのかもしれません。決して顔が似ていると囁かれているご本人に確認したわけじゃありませんが・・・・・・

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