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「高い城の男」

フィリップ・K・ディック「高い城の男」
朝倉久志訳 ハヤカワ文庫
1962年

史実とはちがう第二次世界大戦後の世界を描く、歴史改変SF。

䷀ここには、三冊の本が存在する。
物語の中に登場する小説「イナゴ身重く横たわる」。この小説の存在によって、現実と物語世界の境界は揺らぐ。
真理を求める登場人物たちは、先人の叡智「易経」を携えている。卦は、現実と物語世界を分け隔てなく貫く。
そして、この本自体すなわち「高い城の男」がここにあり、史実の時間軸上にいる読み手がこれを読む。

䷀ここには、本物と偽物が存在する。
戦勝国と敗戦国、本名と偽名、本物の工芸品と偽物の工芸品。そして、物語の中の現実と、物語の中の虚構である「イナゴ身重く横たわる」。物語の内外にわたって、本物と偽物、現実と虚構が登場し、ときにそれらが交錯し、ねじれる。
だから読み手は、ものごとの真贋について考える。

史実と比べて「もしもあのとき…」という空想を楽しむだけでは済まない。

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