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「目的地、ケンタ -ポテト狂騒曲-」
アナタにとってのソウルフード…ならぬ、
“実家的ソウルフード”は、ございますか?
おばあ様やお母様の手作り料理が思い浮かぶ方も多くいらっしゃるかと思います。私もその一人ではあるのですがー。
我が家では、それらとは別に。
“お持ち帰り”できちゃう“実家的ソウルフード”があるのです。
…まぁ、正しくは“父上的ソウルフード”と呼んだ方がよいかもしれません。
実家へ帰ると、いまだに、父上が張り切って。
親子でのデートコースに「ケンタ」を無理やりねじ込んでくるのです。
ハイ、皆さまご存じ。カーネル・サンダースさまが両手を広げ、優しくお出迎えして下さる、アノ、KFCにございます。
我が家では敬愛を込めて「ケンタ」とお呼びしております。
実家へ帰省した折に、親子でデートへ出かけた帰り道。
父上が、喜々としながら言い出したのです。
「ケンタ…買って帰るかっ♬」
ほらね。きっと、言い出すと思った。笑、と私。
「どうだっ?つばめも、食べたいだろっ?なっ?なっ?」
なぜか必死に私を巻き込もうとする父上の隣で、
「ええ!?また寄るのぉ?…ったく、本当に好きねぇ!」
そう言いながらも、結局、目的地をケンタに変更するのを許可してしまう、
ナビゲーション、母上なのでした。
これは、そんなある日のお話。
昼夜問わず、人波の多い商店街を泳ぐようにして歩く。
心なしか、父上の足並みは軽やかで、鼻歌なんぞを歌っている。
しばらく行くと、前方より、微かに。
風に乗って鼻腔をくすぐる、アノ香りが…!
さすが、11種類のハーブ&スパイスによる秘伝オリジナルレシピを使っているだけあるのだ。かぐわしい香りに、食欲が湧いてくる!
(ついさっき、スイーツ食べたばっかなのに!恐るべしっ、ケンタっ!)
無事、目的地へたどり着き、新商品などには目もくれず、ひたすら、オリジナルメニューの入っているモノを吟味する。
ケンタでお買い上げする時の、父上のスタイルだ。
珍しく、気になったのか、“期間限定の辛いヤーツ”なんぞについて質問をしている。満面の笑みで振り返り、
「これは、きっと、つばめ、好きだぞぉぉぉ!!」
やたら大きな声で言うもんだから、思わず笑いながら、
「いいね!ぢゃぁ、それも追加でっ♬」
ハイ、よろこんで!ばりに、居酒屋のノリで返事をする。
そんな私の隣で、母上が、
「ったく、気が合うんだから…」
そう、恥ずかしそうに言いながら笑っている。
その帰り道。
観光客で賑わうアーケード式の商店街を親子で歩く。
お持ち帰りにしたハズなのに。
紙袋に手を突っ込んで、つまみぐいしようとする父上が、小声で
「ほいっ。熱いぞっ」と、手渡してきたのは、買ったばかりのポテト。
(なぁーん、また怒られるよ?)そう、小声で言いつつ、ニヤリと受け取り、口へ放り込む。
熱い!けど、旨し!
こうして、私はいつも。いとも簡単に、父上の共犯者となってしまうのだ。
この〖帰路を歩きつつ、母上にバレないように、いかに、出来立てポテトを美味しく食べるか!〗というミッション発動により、父上と私には、ある種、使命を得た時のような心地よい緊張感が生まれるのである。
母上には怒られたくはない…だがしかし、コバラは満たしたいっ。
苦渋の選択なのである。
バレたら、即終了となること必須!
スリル満点なポテト狂騒曲が脳内BGMとなり、楽し気に流れ出す!
少し前を歩く母上は、お買い物リストを気にしている様子でー。
「よし。まだ、イケる。」と、父上。
「よし。まだ、イケる。」と、私。
同時に、同じ言葉を言い、見合わせ、爆笑しそうになるも必死にこらえた。
やはり。この父上にして、この娘なのかもしれない。
なんだか、誇りに思う。(え?ポテトつまみ食いで?)
母上の目を盗み、紙袋の音を立てぬよう、ポテトをスッと取り出す父上。
慣れたもんである。そのスムーズな動きは、まるで職人だ。
何本かを私へ手渡すと、早くお食べ!と手と目で合図する。
御意!と、はふはふしながら、慌てて食べる。
熱い!けど、旨し!
私に目くばせしつつ、頷きながら、自身もポテトを頬張る父上。
そんなやり取りが何ターンか続いた。
が、次の瞬間。
「なんか、カサコソしてると思ったら!まぁーた食べてる!!」
急に振り向いた母上にバレて、ミッション終了となってしまった。
しかし!そこは、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう猛者たる父上。
「そらぁ出来立てを食さんば、旨くなかけんさぁ!」
わざとらしく誇張した言い方で、母上を煽る、煽る。
エンジン全開である。
これを、世間では、クセ強めの言い訳、と言うのだろう。
ケンカするほど仲がいい、なんて言葉があるけれどー。
それが、我が両親へ当てはまるのかどうかは、いまだに謎である。
怒りながら、父上の持つ袋を取り上げようとする母上。
その理由は。
コバラを満たし過ぎてしまうと、父上は、夕飯時にお酒ばかりとなってしまう傾向があるからなのだ。
父上の健康を想ってこその、母上のお怒りなのだ。
愛ゆえに。怒れる愛、なのである。
父上と母上、どちらの想いも解っちゃう。
言わば、娘はつらいよ、なのである。
(つらいのは、寅さんばかりぢゃ、なくってよ? 詠み人/言祝燕)
怒りながら袋を取り上げようとする母上。笑いながら、それをいなす父上。
「ちょっとぉ、ここ、商店街のど真ん中なんだけど!」
と笑いながらツッコミを入れる私。
いつもの光景なのである。
その数分後。
父上の自供により、共犯者たる私も怒られることになる。
「そらぁ出来立てを食さんば、旨くなかけんさぁ!」
父上のそれを、より誇張した言い方で、母上を煽る、煽る。
エンジン、フルスロットル、である。
えぇ、それはもう、チャーリーズ・エンジェルばりに。
隣で、ウィンクしながら、親指をグッジョブのカタチにする父上。
この流れもまた、いつものお決まりってやつ。
帰宅後。
セットのポテトは、つまみぐいにより、だいぶ減っちゃってるけどー。
ケンタのおかげで、アメリカンな雰囲気になっている、夕餉の席で。
父上の新たなミッション、
「いかに、母上にバレずに、ジャックダニエルを多く飲めるか!?」
が始動するのであった。
数十分も経たぬうちに、きっとまた、攻防戦が始まるのだろう…。
あれ?
私の両親って、トムとジェリーだったっけ?
そんなことを思いつつ、頬張るケンタの味は、格別なのである。
てんてん♬(おわり)
つばめの声で聴けます♪
つばめble「目的地、ケンタ ‐ポテト狂騒曲‐」音声版 @stand.FM より👇
キモチだけは、込めております!
つばめの甘味処 ‐あとがき-
音声配信スタンドエフエム版では、お話の途中、月影先生や歌人が現れます
えぇ、やりたい放題なのです。
だって。淡々とお話するだけぢゃぁつまらないでしょう?
朗読と声劇の、そのハザマに…つばめble
アナタの、その心のハザマに…つばめble
クスっと笑って頂けたのなら…つばめble
…つばめbleって、言いづらくない?
“炙りカルビ”と同じレベルで言いづらいと思うのだけど…
本作に“お目め寄り”くださいまして、ありがとうございます!
スタエフにも“お耳寄り”いただけたら、嬉しいです!!
《作品利用につきまして》
上記「目的地、ケンタ ‐ポテト協奏曲‐」を朗読等に活用したい。
そう思って頂けた方へ。
当方、別ページにてご案内させて頂いております、
「作品利用につきまして」をご一読頂きました上、
ご活用下さいますようお願い申し上げます。
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