歳差運動2-⑦

「あのー、種田先生は子どもたちの読む意欲がなくなってきているとおっしゃいましたが…去年の図書室の貸し出し数はおととしよりも増えています。計算すると5%くらい上昇していますよ。それに、昨年、市の予算をいただいて、本を新規にたくさん買ってもらいました。だから、子どもたちにはもっと読書をしてもらいたいです…朝の読書はなくさない方がいいと思います」

「私も朝読書は賛成です。朝から落ち着いた気持ちで本を読むことで、朝のスタートがすんなりと切れます…それから…読書で読解力のアップにつながると思います」

と国語の副主任が追随した。       主任を盲目的に信奉する子分のような先生である。君たち先生がスクールカーストを自分で実践して、俺はいつも馬鹿じゃないのと思っているよ。

頭に来たので反撃してやった。

「貸し出し数が増えたといっても、それは延べ人数ではないのですか?本好きの一部の子どもの貸し出し数が増えただけで全体的に増えてはいないと思います。つまり本を読まない子、本が好きでない子は相変わらずいて読書量が学校全体で増加したっていうのは錯覚でしょう。読書好きにとっては朝読書はいいかもしれませんが、嫌いな子にとっては毎日の読書は苦痛の何物でもないです。そんな子のためにも朝の活動を工夫してやる必要があります。毎年同じにしないでください…ちなみに私は本は好きですからね!」

ついでに

「それから…読書で読解力向上につながると言っていましたが、読書に消極的な子どもたちの様子を見ていると絵本とか図鑑のようなものばかり読んでいて…しかも文字はあまり読まず絵だけ見て飛ばして読んでいるようですよ。そんな読み方では読解力はつかないです。読解力をつけるのは授業だと思います」

徳俵に片足だけ残っている相手に最後の一押しをかましてやった。          これで完全に他の先生も敵に回してしまった、と思った。

細井教頭の方を見た。          困ったような顔をしているように見えたが、今年本校に赴任してきた本郷先生を指名した。

賛成派の仲良し二人組の発言を頷いて聞いていたのを見ての指名に違いない。     議論の流れを故意に操作してやがる。といっても、反対派は俺だけだろうよ。

「はい、ここと同じように朝の活動は読書をさせていました。でも、週に3日間だけでした。大山市の他の学校もだいたい同じようでした」

周りを見ると一様に頷いていた。

俺の意見に対する反対意見は出されなかったが、雰囲気的には朝読書は覆りそうもない。当たり前だが…

細井教頭も職員の表情を見て、生き生きしてきたように見えた。           俺の意見が潰される公算が高いとふんだからだ。俺が否定される喜びを感じているのだ。相変わらず嫌なやつだよ。

あとはタイミングをはかって、“朝の読書はそのまま”とまとめるつもりだろう。

すると

「ちょっといいですか」

それまで沈黙していた天見校長が口を開いた。


続く~