「W杯2022」地上波TV視聴日記③12.6~12.7。「ベスト16の壁」と「サッカーの楽しさ」。
決勝トーナメント1回戦。フランスが勝ったあとのロッカールーム。
ピッチ上で、超人的なプレーを見せたプレーヤーも含めて、ただ、はしゃいでいるように見えた。
すごく楽しそうで、本当にまだサッカー少年のままのようだった。
12月6日 日本VSクロアチア
日本代表は、ドイツとスペインに逆転勝ちをするという、信じられない試合を制して、グループリーグを1位で突破し、決勝トーナメントに進んできた。
今回は、ここで勝って、初めての「ベスト8」を目標に戦ってきた、と言える。
試合開始1分で、日本代表がフリーキック。そして、コーナーキックを得る。
ちょっと意外だった。
FWの前田大然が、ディフェンスを評価される。考えたら、おかしなことだけど、そういう戦い方なのだと思う。
DF吉田麻也が、相手の足に当ててラインの外へ出そうとして、それがちょっと危なくなる。こういうプレーはやめた方がいいと感じる。
前半8分。また日本代表ディフェンスの小さいミス。怖い。ゴール前の混戦までもつれこみ、やっとゴールキーパーが抑えた。
前半11分。伊東純也が右サイドから低いクロス。ニアサイドには、前田が飛び込み、さらに一番外から長友佑都が滑り込む。惜しい。
そのあと、ずっとクロアチアがキープして、ボールをつなぎ続ける。全然、取れる気がしない。
堂安律にはマークが厳しい。
日本代表にとって、時々、怖い時はあるけれど、前半23分まで、落ち着いたゲームになっている。
そして、クロアチアのフリーキック。モドリッチが蹴るとなると、やっぱり緊張感がある。
前半25分。クロアチアに、縦一本で抜かれて、左サイドが破られる。しかも、もう一人フリーでゴール前にいたけれど、ボールを持ったプレーヤーが、相手の股を抜こうとして、失敗し、日本代表は助かった。
しばらく、クロアチアは攻め続け、日本は守るしかなくなる
日本の得点
前半34分。日本代表がボールをキープし、パスを回す時間が続く。クロアチアにも、時々、ミスが出始める。
前半40分。鎌田大地が、ゴール前に迫り、シュートをうった。一人で夜中で、テレビを見ていても、「う」という声が出てしまうほど惜しくて、しかも、ここで決めてほしい、という期待と、入らなかった無念さを強く感じる。
地上波のTV視聴者として、思った以上に、期待していたプレーヤーだったのに、改めて気がつく。
後半42分。
日本代表・堂安の右からのクロス。クロアチアはちょっと乱れて、コーナーキックになる。さらに、もう一度、コーナーとなる。
直接、ゴール前にボールをあげるのではなく、コースを変えて、堂安のクロスから、吉田がギリギリ競り勝って戻し、混戦になり、前田が押し込む。ここまでの貢献を報いるような得点チャンスを前田が生かした。
VAR の確認もされる。
あの抽象的な、プレーヤーもマネキンのように表現されるから、情を感じないぶん、かえって説得力があるのだろう。もし、もっとプレーヤー達もリアルに表現されるようになったら、情が入って、印象が違ってくるのではないだろうか。
その結果、日本代表の得点が認められ、1対0になる。
視聴者としても、意表をつかれるような展開。
前半のアディショナルタイムで、クロアチアのコーナーキック。危ない感じ。でも、しのいだ。ただ、日本の方に、ちょっとふわっと空白の時間があるような。そんな怖さは、後で効いてこないだろうか。
モドリッチは、相手にすると、やっぱり怖い。すっとすき間に入ってくる動き。フリーキックの時、モドリッチが時間をかけるのは、味方のプレーヤーを、休ませるためもあるのかもしれない。そんなことまで思わせる。
そのまま、前半が終わった。
本当に、希望が見えた。
ハーフタイムの時、見ている側の気持ちが、ふわふわしていた。
日本代表VSクロアチア 後半
選手交代はないまま後半を迎えた日本代表。
これまでと違う選択で、微妙な不安は抱かされるが、後半5分まで、日本が、思ったよりゲームをコントロールしている。
ただ、後半10分。クロアチアは、ゆっくりして見える展開で、右からのクロスから、点で合わせたヘディングで決める。
1対1の同点に追いつかれる。
そこからクロアチアの攻撃は、ドリブルが早くなったように、怖さが増しているように見える。それで崩されるけれど、日本がしのぐような時間が過ぎる。
後半16分。クロアチアの方が先に選手交代をする。なんだか、そのことで先を越された気もするが、後半17分には、モドリッチが、相手を仕留めるような気配を持ったシュートを放ち、日本代表のGK・権田修一が見事なセーブで失点を防いだ。
後半18分。三笘薫と浅野拓磨が交代でピッチに立つ。長友と前田がベンチに下がる。
勝負はここから、という雰囲気だけど、少なくともクロアチアよりも先にするべきだったのでは、という微妙な気持ちにはなる。
日本のDFで、ショートパスのミスが少し目立つ。それは、クロアチアの、ゴール前での動きが良くなったことと重ねると、より怖くなってくる。
グループリーグでは、あれだけ自由に動けた三笘への研究もされているようなのが、三笘のドリブルへの対応をみて、すぐわかった気がした。
後半29分。鎌田を下げて、酒井宏樹を入れる。視聴者としては、「?」と思う。
後半32分。クロアチアのコーナーキック。モドリッチ。怖いところ、嫌な場所へ蹴ってくる。それを、堂安が、よく蹴り出した。
後半37分。時間が重くなってくる。
三笘のドリブルは、かなり抑えられている。
後半40分すぎ。南野拓実を入れて、堂安を下げた。堂安は、これからの時間に必要なのに、と思う。
同点で、延長戦に入る。
日本では、午前2時頃。だけど、やっぱり、まだ見ようと思う。
延長
今回のワールドカップでは、初めての延長。
前半、15分。後半、15分。
4年前のクロアチアは、何度も延長を戦い抜いて勝ち上がってきたのは、憶えている。
延長前半。1分と、4分くらいに日本はコーナーキックのチャンスを得るが、得点できる気配がなかった。
疲労が画面から伝わってくる気がする。
延長前半7分すぎ。
クロアチアは二人交代し、モドリッチが下がる。クロアチアの方が、かなり選手をかえてきた。
どちらのプレーヤーも、疲れているように見える。
延長前半、14分。三苫のドリブルから速度をあげ、シュートをうった。GKにセーブされ、コーナーキックになったが、視聴者にとっては「あ」という声が出るような場面で、惜しかった、というより、決められなかった、と思えた。
チャンスがあったのに、ゴールできなかった、という印象で延長前半が終わる。
延長後半。守田英正が下がって、田中碧が入る。
あと15分。
時間が重い。プレーヤー達が疲れているのは、分かる。
何度かあったチャンスもピンチも、そして、最後の15分すぎのクロアチアのシュートも「うわ」と思ったが、外れてくれて、助かった。途中で、田中が治療のために、いったんピッチの外へ出て、10人になりかかった時は、予測しないピンチが来たと思ったが、そのまま延長も終わった。
PK戦
独特の安堵感と、疲労感と、他にない種類の緊張感。
その場所の空気は、たぶん経験したことがないと分からないと予想はできるけれど、まだ十分に言葉として表現されていないと思われる時間。
PKの順番は、日本が先攻を選択する。
1人目は、南野。ボールを蹴る前に、テレビ画面でも、すでにゴールが遠くに見えた。GKに止められた。
クロアチア1人目。13番・ブラシッチ。
あっさり決める。
2人目は、三苫。
左へ蹴って、止められる。
クロアチア2人目。11番・ブロゾビッチ。
真ん中に決める。
3人目は、浅野。
キーパーの逆をとって、決める。
クロアチア3人目。14番・リバヤ
ポストに当てる。
4人目は、吉田。
止められる。GKに完全に、よまれていた。
クロアチア4人目。15番・パシャリッチ。
決めた。
クロアチアの勝利が決まった。
タフさで負けた気がしたが、勝てる気はしなかった。
ベスト8は遠い。まだダメだったのだろう。
浅野は、泣いて、すごく悔しがっている。
PKの時に、堂安がいれば、とつい思ってしまった。
インタビュー
何人かのインタビューを、朝起きてから見た。
長友佑都が、なんと言えばいいのか、と言葉を探し、堂安律も、同じように探していた。
本来は、そんなに簡単に言えることではないのだろう。
吉田麻也も、改めて考えると、大変だったと思う。PKも自分で、望んで蹴ったということだから、それはやはりキャプテンとしての責任感だと思うし、そう考えると、思った以上に重い日々だったのではないかと思う。
三笘が悔しさだけではないだろうけど、きちんと感情を表現し、涙を流せたのは、そのことで、この日を忘れにくくなるし、本当に次につながるとは思えた。
視聴者としても、もしかしたら、勝つかも、と思っていたけれど、こういう思いを何度も何度もして、もう大丈夫ではないかと思っていても、他のチームも向上しているから、また届かなくて、もういい加減にしてくれないだろうか、と諦めるような過程を経ないと、世界で強いチームにはなれないのだろう。
歴史
吉田麻也も話していたけれど、今回の戦いを見ていた子どもたちが育ち、代表になってから、やっと次につながるのかもしれない。
今の日本代表のプレーヤーの中でも、2002年のワールドカップを見て、その舞台を目指したプレーヤーは少なくないはずで、そうやって、受け継がれて、初めて壁を越えられると思うと、なんだかすごいことだし、そうやってサッカーという文化がつながっていくはずだ。
それは、たかだかスポーツに過ぎないのかもしれないけれど、効率とか、経済とは別の豊かさがないと、強くなれないと考えると、サッカーは複雑なスポーツだと思う。
例えば、「強いチーム」でもあるクロアチアには、試合中でも、どこか別の遠いところまでを見ているようなモドリッチのようなプレーヤーはいるが、まだ日本には存在しないと思う。長友が、少し近いかもしれないが、まだ、あそこまでの遠い視線になっていないように感じる。
そういうモドリッチのようなプレーヤーが、もし日本でも出現すれば、初めて「優勝」が夢でなくなるかもしれないが、ワールドカップで「優勝」を経験した国は、もうすぐ100年の歴史で、21回を数えているのに、8カ国だけと言われる。
それが、他のスポーツと比べて、どこまで偏っている出来事なのかはわからないけれど、何しろ、現代のサッカースタイルを創ったといっていいオランダが、まだ優勝していないのだから、それだけで、ある種の理不尽さがある大会なのだと思う。
そして、その「優勝」を偏ったものにしている要素の一つが、「リーグ戦」にこだわっているシステムにあると思うけれど、偶然だけではなく、本当の「強さ」を身につけないと、勝ち上がることをできなくしているのは、やっぱりサッカーの残酷さなのかもしれない。
だから、そのワールドカップで、ベスト8に入って、一度だけではなく、何度もそこに到達するようになるまでには、想像以上に長い時間がかかる可能性がある。
「強いチーム」になるための、ごく近い戦略的な「足りない」点でいえば、PK戦への具体的な準備をしていないことは、森保監督も、インタビューで答えているし、スペインの監督は、「PKは運ではない」とも語っている。
さらに相手に先制した時に、どうやって主体的に戦っていくのか、どうすれば、さらに追加点をとっていけるか、という戦略を考えていなかったのではないか、といった疑念もある。
今の、日本のサッカーには、本当の意味で、「足りない」ことは、まだ多そうだ。
12月6日 ブラジル VS 韓国
この試合は、地上波では放送していなかったので、ハイライトで見ただけだったが、ブラジルが圧倒的に強かった。
1点目。ピニシウスが、ゴール前で立ち止まり、相手の動きをよく見て、まるで練習のように、自然にシュートを決める。
2点目。その4分後、PK。怪我から復帰したネイマールが決める。得点後、輪になって、跳ねる。楽しそう。
3点目。リシャルリソン。ペナルティエリアのそばで、リフティング。その後のパスのつながり方も、完璧なコンビネーション。ブラジルのサッカーを共有しているのだと思う。見て楽しくて、すごい得点。だけど、失点になった相手にとっては、絶望するような圧倒的なものを感じさせる場面。
さらに、前半で、もう1点を加える。後半に韓国が1点を返したが、4対1で試合は終わる。
12月7日 スペイン VS モロッコ
お互いに、サッカーをしようとしているように見えた。それは、ボールを持ったら、とにかくゴールを目指すという姿勢を持ち続けているからだった。
そこからは、ワールドカップで戦うのは、厳しいのは当然としても、サッカーは楽しい、ということも伝わってくるように見えた。
解説の風間八宏が、嬉しそうに攻めるモロッコ、という言葉を使っている。
前半、0−0。
もう一人の解説・中村俊輔は、むちゃくちゃ面白いですね。お互いに、自分たちのサッカーをやろうとして、そして、お互いに消し合っているので、という表現をしていた。
後半も、サッカーの楽しさがあったけれど、どちらも得点できないままで、しかも、延長でも勝負がつかず、PK戦になり、しかも、スペインのシュートは一本も決まらず、モロッコが3−0で勝った。
嬉しそうに攻めていたモロッコが、ベスト8に進んだ。
12月7日 ポルトガル VS スイス
あれだけ守りが堅い、と言われていたスイスが失点を重ねていたのは、意外なくらいだった。
この試合は、ポルトガルのクリスチアーノ・ロナウドはベンチスタートで、代わりにトップに入ったのは、ラモスで、もしかしたら、前半17分にラモスが、ほとんど角度がないところからすごいシュートを決めたことで、流れが決まってしまったのかもしれない。
ラモスが、結果的にハットトリックも達成し、後半22分には、5対1になってしまう一方的な展開になった。
その後、観客の期待に応えるように、交代によってロナウドも登場したが、その空気感は、テレビの解説者が「ロナウドショー」と表現するほど、華やかで楽しい時間になっていたように見えた。
アディショナルタイムでも、ポルトガルは得点し、6対1で、試合は終わった。
サッカーの楽しさ
これで、今大会のベスト8が出揃った。
イングランド、オランダ、フランス、アルゼンチン、モロッコ、クロアチア、ブラジル、ポルトガル。
モロッコ以外は、「おなじみ」の名前ばかりだ。
ここに名前を連ねるには、日本に何が「足りない」のか。
日本の地上波視聴者という、微妙な立場でありながら、そんなことを考えて、その後の決勝トーナメントの3試合を見ていた(1試合は、ハイライトだけど)。
そこで、改めて思ったのは「サッカーの楽しさ」だった。
ベスト8に初めて入ったモロッコは、嬉しそうに攻めていたし、トーナメント1回戦で、圧倒的に強く感じたチームは、「サッカーの楽しさ」を忘れていないように見えた。
フランスも、ブラジルも、ポルトガルも、もちろん多くの得点をとって勝てば、余裕も喜びも出やすいとは思うのだけど、最も多くワールドカップで優勝しているブラジルは、見ている側にとっても、すごくて、うまくて、楽しいサッカーだった。
子どもの時に、サッカーを始めて続けるのは、サッカーが楽しいからだ。
自分の思ったようにボールがコントロールできれば楽しいし、チームでプレーがうまくいくと、もっと楽しくなるし、それが得点につながったら、さらに嬉しくなる。そして、勝ったら気持ちがいい。
そのために、練習も続けることになる。
もちろん、プロになり、世界で戦っていくとすれば、そこから想像も難しいくらい、残酷なまでに厳しい競争があるとしても、その「サッカーの楽しさ」を完全に忘れてしまったら、世界の中で「優れたプレーヤー」になれないし、本当に「強いチーム」になれないのかもしれない。
もしかしたら、何より「サッカーの楽しさ」を持ち続ける環境が、今の日本に、最も「足りない」ものではないだろうか。
決勝トーナメント1回戦を終えて、地上波TV視聴者としての「分を超えている」かもしれないが、そんなことを考えた。
12月7日 帰国会見
一緒にテレビを見ている妻が、「もう帰ってきているんだ。まだワールドカップ続いているのに」と言った。
それは、もし、これから先、ベスト8以上を目指しているのであれば、少なくとも、この先のゲームも現地で見て、その空気感を味わった方がいいのではないか、という意味だった。
それは、視聴者には分からない様々な事情があるかもしれないけれど、でも、確かに、そうかもしれない、と思った。
この記事↑によると、18人の選手が帰国している、という。
残り8人の選手のうち、何人が、ワールドカップを決勝まで現地で見ていくのだろうか。それとも、プロプレーヤーというのは、そういうことはしないか、できない事情があるのだろうか。
ただの視聴者には、今のところ、分からない。
(他にも、いろいろなことを書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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