テレビについて(71)アニメ『君は冥土様。』のオープニングがすごくカッコいいと思う。
介護のための極端な昼夜逆転の生活で、その頃は午前3時くらいだと、まだまだ寝るまで時間があると思っていたせいもあって、深夜のアニメはよく見てきた。
それが今は介護が終わり、昼夜逆転とは言えないほど、午前2時頃には眠るようになったし、深夜にはドラマやバラエティなど選択肢が増えたせいで、録画できるのは1番組だけの機械を使っていることもあり、アニメを見る本数はかなり減った。
だから、それほど、自信を持って断言できないのだけど、「君は冥土様。」のオープニングは、とてもカッコいい。と思う。
君は冥土様。
事情があって一人暮らしをしている男子高校生の元に、ある日、「メイドとして雇って欲しい」という若い女性がやってくる。その女性の前職は暗殺者。男子高校生と同居しいていく中で変わっていく、というストーリーで、それはどこか「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を思い出してしまうような設定だった。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も、もっと語れる人がいるから、それほどうかつに名前は出せないけれど、どうしても似ていると連想しまう場面があちこちにある。
ただ、とにかく、そのオープニングが、とてもカッコよく、大げさでなく目が覚めるような作品だと思った。
オープニング
オープニングは、音楽が強めに始まり、そのリズムに合わせて、クローズアップされた信号機の上に、番組のタイトルである「君は冥土様」が表示されているが、その後ろは壁紙のようなバック。人工的な空間で奥行きが狭く感じる。
そのあとに主人公の足の部分がアップになった後、一人で立っていて、周りの人間は不鮮明な粗い像しか結ばないが、その像は微妙にうごめていている。
そして、もう一人の主人公の高校生と思われる男子だけがはっきりと絵になっている。
すると、スッとひきの画像になり、メイド姿をした主人公が交差点で立っているのがわかり、さらに、抽象的な液体のようなものが画面いっぱいに垂れていく。
それは、はっきりと、とんかつにかかるソースだと明確に実写になった後、また切り絵のような静止画で、家事に苦戦するメイドが映る。
音楽は、ギターが同じフレーズをリフレインして、そして、それが繰り返されるから、少しクールな印象になる。
家の中で、四苦八苦しているメイドの姿は止まったまま、部屋の空間の立体感を強調するように回転し、家の中にある布などは実写で、そこに積んである。
視点が、その部屋から飛び出ると、今度は表情のないペラペラの人形のような主人公二人が操られているように、壁紙のような模様の森の中を社交ダンスのように踊るが、とても機械的な動きのままだった。でも、音楽は、さっきとテンポも変わって、楽器の音数も増えるし、ボーカルも柔らかくなる。
そのあと、急に画面はスマホの動画のように細長くなり、画面には実際に撮影したものに色や質感を加工したような風景が次々と変わる。そこにアニメのメイド姿の主人公と思われる女性が走って逃げていく姿が混じる。
さらに、日常の何気ない道路標識や、電線が映り込んだモノクロの短い映像がいくつか挟まれる。
急に、若い主人公の男性が、植物が伸びかけてきた室内から、のぞき穴から外を見ると、最初の交差点に佇む女性が見え、次は舞台で操り人形のように踊る女性と、人間の手が大きく影になって、その後ろで動く。
それを観客席から一人だけ座って見るのが主人公の男性だけど、そこにライトが当たっている。ただ、オープニングで、この場面だけが、全体の中でゆるんで見えて、勝手に残念に見える数秒だった。
若い男性は、急に立ち上がり、舞台で踊る女性の手をつかんで逃げる。
覚悟を決めたような主人公の男性の顔。
すると、オープニング冒頭の信号機と、その後ろの壁紙のような場所に突然、移る。
それから、女性主人公が歩く足元がアニメになる。動いた分だけ、バックがドットのように切り抜きのようになる。その動きが、何度も繰り返されるけれど、その足元からは、色づいた植物がどんどん生えてきて少し華やかさを添えるが、唐突にとんかつにソースをかける実写の映像がさしはさまれ、その女性に近づくように反対側から主人公の男性の足が踏み出される。そこにはやはり草花が伸び続ける。
二人は、横断歩道に囲まれた花壇のような、安全地帯の中で手を取り合う。そして、その周囲には野に咲くような花が控えめに、でも色を添えるように咲いている。ただ、その後ろの空は暗めで、画面全体の半分は影で黒くなっているから、全面的に祝福しているようではないのだけど、二人はしっかりと幸せそうに見える。
おそらくは桜吹雪が舞っている。
その場面で、唐突にオープニングは終わる。
カッコよく見えた理由
アニメのオープニングだけど、いわゆるスムーズでオーソドックスなアニメだけではなく、(エンディングによると)「切り絵アニメーション」や「フォトグラメトリ・実写撮影」や「プロップ撮影」の担当が明記されているので、さまざまな技法が使われている。
それでも、とんかつにソースをかける実写映像は、あまりにも唐突だったりもするが、アニメの内容からすれば、かなり意味があることなのはわかるし、さらには、電線などが写ったり、縦長の画面になったり、いろいろな技法も一緒になっている。
それは、映っている時間や、写されているもののバランスが少しでも崩れるとおかしくなるから、それは難しい作業で、一つの素材やトーンで統一した方が楽にも思えるのだけど、このオープニングでは、全部のテンポや素材やアングルが考え抜かれているようで、見ていて、気持ちが良く、センスがよく、刺激もあって、だから、カッコよく見えたのだと思う。
もちろん、自分の趣味や鑑賞力や、蓄積の限界もあるから、見た人全部がそう思うとは限らないけれど、見たことがない人には、おすすめしたくなるような「作品」だった。
エンディング
エンディングも、実際の映像をあいまいに加工した雑踏に、主人公の女性が、その中を溶け込むように歩くところから始まる。周囲は、水彩画のような淡い抽象的な色彩が画面の半分を占めているのだけど、そこから、ほぼ白と黒の殺風景な世界に唐突に入っていく。
そこにはどうやらナイフが地面に刺さっていて、そこに女性が手をかけると、また画面は変わる。女性は後ろ姿で歩いている。主人公から見たら前方に、視聴者から見たら、奥の方に、明るい色と日常がフラッシュバックのように写った後、最後は、なんだかわからないものに画面がクローズアップすると、主人公の身につけているアクセサリーのようなものだとわかる。
ただ、エンディングは、すべてが溶け込むように表現されていて、そのあいまいさで、先のわからない不安のようなものが漂い、そのエンディングの音楽とあいまって、切なさのようなものを伝えて、終わる。
オープニングもカッコが良いが、エンディングもセンスがいい。
もちろんこれはとても個人的な見方にすぎないのですが、できたら、興味がある方には一度は見てほしいと思っています。
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