外食産業時間④「バーミヤン」閉店の日。東京都大田区。11.23.
唐突に昔のことですみませんが、2009年11月23日のことです。
この頃、いわゆる「ファーストフード」に入店して、食事をしてから、店を出るまで、いつも、自分がただ食べているだけで、その時間にどんなことが見えたり、聞こえたりするのを覚えていないと思って、その時のことを記録しようと思いました。どこにも発表したこともなかったので、同じ日付けの時に、読んでもらえたら、と思って、お伝えしようと思いました(リンクあり)。
「外食産業」のありかたが、すっかり変わってしまったコロナ禍の現在(リンクあり)だと、また違うことを感じられるかも、とも思っています。
不定期ですが、何回か、この「外食産業時間」は続けさせてもらう予定です。
よろしくおねがいします。
(今回は、あまりにも近所のため、すみませんが、東京都大田区内某所とさせてもらいました。この日は、この場所の「バーミアン」としては、最後の日でした)。
2009年11月23日。「バーミヤン」閉店の日。東京都大田区内。
1階のエレベーターのところの看板はもうはずされていた。2階のドアのところにA4サイズくらいの紙がぶらさがっていて、事務連絡のように、11月23日で閉店。午後9時でラストオーダー。10時閉店と書かれているのを見つけたのが先週で、今日はその最後の日だった。
3連休の最後の月曜日の夜。午後7時35分に店に入る。祝日の夜のせいなのか、最後だからか分からないけれど、けっこう人がいる。妻と2人で案内されたのはファミレスにはよくある4人くらいが座れるソファーとテーブルがセットになって、奥に行くには中腰で進めないと座れないボックスで、車いすの義母と一緒の時は、なかなか座れない席だった。
店の奥で、禁煙席で、トイレに続くドアがわりと近い。このセットみたいなテーブル席は、ここのブロックには8個並んでいて、ここではなく、義母と一緒にテーブルが動かせる席に行くと、車いすのために一つイスをあけてくれたりしていたのだった。ここの動かないテーブル席に義母と座ったこともあったけれど、その時は、車いすから移させて、そして車いすをなるべく小さくたたんで席の横に置いたけど、ずっと誰かの邪魔にならないかと気になっていた。
「ばーみん、ばーみん」
たしか5年くらい前に、この町で初めてのファミレスがここに出来た時は、チェーン店であり、けっこうたくさんあることを90歳の義母はきちんと理解していなかったのだけど、「ばーみん。ばーみん」と呼び、20代の自分の孫が来たときは、「○○ちゃんは、ばーみんが好きだから」と言って、来たがった。
確かに家で何人もの食事のしたくをするよりは妻も大変ではなかったし、正月にここで待ち合わせして、10人くらいで食事をした事もあった。ショートステイで義母を預けた時に、妻と2人で来た時は味が違って感じたりもしたし、ショートステイから帰ってくる時には3人で来て義母の食欲に驚いたり、なぜかビールを飲んでいる妻の友人と一緒にここにいた事もあった。
全国チェーンで個性がない、みたいなものがファミリーレストランなのだろうけど、閉店となると、次に同じグループ店になるのが分かっていても、いろいろな事を思い出す。最初の頃はやたらと高齢者が多いから、妻と二人でババーミヤンだと、自分の年齢の事や連れている義母の事はタナにあげて話したこともあった。インターネットでクーポン券をプリントアウトして、ドリンクバーと餃子をずいぶんと安くしてもらった。
「バーミヤン」の客
座った席は、店のかなり奥まったところにあるから、ここから前を見ると、禁煙席の動かないテーブルと、その先の動くテーブルと、さらに奥には喫煙席があるが、その左側に広がる喫煙席の全体までは見えないから、意外と一望できないつくりになっているのを今さらに思う。
メニューを見て、妻が、最後だから、北京ダックとコーンスープが飲みたいけどいい?と聞いた。午後7時45分。テーブルにある丸いボタンを押して店員を呼んで、その2つと豚ニラご飯に半ラーメンセット。ドリンクバーを2つ頼んだ。少し腰をかがめて注文を受けてくれた女性店員は、これまでに見た事がない人だった。
左側のテーブル席には、若い男女4人のグループ。
その隣は、若い女性だけの人たち。
こちらの列の奥には、高齢者の男女4人。
そして、自分たちの後ろの席が親子連れだった。
私は店の奥を背にして、店内を見渡すような位置に座っていて、どの席にも人がいて、けっこう満員のようにも見える。最後だからといって何があるわけでもなく、今度は系列店の「ガスト」になるだけで、今はコンピューターを修理に出しているから、今日はクーポン券が使えないのが残念に思うだけだった。
妻がトイレに行っている間に、若い男女の客が入ってきた。妻が戻ってきて、かわりにトイレに行く。鏡で自分の顔を見たら、さっき見た時よりも顔色がよくなって見えた。
ドリンクバー
午後7時50分。通路を歩いて左側にあるドリンクバーに行き、ライチ入り紅茶とコーヒーと野菜ジュースを小さいお盆にのせた。
店の入り口付近に並ぶ喫煙席のテーブルの客がいなくなっていて、急に空いているお店、という感じになった。ドリンクバーに並んでいて、一時期なくなって、最近復活した湿ったお手拭きが今日はないけれど、あと2時間くらいで閉店だし、わざわざ店員を呼んでもらう気はしなかった。
スープバーに行き、おかわり自由の大きいナベの中は、残りが少なくなっているので底の方をかき回して具をすくって、目をあげると、ちゅう房の入り口が見える。壁に貼ってあった紙をはがして、その後をカッターで削ろうとしている店員がいる。
店内のあちこちに小さいテーブルがあって、その上にあった小皿や義母用によく使った子供用のプラスチックのおわんなどがきれいに片付けられていて、何もなくなっている。むきだしのテーブル面を初めて見たかもしれない。
スープの調子
席に戻り、妻がスープを飲むと、底の方に少ししか残っていなかったものだけど、「これまででもベスト3に入るかもしれない。おいしい」と笑顔だった。
確か、ここが出来た頃はスープがセットについていてメニューと一緒に運んできてくれていたけど、途中からスープバーみたいな形になった。ドリンクバーも最初の頃は鉄釜で湯を沸かし、ひしゃくみたいなもので茶葉を入れたポットに注ぐようなスタイルでウーロン茶などを飲めたのが、途中からティーパックと電気ポットに代わった。
そして、スープは日によって、いまいち・ダメ・あたり、の3種類くらいの日があると妻が言うようになり、ここのところは「あたり」の日があまりなくなっていた。確かに味が足りないと、私でさえ思う日が多くなり、こしょうなどを入れると味が変わり、味を整える、という料理番組用語に納得したりもした。
だから、今日は最後だから、と力を入れてスープを作ったのかも、という会話になった。テーブルの上にいつもあった紙ナプキンもなかった。それはたまたまなのかもしれないが、隣の誰もいないテーブルからもらってきた。
食事の時間
午後7時50分にコーンスープが来る。その後、半ラーメンが来たので取り分けるために小どんぶりを持ってきてくれるように、初めて頼んだ。いつもは、店内のあちこちにあって、自分で持ってきていたからだ。
それから5分後には、頼んだメニューは全部そろった。ドリンクをまた取りに行ったら、少し遠くに見えるちゅう房の中で、さっきは一人でこすっていた壁を3人でゴシゴシしている。全部男性かと思ったら、一人はおそらく食事の支度をする女性だった。さっきはただこすっていたのに、今は洗剤らしきものをかけて、またゴシゴシを続けている。
席に戻ると、座っている後ろの席で新型インフルエンザの話になっている。たまにしか外食をしないのに、この話題を何度聞いただろう?左側のテーブルの1組の客が帰っていった。
食事をしながら、妻が、ここのコーンスープを初めて飲んだ時に、すごくおしかった、と今日頼んだ理由を言っている。確かに、おいしいけれど、私には、すごくとは思えなくて、でも、妻はその理由を即座に断言したから、本当にそう思ったに違いない。さらには、普通はセットについてくるスープが多いのに、わざわざ単品でスープを頼む、という行為が、よけいにおいしく感じさせるのかもしれない、などと理屈っぽい事も思ったが「おいしい」という笑顔の妻を見ていると、そういう理由は、ちょっとどうでもよくなった。
変化について
店全体で少しお客が減ってきて、温度も少し下がってきたような気がする。左側のテーブルから、また1組の客が立った。
妻と、これからの「ガスト」の話になる。この呼び出しのベルも、イスも、テーブルも、これからも、いっしょなんじゃないか?表を張り替えてたりはするけれど、基本的な店のレイアウトも同じなんじゃないか?確かにそうなのだろうけど、この何年間で30回以上はここに来ているはずで、それでも「ガスト」にかわったあとで、ホントにその細かい違いが分かるんだろうか?けっこう忘れてしまうんじゃないだろうか?似ていて違う方が、その差に気づきにくいかも、という話になっていった。
私の座っているところから、1つとばしたテーブル席に座って食事とおしゃべりをしていた高齢の女性2人がベルで店員を呼んで、テーブルで会計をしようとしたらしく、「レジでお願いします」と言われている。もしかしたら、ここに初めて来た日が最後の日かもしれない。それで、この2人はその事を知らずにただ食事をして帰っていくだけかもしれない。
この前、今は、ほとんど人がいる事がない実家に、たまたまセールスの電話がかかってきて、私が出て、そして断ったのだけど、それはある意味でとてもラッキーな事でもあるのに、そのセールスの電話をかけてきた人はその幸運(?)も知らないまま、もしかしたら運の無駄使いをしただけかもしれない、などと勝手な事を思った時と微妙に重なった。
またドリンクバーに行ってコーヒーを抽出していると、さっきその大きいナベごとなくなっていたスープバーのスペースに、残り少ない量のまま、そのナベが戻ってきていた。「今から作るんですって。食事終わっちゃうわよ」と少し怒っている中年女性がいた。この人が、スープの事を聞いたのだろう。もうすぐ閉店という事も知らないだろう。
そして野菜ジュースをコップに入れたが、もう残りがほとんどない。だけど、あと2時間くらいで閉店するお店に、これないです、と言いづらく、他の飲み物を持っていった。その場所から、ちゅう房の壁をまだこすっている店員が見えた。
客の動き
席に戻ると、私たちが来る前からずっといる、通路をはさんで左側の若い男女4人の会話のボリュームが上がり、途切れていない。後ろの席の親子連れが帰っていく。キャスター付きのバッグをひっぱっている若い男性がやってきて、禁煙席に一人で座る。
午後8時20分。会計をするはずだったのに、それからまだしばらく座っておしゃべりをしていた高齢の2人の女性が席を立ち、そのテーブルを店員がふいている。
入り口のちっちゃい紙に書いてあるだけだから、閉店の事なんて知らないままの人もけっこう多いはずだ、と思っていると、左斜め前のテーブル席に、30代前半くらいのカップルが座った。注文をして、ほとんど何の会話もないまま、女性がすぐに席を立って飲み物を持ってきて、そこに店員が男性に生ビールのジョッキを持ってきた。あまり会話もないままで、そのそばの若い男女4人の会話に、そこにいない共通の友達の名前が何回か出てきて、さらに声のボリュームが上がった。
ラストオーダー
午後8時59分。動かせるテーブルが並ぶ、ちょっと向こうの禁煙席で、楽器らしきケースを持った団体が立ち上がった。ここからは全部が見えなかったが、どうやら10人以上の人数だったみたいだ。それに目を奪われていたら、店員があちこちのテーブルを回ってきた。ラストオーダーですが?と聞かれ、ありません、と答える。近所のテーブルでも同じ会話が続いた。今日は妻といっしょに来て、早く帰るつもりがなんだかのんびりしてしまい、1時間以上は店内にいて、ラストオーダーになってしまっていた。
午後9時12分。それでも、ここまで来たら閉店までいようと考え、もう少しコーヒーを飲もうと思ってドリンクバーに行ったら、ちゅう房の壁をこする作業が終わっていた。
もうホントのラストオーダーだったのだけど、これまで何十回と来た時の気配とほとんど変わらず、チェーン店でしかも、次は系列のファミリーレストランになるのだから、感傷的な出来事など、ほぼ皆無なのかもしれない。
すぐそばのビルの3階に「笑笑」という居酒屋のチェーン店が出来て、しばらくたったら「魚民」に代わっていたが、今はお酒を飲まなくなったせいもあって、ほぼ何の関心も持てなかったが、それに近い変化なのだろう。
それでも店の内部では、いろいろな事があるのだろう、とコーヒーの何度目かのおかわりを飲んでいるだけの客には、粗い推測をする事しか出来ない。
客が帰った席の器を、いつものように店員が片付けていく。
店が変わる境目
午後9時20分。スタッフの一人が五目ラーメンらしきものを持って、私たちの前を通り過ぎ、トイレに通じるドアの向こうへ行った。その先の左側には男女のトイレのドアがあるが、その先に「スタッフオンリー」のドアがあるから、そこへ行くのだろうと思った。
そういえば、さっき休日なのに重そうな黒いビジネスバックを持った背広を着た中年男性が、トイレに通じるドアの向こうへ行ったきり、けっこう時間がたったのに帰ってこないのを思い出し、あれが本部かどこかから来た、もしかしたら店長よりも偉い会社の人かもしれない、と思い、彼へのラーメンではないか、と勝手な推測が走った。
午後9時23分。今まではこの店で見た事がない男性店員が歩いてきた。やや短髪でサイズぴったりの上下の制服を着ている30代くらい…最近、顔を少しおぼえたNIGO氏にちょっと似ているような…の店員の胸の名前の書かれているプレートには「ガスト」の文字もあって、その人もトイレに通じるドアの向こうへ消えた。
なにやら打ち合わせを始めるのだろうか、などと思っていたら、彼はすぐに戻ってきて、客のいなくなったテーブルから呼び出しのボタンを片付け始める。そのあとに、その「NIGO氏」は、またトイレへのドアへ消えたり、戻ってきたりを何度か繰り返していた。
おそらくはシンプルに、マニュアルの中にあるような、打ち合わせや引き継ぎをしているだけで、ただ淡々と作業が進められているだけに過ぎないのだろうけど、トイレにも通じるドアの向こうに消えていくスタッフを見ていて、単純に建物のレイアウトの都合に過ぎないのに、なにか特別な打ち合わせが行われている気もちょっとしていた。
閉店の時刻
午後9時38分。あいている席からメニューが片付け始められた。ここは夜中は午前2時までやっていたり、朝はモーニングのメニューもあったけれど、そういう時間帯に来たことは一度もなかった。
そして、いつもはテーブルの上に置いてあるままのメニューが片付けられたあとに、初めて目にするカゴを店員が持ってきた。パンなどを入れるようなプラスチック製の1メートル四方くらいのやや長方形の入れ物。給食当番の時に持ったようなもの。そこには「すかいらーく」と書いてあった。その中にテーブルの上に常備してある調味料を入れ始め、テーブルの上が何もなくなってきた。
そろそろ帰ろう、と立ち上がり、レジに行く。ティーポイントをどうしますか?と聞かれる。一瞬、次の「ガスト」では使えないかもしれない、と思い、全部使います、と言い、約300円ひいてもらった。店員に「今日で終わりですか?」と聞くと「今日で閉店でございます。ガストになって12月6日グランドオープンでございます」と微妙な間を置いてスムーズな答えが返ってきた。
お店を出たのは午後9時42分だった。店の外のガラスには、「12月6日オープン」のポスターを、設置し始めているスタッフがいた。もう次が始まっている。1分1秒を無駄にしない感じに、なんだか感心した。
(他にもいろいろと書いています↓。読んでもらえたら、うれしいです)。