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読書感想(おちまこと)

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読んだ本の感想を書いています。
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#歴史

読書感想 『コロナの時代の僕ら』 パオロ・ジョルダーノ  「不安の中での知性のあり方」

  2020年に入ってすぐの頃、1月くらいを思い出そうとしても、とても遠くに感じる。そして、今とはまったく違う社会だったのだけど、それも含めて、すでに記憶があやふやになっている。  それは、私だけが特殊というのではなく、今の日本に生きている人たちとは、かなりの部分で共有できるように思っている。 海外の人たちへの関心の薄さ  最初は、そんなに大ごとではなかった。  新しい病気がやってきそうだけど、そんなに危険ではない。あまり致死率が高くなく、いってみれば、毎年、流行を繰り返す

読書感想 『日本の最も美しい図書館』---「うらやましい場所」

 中年になってから、本を読む習慣がついた。それで、よく行くようになったのが図書館だった。12冊を借りて、二週間で返却する。その生活のリズムが自分の身になってきているような気がする。  地元の図書館では、サイト内に自分のマイページのようなものを設定できるようになっていて、そこから予約ができるようにもなって、12冊まで可能だから、それも上限まで使うことが多い。  その時、芥川賞などを受賞して話題になっている作品は、予約が殺到し、その待機人数は100を超えることも珍しくない。だ

読書感想  『もしもし、アッコちゃん?漫画と電話とチキン南蛮』 「幸福な話」

 ある著者が自著のことを語っていた。それと関連する書籍として、他の著者の本の内容に触れていた。  そのことを珍しく感じたので、読もうと思って、だけど、申し訳ないのだけど、収入が少ないので購入できず、図書館で予約して、少し忘れそうになっている頃に、準備ができたというメールが来た。  2ヶ月が経っていた。  その著書は、思った以上にエンターテイメントだった。 『もしもし、アッコちゃん?漫画と電話とチキン南蛮』 東村アキコ もちろん著名な漫画家として、著者の存在は知っていた

読書感想 『世界は五反田から始まった』  「主観と客観と歴史」

 タイトルを知って、なんとなく敬遠をしてしまっていた。  それは、昔、こうした大きな言葉を掲げてから、内容は軽くする、というような手法が多くとられていたからで、それで、「面白さ」を生じさせるような文章を読めたのは、もしかしたら、バブルという好景気の頃までだったのかもしれない。  そんなような個人的で勝手な感想が、かなり愚かな思い込みだったことは、この作品を読み始めて、すぐに気がついた。適度な柔らかさもあったのだけど、自分の主観をつづることで、それは、誰もが思い当たるような

「読書感想  『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』  「プロの歴史学者の凄さ」

 歴史修正主義者、という言葉を聞くたびに微妙に違和感がある。  あれは「修正」なのか、というほど、その人自身の願望だけで過去を見ているだけだと思うからで、それは「改ざん」といっていいようなことなのでは、とも感じる。  そして、それを個人的に信じているだけなら、それも信念で尊重するべきことかもしれないけれど、その「修正」をする人が、社会を動かせるような位置にいる時は、はっきりと「歴史改ざん主義者」と伝えた方がいいのではないか、と思っている。  ただ、今も、歴史はあちこちで

読書感想 『シニア右翼 日本の中高年はなぜ右傾化するのか』 「すでにあった現象の明確化」

 ここ数年、あちこちで見聞するようになったのは、スマホを手にするようになった高齢になった親に会いに、久しぶりに実家に戻ったら、外見は変わらないようだったのだけど、話をしたら驚くほどの変化があった、という話だった。  そして、その言動は「ネット右翼」といわれてもおかしくない変化で、その生々しい体験を本にした著者がいて、分断から理解に至るまでの親子関係というものまで考えさせてくれる優れた作品で、紹介させてもらったことがある。   それは、とても個人的な話でありながら普遍的なこ

読書感想  『戦前の正体』 辻田真佐憲 「知らないままでいることの危うさ」

 幼稚園児に軍歌を歌わせたり、教育勅語を暗誦させたりする風景が、一時期、毎日のようにテレビ画面でも流れたことがあった。その姿は異様に見えた。  それに対して、戦前回帰、という批判がされて、視聴者としてもそう感じていたのだけど、おそらく知っている範囲だけど、一人だけ違った視点を示している人がいた。  あれは、実に戦後的な光景で、本当に戦前だったらありえない。  そんな指摘をしている辻田真佐憲氏は、軍歌などに詳しい著者という印象だったし、本来であれば、本当に戦前を知っている

読書感想 『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』  「本当の歴史の重要性」

 おふくろの味。  言葉としては、随分と聞いたけれど、いつも、モヤモヤした印象があった。  それが解消されないうちに、おふくろの味、という単語自体を、あまり聞かなくなった。  そういう流れの理由が、この書籍を読んで、やっと明確に見えた気がした。 『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』  湯澤規子 2020年代では、すでに、こうした「火種」になること自体が、特に若い世代では少なくなっているような気もするが、それでも、「おふくろの味」という言葉の印象はまだ残

読書感想 『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』  「日常を面白がれる思考」

 タイトルだけだど、なにが書いてあるのか分かりにくい。  どうやら、あの街中で見る「ドン・キホーテ」のことらしいから、もしかしたら、ビジネスの話なのだろうか。  そんなことも思ったけれど、著者・谷頭和希氏が、1997年生まれだから、20代。本当は年齢だけで判断してはいけないのだけど、その若さで、より興味が持てた。 『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 谷頭和希 すごく面白い本だった。  この面白さは、工場やジャンクションや団地の写真を撮ったり、文章を書いている大山顕や

読書感想 『教育と愛国』 「嘘のような現実」

 同じタイトルの映画が始まったのを、知った。  このドキュメンタリーが、最初はテレビ番組だったのも、恥ずかしながら、やっぱり知らなかったけれど、学校という場所が、表面上は分からないのだけど、かなり変化している気配を、ラジオ番組で話をしているテレビディレクターであり、この映画の監督の話によって、少しわかったような気がした。  そして、その番組を2019年に書籍化していることも知った。 「教育と愛国 ーー 誰が教室を窒息させるのか」 斉加尚代   自分に子どもがいないと、学

読書感想  『愛と差別と友情と LGBT Q +』 北丸雄二 「回路を通じさせるためのガイドブック」

 LGBTという言葉を覚えたのが、恥ずかしながら、自分の中ではつい最近だった。そこにQが加わり、さらに+という表現もされるようになった。定着と変化のスピードは速くなった。たぶん、理解が追いついていない。  それは、おそらくは単に、見えていなかった事が見えるようになっただけなのだろう、と思えるようにはなったものの、それでも、自分は分かっていないし、分かるようにならないのではないか、という恐れのようなものは、ずっとある。  橋本治の小説の中で、自分の思いを相手が受けいれてくれ

読書感想 『日本の包茎』 澁谷知美 「ある種の暴力の歴史」

 このタイトルは、男性にとっては微妙な感情を揺り起こす。  だから、半笑いのような態度で接することが多くなると思う。  そんな風な気配で、テレビ番組で触れている女性の学者もいた。  ただ、実際に読むと、個人的には、その態度が間違っていたことに気づく。  これは、「男の体の200年史」というサブタイトルがついているものの、男性が男性におこなってきた「ある種の暴力の歴史」だった。 「日本の包茎 男の体の200年史」 澁谷知美 (注 ここから先、主に男性器に関しての話が続きま

読書感想  『超空気支配社会』 辻田真佐憲  「中間と総合の重要性」

 著者の辻田氏に対して、最初は、軍歌マニア、といった捉え方をしていた。  それは大きく外れていなかったかもしれないが、著作を重ねるごとに、そんな見方がとても浅いことに気がつき、ラジオなどでの辻田氏の、「現在の出来事」についての「発言」が、とても明快で、生意気な言い方を使えば、「とてもよく見えている人」だと思うようになった。  それが、どうして可能なのか?  そのことが、この著作で、少し分かったように思えた。 『超空気支配社会』  辻田真佐憲    空気が支配するというの

読書感想 『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む 』。  「テレビが見たくなる批評」。

 ずっとテレビは見てきた。  今も見ている。    テレビが隆盛を極めた時代でも、「テレビは見ない」という人はいた。それは、テレビを見ることが「愚かな行為」として考えられていた部分もあったし、テレビはNHKしか見せない、という家庭もあった。  だから、全面的にテレビ視聴が讃えられたことは歴史的には一度もないのかもしれない。    そのうち、今はインターネットや、配信や動画などがあって、地上波のテレビは「見ない」という意志よりも、自然に「見ない」ものになっているようだ。