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読書感想(おちまこと)

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2024年11月の記事一覧

読書感想 『それは誠』 乗代雄介    「超純粋な青春小説」

 作品を読んだだけで、読者としては何が分かるわけもないのだけど、その小説から、小説家のイメージを勝手につくり上げてしまうことがある。  特にメディアで、インタビューなどにほとんど登場しないと、その傾向が強くなる場合がある。 乗代雄介 乗代雄介がそうだった。  最初は、他の小説家が、この時代でも本当に書くことに集中している人として紹介しているのに興味を持って、『本物の読書家』を読んで、それだけで全部がわかるわけでもないけれど、本当に紹介された通りの純度の高さを感じた。

読書感想 『センスの哲学』 千葉雅也  「視界を変える可能性」

 センスという言葉は、それを持たない者にとって、大げさに言えば、呪いの言葉のようにも感じる。  最初に、特に男性は運動のセンスのあるなしを嫌でも自覚させられる。  そこでセンスがない場合でも、小さい頃から絵は描いているから、そうしたアーティスティックなセンスがある人間と、ない人に、知らないうちに分けられている。  それから、しばらく経って、学問の世界でもセンスが問われることを知る。  学校を卒業し、仕事を始めると、そこでも知らないうちにセンスがある人間と、ない人間に振

読書感想 『むらさきのスカートの女』 今村夏子 「多様性のリアル」

 第161回芥川賞受賞作。『むらさきのスカートの女』  そういって、その発表が、西暦何年の何月、といえる人は、相当に文学への関心と知識が深い人なのは間違いない。  自分にはそんな知識はないので、検索すると、2019年で、元号で言えば、平成31年から令和元年に移り変わる特殊な年だった。そして、この161回の芥川賞は、1年に2回のうち上半期で、7月に発表された。  芥川賞を受賞すると、今もまだ話題にはなり、出版界は長く不況といわれているけれど、その作品は注目を浴びるし、図書

読書感想 『神に愛されていた』 木爾チレン  「書くことを、信じ続けられるすごさ」

 ラジオを聴いていて、本に関する話題になるとメモを取ろうという姿勢になる。  その時は、リスナーからの日常的な出来事の中で、ある作品と出会ったというような言い方で、小説の題名が出てきていた。リスナーは女性のようで、その上、その作品は若い人に評価されていて、ということを知り、自分は若くないけれど読んでみたら、とても素晴らしかった、という内容だった。  若い女性が支持する作品は、若くなくて男性の私からは、たぶん、最も遠く、通常モードで暮らしていると、読む機会はないのだと思った

読書感想  『ヒルビリー・エレジー  アメリカの繁栄から取り残された白人たち』  「トランプを支持せざるを得ない歴史」

 アメリカの元大統領---トランプを支持する人たちがわからなかった。  すごく乱暴で、差別的で、アメリカのいわゆる「ラストベルト」と言われる地域----それは、言葉は悪いのだけど、時代に取り残された人たち、というイメージだったし、だから、そこを救ってくれるという人があらわれたら、支持するのは自然だとしても、トランプがアメリカの大統領になったとき、日本のギャラリーで個展をしていたアーティストと話をしたら、悲しいことだ、と言っていた。その人は間違いなく、エリートといっていい人だ