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読書感想(おちまこと)

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2024年9月の記事一覧

読書感想 『マリリン・トールド・ミー』 山内マリコ  「時間を超えた共闘と、成長」

 山内マリコのデビューは、鮮やかな印象があった。 『ここは退屈、迎えに来て』は2012年に出版されたのだけど、都心から離れたような場所に暮らしていることについて、もちろん本当にわかりはしないのだけど、初めてリアルに伝わってきたような気がした。  それから、10年以上が経っているのに、毎回、手慣れたテーマを扱う、というよりは、芯の部分は変わらないとしても、いろいろなことについて書き続けている印象があって、だから、ベテランという落ち着きよりは、全作を読んでいるわけではないので

読書感想 『「百年の孤独」を代わりに読む』 友田とん  「読書の自由」

 〇〇代行、という仕事は増えているようだ。  最近知ったのは「退職代行」で、ちょっと聞くと、それは本人がやることでは、などとも思うのだけど、職場によっては、それも仕方がないのでは、と思えるほど、ブラックな会社もあることを、報道などで知った。  だから、読書代行、というような仕事もあって、それは、忙しくて時間が足りない本人の代わりに、必要だという本を読んで、それをレポートにまとめる、といった現代特有の職業もあるらしいが、今回の「代わりに読む」のは、それとは全く違うようだ。

読書感想 『生き延びるために芸術は必要か』 森村泰昌   「あらゆる時代、あらゆる場所の切実」

 森村泰昌、という現代美術家は、1990年代から知っていた。  東京都現代美術館で、大規模な個展を見たときは、森村泰昌氏が、あらゆる絵画の中にいた。  西洋美術史の作品を、東洋人の森村泰昌が演じる意味のようなことが大事になってくる、といったことをテーマにしているのだけど、最初はピンと来なかった。  ただ、それから20年以上、時々、あちこちの美術館やギャラリーなどで新作を見たり、横浜トリエンナーレでキュレーションをしたり、美術に関する著作も何冊も読むようになって、実作者と

読書感想  『ヘルシンキ 生活の練習』  「フェアで正確な視点」

 北欧の語られ方に、個人的には違和感があった。  自分が介護生活にはいり、仕事も辞めざるを得なくなって、介護に専念するようになってから、自分でも調子がいいとは思うのだけど、急に介護に関する本なども読むようになった。  介護の体験談。介護の社会的な意味。各国の介護事情。  その中で、北欧の介護制度に関しては、自分が読んだ狭い範囲に限ってなのかもしれないが、専門家が北欧を訪問し、そのシステムの素晴らしさに感嘆する、賛美する。そんな内容が多いように感じ、そこに違和感がずっとあ