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読書感想(おちまこと)

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2024年7月の記事一覧

読書感想 『ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学』 サラ・ロイ 「なにも知らない恥ずかしさと怖さ」

 もう、そういう時代ではないのでは、などと、国内の残酷さが増えていくばかりの現状を生きていながら、国際的には突然の一方的な戦争などは起こらないのでは、と無知でぼんやりした楽観性を持っていた自分の愚かさを、2022年に知った。  そのことにあまりにも無力で、だから、どこかで考えたくないような思いになっていたら、2023年になって、今度はイスラエルとガザとの間で戦争が起こってしまった。それまで、歴史的なことについて書かれたものなどで、触れているはずのガザという名称について、初め

読書感想  『アイスネルワイゼン』  「小さい棘と、薄い悪意の日々」

 誰かがすすめていた文章を読んで、読みたくなった。  ただ、失礼な話だけど、その誰かのことを忘れてしまっても、その本のタイトルを、なんとなく記憶していたのは、覚えたくなるようなタイトルだったせいもある。  これが、この著者のプロフィールだけど、だから、まだ小説家を始めたばかりで、芥川賞の候補になっていることになる。ただ、芥川賞自体が、本来は新人賞に近い役割をしていたらしいことも、恥ずかしながら最近になって知った。 (※ここから先は、内容の引用もしています。未読の方で、情

読書感想 『ネットはなぜいつも揉めているのか』-----「争いの必然性」

 インターネットを、「ネット」と言うのにまだ少し恥ずかしさがあるのは、今もSNSを日常的に利用している感触がないからだ。  このnoteも、SNSなのかもしれないけれど、他のシステムと比べると平和ではないか、という評判を見て、やっと始めたくらいだった。XがTwitterという名前だった頃は、何十人かのツイートを「お気に入り」に登録して、時々見るくらいだったけれど、確かに毎日のように「揉めている」印象だった。もし、ここに参加したら、自分の中の攻撃性が嫌でも引き出されてしまうよ

読書感想 『マイホーム山谷』  「人間の凄さと弱さと豊かさ」

 「山谷」という土地の特殊性だけは何となく知っていて、だから、どこかで恐れもあるから、あまり近づこうとも、それ以上詳しく知ろうとも思っていなかった。  さまざまな書籍で、「山谷」について触れたことはあったけれど、もっと勝手に身近に感じられたのが、弓指寛治、というアーティストの作品によってだった。  それは、ホームレスをテーマに作品を作ってもらえませんか?というある意味では無茶な要求に対しての、とても誠実で、しかも要求を上回る作品にも思えたのだけど、その中で、山谷という場所