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読書感想(おちまこと)

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2024年6月の記事一覧

読書感想  『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる 答えを急がず立ち止まる力』    「ゆっくり身に染みていく何か」

 時代のキーワードのようなものは、多くの人によって、これこそが重要で、しかも新しい、という言葉と共に、絶え間なく提出され続けている。  それは、おそらくは、もしかしたら人類が言葉を使うようになってから、ずっと継続されていることかもしれないと思うから、いつの間にか、重要で新しい言葉、ということ自体にどこか飽きてしまっていて、なんとなく微妙な無関心になっている。  特に英語圏の単語をそのままカタカナに置き換えたキーワードは、翻訳するという作業を怠っているようにも見えて、より信

読書感想 『一心同体だった』 山内マリコ  「1980年・日本生まれ・女性」

 男子は子どもだ。  そんな言葉が学校などで広く使われているのかどうかは、よくわからない。  だけど、自分が歳を重ねるほど、特に高校生くらいまで、女子がどれだけいろいろなことを考えているか、男子がこんなに何も考えていないのか。といったことには嫌でも少しは気がついて、男子は子どもだ、男子はバカだ、といった少し遠くから聞こえてきたことは、本当だと改めて思うようになる。  女性同士の友情、といったことが描かれていると思いながら読み始めた。  表紙も、女性ばかりがいるような、

読書感想 『ザハ・ハディド全仕事』  「圧倒的に美しい建築」

 それほど建築に詳しいわけではないけれどザハ・ハディドの「アンビルドの女王」という、今だとやや問題がありそうな呼び名だけは知っていた。  建築できないような設計図を描く人。  だけど、考えたら、実際に建てられない建築物を構想している人がいること自体が不思議だった。建てられない設計図ばかりを書いていたら、建築家として続けられないのではないか。だけど、その人が建築家としていられるのが可能だとすれば、その建築家のイメージする建築物が、とてもすごいということを、専門家を含めて共有

読書感想 『職場を腐らせる人たち』 片田珠美   「身を守るために知っておいた方がいいこと」

 ここ20年くらいで職場環境は厳しくなる一方ではないか。それほど会社という組織に深く長く関わってきたわけではないけれど、それでも、働くことが異様に厳しくなっているような気がする。  そして、会社を辞める理由の第1位は、どうやら何十年も「人間関係」のようだ。それは会社勤めが短い私でさえ納得がいくのと同時に、不思議なのはいわゆる「嫌な人」が、どこにでもいそうで、しかも「嫌な人」であることは、損得で考えたら明らかに損だと思われるのに、そのあり方を変えないことだ。  そんなことを

読書感想 『顔に取り憑かれた脳』 中野珠美「〝自分の顔〟という特殊性」

 ラジオで本を紹介するコーナーがある。  それは、あらゆる番組を数えたら、現在でも想像以上に多いのかもしれず、もしかしたら耳で聴くことと、本に関する情報は相性がいいのかもしれない、とも思った。  さらには、ポッドキャストでも本の紹介をしている。  この『聴く講談社現代新書』は、新書の概略と、その冒頭を朗読してくれる。  こうして、その一部だけでも内容がわかるし、それも著者の書いた文章そのものを紹介してくれることになるし、今は本1冊を耳で聞けるシステムもあるから珍しいこ