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読書感想(おちまこと)

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2024年5月の記事一覧

読書感想  『掏摸』 中村文則  「人間の多様性」

 本来ならば失礼なことかもしれないけれど、小説家なのに、小説の前にその言動が気になっていた。  テレビやラジオなどマスメディアでの発言を聞くたびに、とても真っ当なことを伝えてくれているように思えたし、本人も意識して社会的なことも伝えようとしているように思えた。 社会的な言葉 音楽に政治を持ち込むな。  そんな言い方がいつの間にか多く聞かれるようになって、それは、音楽だけではなくエンターテイメント一般にも言われるようになった。  もしかしたら普段の生活が辛くて、少しでも

読書感想 『東京都同情塔』 九段理江  「とても強い小説」

 どんな本を読むのか。  自分がそれほど早く本を読めるわけでもなく、若い時から古典と言われる作品をたくさん読んできたわけでもない。読書の習慣がついたのは、中年と言われる年齢になってからだった。 本を選ぶこと だから、どの本を読むのかについて、ただ自分の感覚に従って、例えば昔のレコードの「ジャケ買い」のように、本の表紙や作品名だけで選んで、それが自分にとっての名作であるような鋭い選択をできるような自信は全くない。  ただ、それでも色々な本を読むようになって、ラジオやテレビ

読書感想 『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』 石井 暁 ----「終わらない戦前」

 もう過去のことになってしまい忘れられているかもしれないけれど、テレビドラマ「VIVANT」が放送され話題になっていたのは2023年の夏の頃だった。  知っている俳優が、これでもかと出ていたし、役所広司と二宮和紀が揃うことも珍しいと思ったので毎週見ていた。だけど時々、組織に忠誠を誓いすぎる半沢直樹のようにも見えてしまったし、もう少しさりげなく行動してくれたらプロの怖さと凄みが出るのに、などと勝手なことを思いながら見ていたせいで、熱狂には遠く、ということは本当に楽しめなかった

読書感想 『うるさいこの音の全部』 高瀬隼子 「知名度が上がることのどうしようもない閉塞感」

 芥川賞や直木賞は、今も注目を浴びやすい。 芥川賞 その作品を読んでなくても、読んでその優れたところがわからないとしても、芥川賞作家は、すごい。  そんなことは、今も常識になっているのだと思う。  そして、もう少し情報が豊かになると、直木賞は広く読まれ、芥川賞は芸術性が高い、といった見方はいい方で、芥川賞は、わけが分からない、などという言葉も何度も見聞きしたことがある。  文藝春秋という一つの会社が創設した文学賞が、これだけ広く浸透し知名度があるというのは少しでも冷静