マガジンのカバー画像

読書感想(おちまこと)

252
読んだ本の感想を書いています。
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

読書感想 『出世と恋愛 近代文学で読む男と女』  「社会の反映」

 名作と言われている近代文学の多くは、例えば「夏休みの課題図書」だったり、教科書で出会ったせいか、大人になってから、なんとなく縁が遠くなってしまうことが多い。  それでも、思いついたように過去の文学を読むと、その凄さを感じることもある。  例えば、実は夏目漱石の「明暗」は、まるで見栄を張ってしあう現代の男女の気持ちの繊細な読み合いまで描かれているように感じて、やっとすごいのが分かったのが、自分が中年になった頃で、同時に、これは若い時よりも大人にならないと読んでも理解できな

読書感想 『「日本」ってどんな国?国際比較データで社会が見えてくる』 「現実を把握する必要性」

 20世紀の末に、ぼんやりと考えていたのは、世の中はもっと変わっていくのは間違いない。だから、できたら、少しでも、誰もが生きやすく、暮らしやすい社会になればいいのにな、と思っていたのは、自分自身が、社会的にも個人的にも強い人間でなかったせいもあった。  だけど気がついたら、21世紀になって20年以上が経って、思った以上に変わっていないと感じていたら、どうやら、それは感覚的なものだけではなく実際に変化していないようだった。  道を歩いている小学生は、今もランドセルを背負って

読書感想 『シニア右翼 日本の中高年はなぜ右傾化するのか』 「すでにあった現象の明確化」

 ここ数年、あちこちで見聞するようになったのは、スマホを手にするようになった高齢になった親に会いに、久しぶりに実家に戻ったら、外見は変わらないようだったのだけど、話をしたら驚くほどの変化があった、という話だった。  そして、その言動は「ネット右翼」といわれてもおかしくない変化で、その生々しい体験を本にした著者がいて、分断から理解に至るまでの親子関係というものまで考えさせてくれる優れた作品で、紹介させてもらったことがある。   それは、とても個人的な話でありながら普遍的なこ

読書感想  『妻はサバイバー』  「生きていくこと」

 ラジオで、出版社主催のノンフィクション賞の話が流れてきて、なんとなく聞いていた。  結果としては、知られざる事件を丁寧に取材し、事実を知りたいという志を貫いた作品が選ばれて、それは「ノンフィクション」の賞として自然なことだし、その作品も素晴らしいと思ったが、他の候補作のことも当然ながら話題になった。  その中で、ノンフィクションとしてはページ数が少なく、しかも、基本的には家庭の中だけの「個人的」な出来事を描いた作品が、特に若い人からは高い評価をされて、といった話まで進ん