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読書感想(おちまこと)

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2023年9月の記事一覧

読書感想 『告発と呼ばれるものの周辺で』 小川たまか  「声を上げ続けた成果」

 今から3年前にも、同じ著者の書籍を紹介させてもらった。  そのときに理解できないと思っていたことが、今は少しわかったような気持ちになれるのは、それだけ、社会が変わってきたのだとは思う。  ただ、その変化は、権力側にいるような、「力」がある人たちが積極的に啓発をすすめてきたというのではなく、著者のような当事者視点の人たちが、私のような立場では体験できないような誹謗中傷を受けながらも、それでも声を上げ続けた成果なのだと、同じ著者の書籍を読んで、改めて思った。 『告発と呼ば

読書感想 『小説のストラテジー』 佐藤亜紀 「背筋が伸びるような言葉」

 小説家の中でも敬意を強く持たれ、場合によっては畏怖されていて、だから、批評家や評論家も、それほど簡単に触れられない作家がいる、ということを、佐藤亜紀の存在で、少し分かった気がする。  それは、読者としても同様で、わかったようなことを言えるような作家ではなく、どうやらすごいらしい、ということは、佐藤亜紀を、他の書き手がどのように表現しているかで、伝わってきた。  しかも、これまで読んだことはなく、でも、その評価のされ方が、あまりにも独特なので、読んだ。それもまだ1冊しかま

読書感想 『おつかれ、今日の私』 ジェーン・スー 「読むセルフケア」

 著者が土曜日の夜に、いわゆる「人生相談」のラジオ番組をやっている頃は、よく聴いていた。そして、すごいと思っていた。毎日、昼間の帯番組を始めてからは、あまり聞かなくなった。  それは、もともと持っていた「ジェーン・スー」という人の“出力の高さ”を十分に発揮し始めたから、より多くのリスナーにも届くようになった、ということなのだろうし、それは当然で健全なことだと思った。  だから、聞かなくなったのは、自分自身の出力の低さのため、そういうエネルギーを受け止めきれなくなった、とい

『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』 山下澄人 「正統な視点」

 不思議な小説家、という印象があった。  山下澄人の本は気がついたら、5冊ほど読んでいるのだけど、どんな内容だった?(この質問自体が、かなり無意味だとしても)と聞かれたときに、すごく答えにくいし、その小説は読んでいると、あまりに印象が広がりすぎたり、あいまいに感じたりして、自分の力では把握しきれない、と思っている。  さらには、「保坂和志の小説的思考塾」で、配信で画面越しとはいえ、山下澄人と保坂和志が並んで話をしていると、山下は、その画面で初めて見たのだけど、そのたたずま